またまたご無沙汰しております。みなさまお元気ですか?
このエッセイのコラムを以前更新したのは「虎に翼」第1週が放送されたあとなので、もう1年がとうとしております。時の流れは恐ろしいですね。

言い訳にもならない言い訳をさせていただくと、「虎に翼」の放送が始まった頃は隔週ごとに放送された内容を振り返るつもりでいたのです。ですが執筆に追われ、ほっと一息ついた頃には今更放送を振り返るのもおかしい状況となっていました。

じゃあ最終回のあとに更新しよう……と思っていたはずが、大変ありがたいことにシナリオ集のライナーノーツや紅白のシナリオ、その他諸々もろもろを片付けているうちに気づけば最終回終了から半年が経っておりました。
(※:第75回紅白歌合戦で「虎に翼 紅白特別編」を放送)

第75回NHK紅白歌合戦では審査員に。着物はもちろん、トラ柄。

放送終了後からは忙しくも非常に充実した日々を過ごさせていただいています。(「虎に翼」放送後のことについては総集編Blu-rayの冊子にも寄稿しましたので、もしご購入された方は読んでやってください)


さて、今回のグッときた言葉は、愛する息子の言葉です。

このエッセイを以前から読んでくださっている方は、もしかしたら「アサドラー」というワード覚えてくださっているかもしれません。朝ドラ執筆時、私は「朝ドラ(の締め切り)を倒す・やっつける」という言葉を多用していたのですが、それを聞いた息子は「朝ドラ」を「アサドラー」という怪物か何かと思い込み「なんでアサドラーと闘っているの?」と尋ねてきたのです。(詳しいやりとりはエッセイ第10回目を是非お読みください)

このエッセイを再スタートするにあたり、何を書こうか悩んでいた私は息子とのエピソードを思い出しました。そうだ、息子に「アサドラー」を倒したよと言ってみよう。

息子とお風呂に入り、私はこう切り出してみることにしました。
「ママさ、言ってなかったけど実は倒しちゃったんだよね」
「何を?」
「アサドラー!」
これに返ってきたのが「なに?アサドラーって」だったのです。

「覚えていない? ママがさ、アサドラーの締め切り倒すって言ったら『なんでアサドラーと闘ってるのって?』って聞いてきたんだよ」
息子は浴室の壁に使えるクレヨンでお絵描きをしながら「忘れた」と短く答えた後、こう付け足してきたのです。

「朝ドラって『虎にちゅばさ』のこと?」

そうなのです。翼が“ちゅばさ”になってはしまうものの、あのエッセイから1年以上の時が流れて、彼はすっかりお兄さんになってしまったのです。

朝ドラのオファーをもらった時、まだ2歳になっていなかった息子は今年5歳になります。口が達者になり、なんとなく私の仕事を理解してきているようです。息子は私が仕事をしていると「虎にちゅばさ、書いているの?」と、今も聞いてきます。

 

彼の生きてきた人生のほとんどの期間、私は朝ドラを執筆していたので、仕事=朝ドラなのでしょう。息子の「ちゅばさ」という言い方を聞く度に私は心が温かくなり幸せな気持ちに包まれます。

人生の大きな意味での変化はもちろんですが、日々のささやかな幸せももたらしてくれた「虎に翼」に感謝しつつ、これからも仕事を頑張っていこうと思います。このエッセイも日を開けずに更新していけるよう頑張ります!

1987年生まれ、神奈川県出身。脚本家・小説家として活躍。主な執筆作品は、「DASADA」「声春っ!」(日本テレビ系)、「花のち晴れ~花男 Next Season」「Heaven?~ご苦楽レストラン」「君の花になる」(TBS系)、映画『ヒロイン失格』、『センセイ君主』など。NHK「恋せぬふたり」で第40回向田邦子賞を受賞。