グッとくる、という言葉が好きだ。
良くも悪くも、人生を一変するような衝撃ではない。心の端っこを「わしゃり」と掴まれたような、その程度の小さな衝撃。けれど、いつまでも心の端っこに「わしゃり」の感覚が残り続ける。そんなイメージが、グッとくるにはある。
この連載では、テレビやニュース番組、日常生活など私が出会った「グッときた言葉」について、あれこれとお話していくつもりだ。
さて、そんな連載第一回に選んだのは
【私の人生に何かいっていいのは私だけ。私の幸せを決めるのは私だけ】
テレビドラマ『恋せぬふたり』で、最終回のラストにアロマンティック・アセクシュアルである主人公・咲子が放つ言葉である。

この脚本を書いたのは、吉田恵里香―――そう、私だ。
初回が自分で書いた脚本の台詞というのは自画自賛が過ぎる気もするが、自己紹介代わりということで勘弁していただきたい。
脚本に限らず、物語を紡ぐ時は、いかに誰かの心に寄り添えるかを考えている。
私の関わる作品に触れてくれた全ての人に、その中でも日々生きづらさや息苦しさを感じている人の心が、ほんの少しでも軽くなるようなものにしたい。物語の本軸でなくてもいい。ちょっとしたワンシーンが誰かの心を照らせたら、こんなに嬉しいことはない。
とにかくそんなことを胸に執筆しているので、各作品ごとに自分でもグッとくる言葉をひとつは作ることを目標にしている。それは決め台詞とか、自分の台詞に酔うとか、そういうのとはまた違う。きっと誰かに寄り添ってくれるだろう、ちょっとだけ胸を張れるものだ。『恋せぬふたり』は自分にとって大切な台詞の多い作品だが、特に最終回のこれは常々自分が考えていることを集約できたと思っている。

人は周りの目をどうしても気にしてしまうし、誰かの不用意な言葉に傷ついたり振りまわされたりしてしまうものだ。でも人生は一度きり。その人だけのものだ。
「何を当たり前のことを偉そうに言っているんだ」と思われる方もいるだろう。でも、そんな当たり前のことをなぜか皆忘れてしまう。日々心をすり減らして生きている人は特にそうだ。この台詞を書いた時に「あぁ、こういうことをこれからも伝えていきたいんだな、私は」と、すとんと腑に落ちたのである。
ここまで読んで頂いて「こいつ、やはり自画自賛が過ぎるな」「自分の書いた台詞にドヤれるな」と眉をひそめた方、私もちょっとそう思いながら書いている。
でも、私は自分の紡いだ物語に胸を張りたい。自画自賛万歳の精神で図太く生きていきたい。私の幸せを決めるのは私だけだから。
こんなことを考えている私の連載、これからもお付き合いいただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。
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1987年生まれ、神奈川県出身。脚本家・小説家として活躍。主な執筆作品は、「DASADA」「声春っ!」(日本テレビ系)、「花のち晴れ~花男 Next Season」「Heaven?~ご苦楽レストラン」「君の花になる」(TBS系)、映画『ヒロイン失格』、『センセイ君主』など。NHK「恋せぬふたり」で第40回向田邦子賞を受賞。