先日情報解禁がありましたが、
2024年度前期連続テレビ小説「虎に翼」脚本担当することになりました。
ずっと夢だった朝ドラ脚本執筆。40歳になるまでに朝ドラを書くことを漠然と目標にして生きてきたので、とても嬉しいです。頑張ります、頑張っています。
その前に3月24日金曜日に「生理のおじさんとその娘」の放送もあります。
どちらもよろしくお願いいたします。
というわけで、お陰様でバタバタした毎日を過ごさせてもらっている。
最高に楽しいけれど毎日うんうんと唸って悩んで疲れ果てて、仕事が残っているのに息子の寝かしつけの時に寝落ちして気づいたら朝で青ざめる。そんなことが日常茶飯事だ。この連載も編集さんにはご迷惑をおかけしてしまっている(キチンと更新できるように頑張ります)。
私は仕事が好きだし、忙しい毎日が好きだ。物語を考えている時が、本当に幸せだ。
でも、連日のバタバタや日々のトラブルなどで、げんなりしてしまうこともある。そんな時、私の脳みそは「怒り」をガソリンにして、私を働かせようとする傾向がある。
先日、げんなりタイムの際に、ふと頭に蘇ったのが今回のグッときた言葉だ。
この連載で初めての怒り・負の方向で心を揺さぶった一言である。
息子の妊娠が分かった時、私は仕事のやり方を考えなければならなかった。
ありがたいことに、妊娠時、出産予定日前後の仕事も決まっていた。その仕事を断るか引き受けるかを決めなければならなかった。諦めなければいけないかなぁと思っていたのだが、家族や事務所、そしてその当時お仕事をさせていただいていた方々の優しさのお陰で私は仕事を諦めず行うことができた。そのお陰でありがたいことにキャリアを重ねることができたし、今も出産前と、ほぼ変わらず仕事を続けている。この決断があったから、朝ドラのお仕事を頂けたと言っても過言ではない。
仕事を諦めないと決めたので、私は別の何かを諦めなければならなかった。
時間は有限で、どんな人にも平等に与えられる。だから新しいことを始めようとすると、今まで行っていた何かを捨てるなり削るなりしないといけない。私が削ったことのひとつがネイルと食べ物イヤリングだった。
私は昔から食べ物サンプルが好きで、ネイルもイヤリングも食べ物をテーマにすることが多かった。打ち合わせの雑談のネタになったし、SNSのネタにもなったし(物書きのSNSって、あげることが情報解禁以外ほぼない)、一石何鳥にもなる趣味だった。元々妊娠中はネイルをしていなかったし、コロナで外出も減ってイヤリングをする機会は失われたので、意識してその趣味を削ったというより、自然にそこに費やす時間が減ったというほうが正しいかもしれない。
現在は頑張ればネイルに時間をさけると思うのだが、今はその時間にあてるならば仕事や子供と遊ぶ時間の方が優先順位・幸せ順位があがってお休みしている(と言いつつ、そのうち、急に再開するかも)。食べ物イヤリングは、つけた瞬間に息子にむしり取られるので、同様にお休み中だ(家の中で取り出して愛でたりはする。イヤリングをむしり取るやんちゃな息子が最高に愛おしいので仕方ない)。
物事には優先順位があるし、今この2つの趣味をお休みしていることにストレスはないし、後悔もない……とは言い切れない。だって育児も仕事も、趣味をお休みすることも何が正解かは正直分からないから。元々ケアレスミスは多い自負はあるが、妊娠出産前後は誤字も特に多かったし、時間の使い方は未だに正解が分からない。日々迷いながら、過ごしている。
そんな私の状況など知る訳がない、ある人に、打ち合わせの場で言われたのが
「つまんない爪と耳になったな」だった。
出産後、久しぶりに会った際のことだった。
言った人は笑っていた。言われた私も「そうなんですよ~」と笑って流した。でも打ち合わせ後も、帰り道も、息子の寝かしつけの時も、そのワードが何度も蘇った。
つまんないってなんだよ、別に誰かを面白がらせる為にやっているわけじゃない、自分の為にやってるんですよ。
言った人はきっと忘れている。そして深い意味があった訳じゃないと思う。その人のことは基本好きだし、別にこれを言われたからってどうこうとかはない。
でも、げんなりタイムの時に結構この時の言葉が蘇ってくる。
きっと、私の中にあった【出産を経て自分が何か変わってしまっていないか、面白くなくなってないか?】みたいな、頭ではそんなことないと分かっているのに浮かんできてしまう不安に直撃してしまったんだと思う。
げんなりする私は、思い出し怒りをしてから心の中で、こんなことを自分に言い聞かせる。出産うんぬんではなく、過去の私より今の私のほうが面白い。今がベストだ。
ていうか、私の身体につまんない部分なんてないし!
こうして怒りをガソリンに、私は今日もパソコンの前でうんうん唸り続けている。
不毛な気もするし、私はこういう小さな怒りや生きづらさに少しでも希望を見出す作品を作りたい訳だから、正当なやる気の出し方な気もしている。
うん、書いていたらまた思い出し怒りできてきた。仕事頑張ります。
1987年生まれ、神奈川県出身。脚本家・小説家として活躍。主な執筆作品は、「DASADA」「声春っ!」(日本テレビ系)、「花のち晴れ~花男 Next Season」「Heaven?~ご苦楽レストラン」「君の花になる」(TBS系)、映画『ヒロイン失格』、『センセイ君主』など。NHK「恋せぬふたり」で第40回向田邦子賞を受賞。
過去の記事>>
第1回:最近、私がグッときたのは、この言葉!
第2回:鉄道は飽きないよ。全然飽きない。もう 100%楽しい。ぶっちゃけ言っちゃえば、もう100%楽しい!
第3回:「気をつけて、だけど恐れずに」クローズアップ現代・沢木耕太郎氏の言葉より。
第4回:「恵里香ちゃん、仕事どう?楽しい?」愛する姪っ子の言葉。