入選作品一覧
「新・介護百人一首2023」へのたくさんのご応募ありがとうございました。
寄せられた短歌14,196首の中から選定された100首を毎週2首ずつ、
ご応募いただいたイラストとともにご紹介します(水曜更新)。
掲載内容は2023年の応募時点の情報に基づいています。
あ
- 田中 貴子
お互いの 介護生活 予行する 痛む手足に 湿布貼りあう - 青山 凜乃
利用者と 話せなくても 会話する 縦へ横へと 首振ることで - 阿部 千代子
ごめんなさい あやまりながら そっと押す 深夜の病室の ナースコール - 池谷 明日加
「流れより 好みを選べ 若人よ」 そう言う貴方が 選べていない - 石山 基
アンケート 緊急時の 手助けは 借りる名もなし 空欄で出す - 磯貝 幸子
曽孫より 届きし俳句を 推敲す 学びし講座が 今役に立ちぬ - 伊藤 鈴奈
妹が 寝ている隙に 練習し 介護士の気分 味わってみる - 井上 信隆
「我が妻は 世界一です」 大声で 叫んだ空は なまり色して - 井上 実咲
利用者と 話すうちに つく知識 平成生まれ 心は昭和 - 猪瀬 さと子
苦労して 来たよ笑顔で 話す九十二歳 老女の指は 九本曲がって - 今村 美音
桜の木 幼いころに 見た目線 車いすから 同じ景色を - 上田 ちえこ
大寒の 水は甘いの 一言が 母の最期の 言葉となりぬ - 打浪 紘一
参道の 砂利で進まぬ 車椅子 五歳の吾子が 懸命に押す - 浦田 和視
コロナにも 負けずに生きた 翁たち 般若湯のむ 施設の隅で - 大森 やよゑ
*ALS ここまで来たよ 四肢麻痺の うえしゃべれない まだ先あるの? - 岡田 淳吾
夕寝して 外が明るく ならないと もやのかかった 午後九時の父 - 岡部 晋一
車椅子 押されて踊る 盆踊り 手だけ踊るも 心も踊る - 小島 富美子
口にした 荒い言葉を 巻き戻し 腹に収める 装置が欲しい - 小野 史
あやとりで 会話を紡ぐ 宵涼み 川から舟へ 星がきれいだ - 朝岡 剛
息子だと 何度喉まで 出たことか 我親切な 職員演ず - 押切 圭子
摘便の プロは俺よと 笑む夫に 背中で謝する 午前二時過ぎ
か
- 門田 通子
差し入れの すいかがいつしか 梨になり 部屋に居りても 秋が近くに - 木村 愛海
おばあちゃん べっちょないで 気にすんな 一緒にしよう できないことは - 加藤 直子
ほめられたい 認められたい 役立ちたい 三匹のたいが 生きる力に - 金子 朗子
なぜだろう 靴履く背中に 話し出す まだいてほしいのか さびしいからか - 神村 幸子
米とぎを 一時間する 母の背に 夕日さし込む 西角の窓 - 川井 静子
丁寧な 日本語でベトナムの ワーカーさん 思わず返す そうでございますと - 河野 純也
実習も 終わる日となり Aさんに 向けた笑顔が つーんと涙に - 北沢 裕惠
吾が腕を 終の枕に 覚むるなき 眠りに就きし 夫のこほしも - 窪田 淳
目を閉じて 寝てると思った 利用者さん ゼリー食べたぞ 起きていたのか - 幸村 愛夢
会う度に ひ孫をみたいと いわれるけど 私はまだ 十七歳 - 古賀 美空
兄さんに 会えたと喜ぶ 我が祖父に 兄を演じる 父の横顔
さ
- 阪野 光子
わが夫の ずしりと重き 尿パック けなげに運ぶ 孫も介護者 - 鈴木 みき
介護のため 車を購い 姑の元に 六万余キロ 七年通いき - 清水 颯汰
寝たきりの 祖母が見上げる この天井 変わることない 白き空かな - 齋木 淑子
「口開けて、 もう少し食べて」 声掛けする 食べたくない時 自分もあるのに - ペンネーム さいとう すみこ
吸い飲みを 買いに寄り道 してる間に あなたをひとりで 死なせてしまった - ペンネーム さくら じゅんこ
入居者を 祖母と重ねて 夏すみれ 居室で眺め 笑顔こぼれる - 佐藤 未桜
実習で 夜勤の見回り していたら 暗闇の中 たたずむ利用者 - 佐野 健也
「入らない」 入浴前は 断るも お湯につかると 「まだ上がらない」 - 鈴木 瑠菜
寝たきりの 母の隣で 本を読む 涙で文字が 読めないの - 砂賀 久美子
闘病の 歌らしき文字 亡き夫の 未完の三首に 思ひめぐらす - 佐伯 俊典
だれすまぬ 実家を訪ね 草むしり 父のおしゃれ着 作業着となる - 佐藤 隆司
慶ちゃんを 次の一手で テーブルへ 押す車椅子 桂馬の動き - 添島 貴美代
一年に 一度しか来ぬ 叔母が来て 祖父は自分の 余命を知りぬ