ふじわらのかた(南沙良)を盗賊から助けたことがきっかけで、まひろ(吉高由里子)一家との接点を持った双寿丸そうじゅまる。いと(信川清順)から疎まれながらも、毎日のように賢子のもとを訪ねるのはなぜか。オリジナルキャラクターを演じる、伊藤健太郎に聞いた。


現場に途中参戦する気持ちと、双寿丸が賢子の一家に入り込む感じがリンク

——大河ドラマ初出演ですが、いかがですか?

どの現場も同じ心持ちで挑ませていただいていますが、大河ドラマに出るのは目標だったので、オファーを受けたときは非常にうれしかったです。

大河ドラマは、長い撮影期間の中で各キャラクターが成長し、それとともに役者としても成長するものだと考えていました。僕は後半からの参戦だったので期間は長くありませんが、少しでも成長できればと思っています。

映画と違って大河ドラマは監督が大勢いるので、それぞれの方が求めるものに合わせるのは、すごくおもしろい経験だと感じています。

——実際に現場に入ってみての感想は?

セットや小道具などの美術が素晴すばらしいですね。衣装を着て烏帽子えぼしをかぶると、勝手に平安の世に自分がいると思えるくらい、役に入りやすいです。僕はセットや小道具から芝居のヒントをもらうことが多いので、スタッフの方々が環境を整えてくれるのは、とてもありがたいです。

スタッフも、以前ご一緒させていただいたドラマ(「アシガール」シリーズや連続テレビ小説「スカーレット」)の方が結構いらっしゃって、すごく楽しく撮影させていただいてます。雰囲気の出来上がった現場に飛び込む自分の気持ちと、双寿丸が賢子の一家に入りこんでいく感じがリンクして、お芝居としても助けられました。


賢子の家に通うのは、おいしいご飯をゆっくりと食べられるから

——双寿丸はオリジナルキャラクターですが、演じられての印象は?

すごくまっすぐな男の子です。18歳というと今だと若いですけど、平安時代では大人ですね。賢子に対してもですが、全てのことに対して非常に誠実で、好青年だと思います。

——セリフだけ読むと、少し冷たい印象もありますが……。

確かにセリフだけ読んでいると、ちょっと冷たく感じると思います。現場でも話していたんですけど、サークルの2つ上の先輩と、それを好きになった後輩の女の子みたいな関係性ですよね(笑)。はっきり物を言う役なので、なるべく笑顔を絶やさないようにしています。

——賢子が双寿丸に好意を寄せていることには気づいているんですか?

もちろん、それは感じています。最初は男として好意を持たれているというより、兄のようになついてくれているな、くらいの感覚でしたけど。

——兄のように、ですか。

賢子を助けたのは双寿丸の正義感からです。それが、賢子から「またご飯食べにおいでよ」と言われて、ご飯がおいしいから通ううちに一緒にいる時間も増えて、年齢も近くて、自分になついてくれて……。双寿丸にとって初めてのことだったと思います。

何度も家に行くうち、その居心地のよさから双寿丸自身も「こんなわいい妹がいたら楽しかっただろうな」と思うようになったんだと思います。

——賢子は貴族ですけど、そのことに対して双寿丸はどう見ていますか?

双寿丸は身分で相手を見る人間ではないので、賢子が貴族だからといって気にすることはありません。あくまでも親切にしてくれる人のうちのひとりで、例えば街を歩いているときに「これ食べなよ」って食べ物を差し出してくれるおばちゃんと同じです。

賢子の家に通うのは本当に腹がへっていて、おいしいご飯をゆっくりと食べられるからだと思うんです。で、行くとやっぱり居心地がいい。その空気を作っているのが、賢子とその家族だった……。そういう位置づけなんじゃないでしょうか。

撮影では、本当にご飯をたくさん食べてます。「日本昔話」みたいに大盛でよそってあって、またおいしいんですよ。いくらでも食べられるぐらい。


野良犬みたいな双寿丸は、家庭の温かさに憧れを持っている

——双寿丸と伊藤さんとで、似た部分はありますか?

僕も駆け引きや回りくどく言うことはあまり得意じゃないので、まっすぐ思いを伝える部分に関しては共感でき、演じやすいところはありますね。もちろん、まだシーンごとに模索する部分はありますが……。

——双寿丸のバックボーンについて、どのように考えていますか?

双寿丸は野良犬みたいなやつなので(笑)、こんなにゆっくりご飯を食べられる生活があることを、賢子の家で初めて経験したと思うんです。そんな新鮮な感覚を大切にしています。

直接的には描かれていませんが、双寿丸には非常につらい時期、ひとり涙を流すような日もあったと考えています。だから、経験したことのない家庭の温かさに対する憧れを持っていて、賢子とまひろのやりとりを、ほほましいというか、うらやましそうな表情で見るなど、シーンごとに意識して演じています。

——まひろと初めて会った時の印象は?

なんだか不思議な人だな、でも悪い人じゃないんだろうなと思いました。双寿丸が家にいることを、いとが嫌がっても、「いいじゃない」と心を開いてくれて……。双寿丸は、身分が違えども相手に対して卑屈になるとか態度を大きく変えることはありません。まひろが双寿丸に対してフラットに接してくれるところなど、ふたりには相通ずるものがあると思います。

——吉高さんの印象はいかがですか?

吉高さんとは以前CMで共演したことがあって、「大人になったね、男になったね」と言われました(笑)。とても面白い方で話しやすく、座長の吉高さんの人柄だと思うんですけど、すごく和やかで温かい、家族みたいな雰囲気の現場を作ってらっしゃいます。

——いととの関係も楽しいですね。

いとさんとのシーンは、コメディーパートのようになっていますね。双寿丸のことを、最初はすごく毛嫌いしていたのに、双寿丸が賢子のもとに通うのは「あんたの飯がうまいから」って言うと、「まあ、口がうまいこと!」とか言いながら、案外うれしそうなんですよ。だんだん受け入れてくれてる感じがあって、このふたりの関係性も面白くて好きです。


武者と言っても下っ端なので刀は持てず、戦には木の棒を持っていく

——あまり武者役の出ないドラマですが、表現で気をつけていることはありますか?

貴族を中心に描かれるドラマではありますが、この時代に社会を支えていたのは貴族以外の人たちでもあったわけです。だから、この世界に馴染なじむことよりも、「自分は自分のルールに従って生きている」という感覚を大切にしています。

——所作で気をつけていることはありますか?

座るときは左足を前にして足を組むなど、この時代の基本的な所作は教わりましたが、「双寿丸は、そこまで意識しなくてもいい」と言われました。だから、あぐらをかいているときに、後ろ手をついて体を支えるなど、姿勢を崩しています。あの時代の人たちはそんな姿勢をとることはなかったでしょうけど、違いは出したいし、双寿丸なら大丈夫と言われたので。

——武者として、弓や殺陣たてなどのレッスンはしていますか?

賢子を助ける場面でのアクション以外は、乗馬の練習くらいです。

今のところ、アクションシーンは全部素手なんですよ。監督に「双寿丸は刀を持ちますか?」と聞いたら、「下っ端の下っ端だから刀は持てないです」と言われて、戦いに行くときも木の棒を持って行くんです。

もしかしたら倒した敵から武器を奪って戦うのかもしれませんが、基本的には何の装備もなく突っ込んでいくタイプです。あとは、石とか手近にある物を投げるんじゃないですか(笑)。

——「アシガール」との類似点はありますか?

「アシガール」では、ゆいすけ(黒島結菜)が足軽で僕が若君でしたが、「光る君へ」では、賢子が貴族で僕が武者と、関係性が真逆です。でも、立場は違えども、若君と双寿丸の目指している世界は、双寿丸のセリフにあるように、「いくさをやらずに済めば、それが一番良い」というものです。ふたりの戦に対する考え方は似ているなと思います。

——これからの展開に期待することは?

オリジナルキャラクターなんで、最後は死ぬんじゃないかと怖いんですよね。作品としては、きっと盛り上がるんでしょうけど(笑)。最後まで生きて終わりたいです。