入選作品一覧
「新・介護百人一首2022」へのたくさんのご応募ありがとうございました。
寄せられた短歌13,036首の中から選定された100首を毎週2首ずつ、
ご応募いただいたイラストとともにご紹介します(水曜更新)。
掲載内容は2022年の応募時点の情報に基づいています。
あ
- 伊藤 敦
介護士の その一匙が 震えてる 白粥喉に 通る喜び - 打浪 紘一
冬の朝 歩けぬ義母が 結露した ガラス窓拭く 伝い歩きで - ペンネーム 近江 菫花
寝返りを 打てない母を 寝返らせ 支援ベッドは 月へ傾く - 大山 久喜子
母の居ぬ 家は色が 無いんだと うずくまる父 はげましたる夜 - 大江 美典
彗星の しっぽみたいに カニューレを ひけば歩ける どこまでだって - 磯村 紀咲子
寝たきりの 母が眺むる 空は海 雲は白波 鳥は船なり - 石田 ちづる
光差す 春のロビーの 真ん中に 介護士さんの みどり子抱く母 - 小野 楓奏
初めての 校内実習 声掛けを セリフみたいに 話してしまう - 五十嵐 珠吏
実習を 体験した時 気をつける すぐに使うな 腕の力を - 魚住 悦子
開かずの間 片す側から 取りよける母 幼い私が 作った人形 - 奥津 博士
うとうとと 母のベッドに *うっつぷす 頭なでてた 母の掌 - 浦田 和視
天命は 百二十歳かも 「子供らよ」 同じ施設で 仲良く暮らそ - 江頭 未来
おじいちゃん 若い子見ると スイッチオン 急にどうした やる気を出して - 岩船 真子
ダンディは 寝たきりでも 通します 眉、鼻毛、髭 手鏡を見る - 飯塚 妃夏
ごめんねと 言われて思う ちがうよと ありがとうって 言ってほしい - 植村 貞夫
妻逝きて 電話とだえ 文もなし 遺影に座して 時は止まるや - 大島 士郎
さすり座の 男と称し 妻の背を 擦りて紡ぐ 老いの絆を - 大塚 常代
兵たりし 君ぞと夫を 励まして 痩せに痩せたる 背をさするなり - 東 廣美
なんで又 マスク交換 手をつなぎ 仲良しこよし 言うこと聞かず - 岡田 弘子
「あっかんべ」 そう言いましたか お義母さん 認知症の今も 失礼ですね - 表 いさお
年金から 引かれる介護 保険料 だれかの役に 立っているのだ - 荒尾 洋一
あの父が 新聞やめた どうしよう 施設に送る ぼくの原稿 - 池田 寧音
離乳食 我に飲ませし 祖母の口に 今は我が手で 匙を運ぶ - 石原 心雪
「返事しろ」 鏡の自分に 大激怒 代わって私が 返事してます - ペンネーム 大倉 景輝
予期しない 中途失明 運命と あきらめ生きる われ傘寿なり
か
- 木ノ本 博通
介護受くる 妻の記憶の 片隅に せめて残れよ オーロラの襞 - 後藤 早紀
おもしゃいべ いろんな人が いるもんだ 父の言うこと 今ならわかる - 北原 広江
盆の日に 碁石の壺の ふたをあけ 夫の打つ音 聞えるように - 毛涯 潤
手は自由 こころも自由 足だけは 自由にならず 車椅子漕ぐ - 加藤 文代
毎日は 来なくていいよと 言う母の 一日行かねば どうしたのと問う - 小関 久子
車椅子 押しくるる息子の 白髪の 目立つは言わず 花ふり仰ぐ - 金子 恒子
昭和時代に 看取った親を 思い出す 今生きてれば 手厚い介護を - 菊池 陽
一歳の ひ孫と九五歳の 曾祖母が 会えるんだから 「*アレクサ」お手柄 - 北村 節子
みちのべに 義母と菜花と 葱坊主 デイサービスの 車待ちおり - 木立 徹
反応は なけれど聴覚 残れると 母の大好きな 歌を聞かせる - 北原 俊紀
隔離終え タバコ一服 カヨさんは 誰より早く 日常に戻る - 小松 紀子
ホームにて 身はベッドに 委ねても 洒落の上手な 和顔施の人 - 柏木 玲
もう全て 忘れちまったと 描く祖父の 絵葉書の色の 美しきこと - 貴田 雄介
呆けても 震えておらぶ 祖母の声 生きる姿を 全身で伝う - カイ モー モー ウー
実習で 記録を毎日 書いてたら 介護より日本語 上達してきた
さ
- 佐藤 春夫
ロボット化 したる体を ロボットが 真心持ちて 介護する世くる - 齊藤 敏也
父親の 足の爪切る 風呂上がり 電柱に登り 踏ん張った足の - 佐藤 杏美香
実習で 移乗介助の 最中に 私が怖いと 相手も怖い - 庄野 悦子
誰彼に 「ありがとじます」と お辞儀する 壊れしも父は 礼儀正しい - 新海 純子
「お母さん」 泣いてるあなたを 抱きしめる 泣かせた相手は この私です - 佐藤 優芽
コロナ禍で 面会できず 約2年 祖母の記憶に 私いますか? - 坂江 恭子
今まさに 投票箱に 落ちんとする 聞き書きの票の 行方確かむ - 笹古 紝子
九十の姉より 送られし 脳活本 夢中になりて 食事を忘る - 佐野 一郎
印刷の 操作忘れた 父よもう 買うな六色 プリンターなど - 杉沼 久代
ひさよです まさよじゃないよ ひさよです みさよでもなく ひさえでもなく - 坂本 孝子
見えぬ眼が 母の動きを 追っている 気づいた母が それにうなづく - 砂賀 久美子
すべて悟り 別れ告ぐるか オンライン 画面に夫は 幾度も手を振る - 砂田 悦子
駆けつくる 弟と次女を ひたすらに 母は待ち居り かすかなる息に
た
な
- 長野 久美子
お食べよと 半分折りし バナナをば 我に差し出す 眼差しは母 - 中村 結奈
テレビから 梅雨が明けたの 速報に 施設のみんなで 夏を感じる - 西村 真千子
「お母ちゃんが 毎晩いるの」 と老母いう 窓に映った 自分を見つつ - 根岸 裕幸
亡き母に 尽くしきれたか 悔いがあり 我還暦の 介護士めざす - 中島 正美
長年の うらみつらみを 聞かされて 介護を受ける 身から出たさび - 中澤 ひろみ
今日もいい うんちと笑う 介護士さん 孫の彼氏に なってほしいよ - 新納 玲子
「認知症に なったら楽よ なんもせんで よか」といふ姉の さびしき眼 - 野口 弘
麻痺の掌が 漸く文字の 書けるまで リハビリ五年 復活をみる - 西元 静香
もの忘れ 進めど姑縫う 雑布の 一針一針の 縫い目正しき
は
- 拂川 心和
祖母の手で 洗われる皿 今三周目 洗われた皿 まるで新品 - ペンネーム 藤田 久美子
知人の影 見ゆるたびに 「戻れ」とか 「曲がれ」とか言ふ 車椅子より - 馬場 仁那
利用者を ありのままにて 受けとめて つらい気持ちを 半分こだよ - 樋口 淳一郎
倒れるまい 強くベルトを つかまれて 父の生への 執念を知る - 福永 実優
おじいちゃん なんだか今日は 食べづらそう マットの下から 入れ歯見つかる - 藤原 羽奈
最終日 「また明日ね」と 手を振られ 笑顔で「はい」と 言えぬ夕方 - 藤井 ふさ子
叶へられし 願ひなれども 夫の世話 手より離せば 広がる空白 - 藤田 與一
盆棚も 迎火もなき 老施設 亡き妻の写真へ 手を合わす - 本田 朱奈
おばあさん 骨は固まっても 明るく話しかけ 心は絶対に 固まらせない - 林 莉央
ミサンガを 二人で一つ つくったら 沢山聞けた 思い出ばなし - 弘中 光子
車椅子に 座り続けて 十五時間 就寝ヘルパー 待つ間の長し - 藤原 愛優花
ありがとう 介護の夢を くれた母 今でも母を 目指しつづける - 星野 愛香
おじいちゃんの 作ってくれた オムライス あやってだあれ 名前がちがう
ま
- 森村 貴和子
声高く 「あ」のつく歌から 順番に 母と歌えり 春のドライブ - 蓑輪 侑未
寝る前に じっくり実習 シミュレーション 完璧だったよ 夢の中では - 森 蒼太
お婆さん 血圧検査で 痛がるも まさかの演技 冷汗をかく - 三橋 昭子
病みてのち 杖に頼れる 身となれど 成したきことの 夢多く持つ - 松尾 理佳
帰りたいが 妻も持病が ありますと 施設に入った 強い父逝く - 森田 稔
吾に宛てし ただ一行の ラブレター 日帰り介護の 嬉しき成果 - 見竹 菜帆
この先は 安泰だと言う 祖父母たち だって私が 介護福祉士 - 宮坂 茉利子
聞こえない マスク外してと 言われるよ 外したいけど 出来ない世界 - 六車 正子
リモートに 孫三人の 見舞受く パジャマの衿元 ととのえながら
や
わ