前回に続き、バタバタしている。
忙しいアピールみたいなのは好きじゃない。どんなに忙しくてもシレッとこなすほうがかっこいいと今でも思っている。けれど日々、やらなくてはいけないことが山盛りで、トラブルもわんさか起こる。一日が目まぐるしくすぎていく。楽しいし、充実しているけれど一日ってこんなに短かったっけ……と、唖然としてしまうことが多い。
「今週は気が抜けない、時間をむだにしないようにしよう」なんて思っている時に限って仕事でトラブルが起きたり、息子がかぜをひいて熱をだしたり、その風邪を自分がくらったりする。私は18歳で仕事を始めてから体が丈夫なのが取り柄だった。高校までは喘息や諸々でよく寝込んでいたが、仕事を始めたらなぜかかぜをひかなくなったのだ。今でも人よりは丈夫だと思うが、人ひとり育てているとそうもいかないのだな、自分のためだけに使える時間(私の場合は主に執筆)が減っているからなぁ……なんて思っている。
さて前置きが長くなったが、今回の話も、締め切りが詰まって気が抜けない日に起こった。息子を保育園に送った帰り道、道端から「みーみー」という、か細い鳴き声が聞こえてきた。そこにいたのは生まれて2,3か月くらいの子猫ちゃん。黒二匹、サビ二匹の計四匹だ。近くには若い母猫の姿もあった。その子たちを目撃した時「あぁ出会ってしまった」と正直思った。見つけてしまったからには彼らをケアしなければならない。
もし、私の生活に余力があれば全員家で飼いたかった。
でも、ただでさえカツカツの毎日だ。息子も小さく、家にはカブトムシもいる(去年義父にいただいたカブトムシが繁殖して今8匹いる。めちゃくちゃご飯のゼリーを食べる。ちなみに私は触ろうと思えば頑張れるが、できれば素手で虫を触りたくない)。実家の母にかなりサポートしてもらい、生活してるのに、ここに猫をプラスしていいのか……そして私には若干猫アレルギーもある。昔猫を飼っていたこともあるので暮らしていけば徐々に慣れるのだけれど……。などなど、一瞬で飼えない言い訳が頭を駆け巡った。
でも出会ってしまったので見殺しにはできない。
私はある保護団体の方に「保護してもらえないだろうか」と電話をかけた。
しかし今依頼が多く、自分で捕まえて持ってきてほしいという旨を、かなりキツい口調で言われた。
(そりゃそうだよな、捕まえてからの保護活動のほうが長いわけだし、私の言い方だと丸投げしているようにとられても仕方ないな)という気持ちと、(でも、もう少しだけ優しく言ってほしいなぁ)という気持ちが7:3くらいで生まれたが、でも出会ってしまったから、せめて保護くらいは協力しようと決意した。
しかし親猫も子猫も警戒心が強い。なるべく一気に全員捕まえたいため、餌付けをして警戒心を薄める作戦にでることにした。四匹の子猫を食べさせていくのは母親も大変だろうという気持ちもあった。
その日から少しずつ餌付けをして慣れさせていく作戦にでた。
サビ子猫は次第に心を開いてくれたが、黒猫はごはんをあげても数メートルほど私が離れないとご飯をたべてくれない。ご飯を置いて離れた場所から見守り、食べ終わったらご飯の容器を回収する。そんな日が数日経過すると、少しずつ黒猫とも距離が縮まっていった。
その間に子猫を引き取ってくれそうな人たちに何人かあたり、全員ではないが飼ってくれそうな人達も見つけた。保護団体の方に預けて終わりではだめだなと思ったからだ。「私は飼えないから、せめてできることは……」と思い、仕事の合間に色々動いた。
あと何日かすれば捕まえられるかも……と思っていた時、自転車に乗った通りがかりの人に声をかけられた。
「その子は君が飼ってるの?」
「いえ、でも今捕まえようとしていて」
私の答えに通りがかりの人は眉をひそめた。
「ええ、飼ってないのに餌をあげるの?」
通りがかりの人は、深いため息をつく。
「今保護しようとしているのだ」と説明する前に、その人は去って行ってしまった。
その人の背中を見つめながら、私はフリーズ状態だった。しばらくすると徐々に思考が追い付いてくる。
(あぁ、野良猫で嫌な思いをしたのかな……そもそも動物が嫌いなのかな。たしかに飼えない私の行動として大正解ではないもんな。嫌な人はいるよな)という気持ちと
(じゃあ見殺しにしろってこと? 飼えない人はなにもしちゃいけないってこと? 声をかけてきたのは文句言う為かよ?)という気持ちが7:3くらいで、いや5:5くらいで沸き上がった。
別に通りがかりの人に認めてほしくてやっているわけじゃないが、文句を言われるとは全く思っていなかったし、その筋合いもない。野良猫と飼い猫どっちが幸せかなんて不毛な話もしたくない。言えることは野良猫の平均寿命と比べると飼い猫の平均寿命は三倍近く長くなる。そもそも人間のせいで野良猫は増えてしまったんだし、毎年何匹の動物たちが殺処分されているのだ。
人それぞれ考えもあるし、通りがかりの人の背景も分からない。私の考えを強要もできない。でも、でも……と、怒りが膨れ上がっていったが、はっと我に返った。
今、私は出会ってしまったから必死にどうにかしようと動いているが、ふだんは特に何をするわけではない。たまに応援している保護団体に寄付するだけだ。通りがかりの人に言われた瞬間は、それはもうめちゃくちゃ腹立ったし、今も完全に怒りは消えていないのだが、私が通りがかりの人を責めるのも違うのかも。人の行動に文句を言ったり責め立てる前に、自分のできる行動をしようと、気持ちを改めた出来事だった(もちろん人としてよろしくない行動をされたときは怒っていいし、責めていいと思います!)。
さて通りがかりの人との会話の翌日、更に心がざわつく事態が起きる。子猫と母親猫がいなくなってしまったのだ。その後もいろいろと出来事があったのだが、長くなってしまったので、続きは次回に……。こういう連載で前後編にしてしまってごめんなさい。
1987年生まれ、神奈川県出身。脚本家・小説家として活躍。主な執筆作品は、「DASADA」「声春っ!」(日本テレビ系)、「花のち晴れ~花男 Next Season」「Heaven?~ご苦楽レストラン」「君の花になる」(TBS系)、映画『ヒロイン失格』、『センセイ君主』など。NHK「恋せぬふたり」で第40回向田邦子賞を受賞。
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第1回:最近、私がグッときたのは、この言葉!
第2回:鉄道は飽きないよ。全然飽きない。もう 100%楽しい。ぶっちゃけ言っちゃえば、もう100%楽しい!
第3回:「気をつけて、だけど恐れずに」クローズアップ現代・沢木耕太郎氏の言葉より。
第4回:「恵里香ちゃん、仕事どう?楽しい?」愛する姪っ子の言葉。
第5回:「つまんない爪と耳になったな」ある人の言葉
第6回:原田泰造さん「このドラマを見て、これはちょっとでも分かってもらえた方がいいのかなって思ってもらえるとうれしい部分もいっぱいあります」
第7回:『別に色恋だけが人生じゃねぇし』「TIGER & BUNNY2」第15話 ライアン・ゴールドスミスの台詞より