【普通】が怖い。
正確にいうと【普通】という言葉が持つ暴力性が、怖い。
「普通、〇〇でしょ」「〇〇なのって、普通だから」
そんな言い回しを人々は多用する。私も気を抜くと無意識に使ってしまう。
【普通】を辞書でひくと『その事柄が多くの事例にあてはまるさま』とある。当然、単語自体に差別的な意味合いはない。だからみんな軽々しく使ってしまう。それは、みんなと同調したい時や自身を正当化したい時に使われる。この言葉を使う時、【普通】に当てはまらない人達のことは大抵考えられていないように思う。考えられていないどころか、普通になる努力をしていない者、もしくは、この世界にいない者として扱われてしまうのだ。
前置きが長くなったが、今回私がぐっときたのはNHKスペシャル「キラキラムチュー ~発達障害と生きる~」(初回放送:2022年12月3日)に登場した鉄道を愛する少年・睦弥君が発した言葉だ。
この番組は「発達障害の子ども支援」についてのもので、子ども達が興味を持ったこと・好きなことに時間を費やすことで、社会参加や自立生活に良い影響を与え、生活を豊かにするというものだった。
思春期を迎えている睦弥君は学業・世の中の生きづらさ・周りとのズレを感じながらも日々を懸命に過ごしている。落ち込むこと、しんどいこともある中で、休みの日、大好きな鉄道に触れることで元気を取り戻すのだそうだ。
そんな中で発せられる言葉が【鉄道は飽きないよ。全然飽きない。もう100%楽しい。ぶっちゃけ言っちゃえば、もう100%楽しい!】だ。鉄道について語る彼の顔はキラキラ輝いていて、本当にすてきなので、是非番組を観てみて欲しい。
苦手なことばかりに縛り付けるのではなく、好きなことから何かを伸ばしていくこと。個人的には大大大賛成だ。私にも2歳の息子がいる。息子も好きなことを伸ばしてあげたいし、いつか睦弥君のように夢中になれるものができて「100%楽しい」と目を輝かせてくれたら、それだけで幸せだと本当に思っている。
そして、こういうことを言っていると「綺麗事だ」なんて言われてしまうことも分かっている。誰かが勝手に決めたカギカッコつきの『普通』を求められる社会で生きていくことは苦しく、過酷だ。理想通りでは済まない問題もたくさんある(だから、こんな世の中になっている訳だし)。
それに当事者にしか分かり得ないもの、恐らく当事者に一番近い家族にだって埋められない溝のようなものがあるはずだ。外野の私が理想を語ることが、誰かを傷つけることがあるのも分かっている。人が他者を完璧に理解するなんていうことは不可能だから。
でも、外野だから、当事者じゃないから、で終わっていては何も変わらない。それはていの良い言い訳だ。
普段、私は【普通】への問題提起を物語(というかエンタメ)にまぶしながら執筆をしている。まぶすという言葉を使うのは、真正面から訴えても、啓蒙的なんて言葉に包まれて見向きもされないことを知っているからだ。でも、今日は真正面から伝えさせて欲しい。
発達障害という言葉は、世の中に浸透しているものの、どういった特性があるのか、どんなサポートが必要なのかまでは理解している人は少ない。理解する努力をすることもなく大多数の人は「普通」ではない子という雑な切り分け方をして思考停止をしている。
けれども、世の中を変える為に動くべきは、かぎかっこつきの【普通】を多用してしまう私達なのだ。生きづらさを感じる子ども達が少しでも生きやすい世の中、空気を作る為に、外野で非当事者の私達ができる第一歩は何か……私は【普通】の押し付けをやめることじゃないか。
ぎゅうぎゅうと押し付けるのではなく「色んな人がいるなぁ」と、ふんわりと包み込むことなんだと思う。すべての子ども達が「100%楽しい」と目を輝かせられる世の中にしていきたい、していきましょう。
1987年生まれ、神奈川県出身。脚本家・小説家として活躍。主な執筆作品は、「DASADA」「声春っ!」(日本テレビ系)、「花のち晴れ~花男 Next Season」「Heaven?~ご苦楽レストラン」「君の花になる」(TBS系)、映画『ヒロイン失格』、『センセイ君主』など。NHK「恋せぬふたり」で第40回向田邦子賞を受賞。