まひろ(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)が10代のころから、ふたりの恋を陰で支え、見守ってきた従者の乙丸と百舌彦。SNSでは「#オトモズ」(乙+百舌=お供ズ)として人気を集めるが、本当の関係性や素顔はどうなのか。演じる矢部太郎と本多力に対談形式で聞いた。
乙丸と百舌彦の関係は「ソウルメイト」
——乙丸(矢部太郎)と百舌彦(本多力)、お互いのことはどう思っていらっしゃるんですか?
本多:百舌彦は、乙丸のことをちょっと下に思っているかな。
矢部:え、ちょっと!
本多:だって、台本にそう書いてあるんですもん。身分に少し違いがありますからね。
矢部:その感じを、本多さんが僕に対して出してくるときがあるんですよ。
本多:矢部さんが懐の広い先輩なので、ちょっといたずらしたくなるんです。
矢部:百舌彦さんの方が立場は上だけど、同じ従者という点で繋がっていますね。本多さんは乙丸のことを「ソウルメイト」と言ってくれましたから。姫様(まひろ)と若君(道長)と同じように、我々も。
本多:だから、乙丸がさわ(野村麻純)さんの従者の方と仲よくなりそうになったとき、ムッといやな気持ちになって(笑)、やきもちを焼いていました。
矢部:台本では、さわさんの従者には名前がなくて、星耕介さんという方が演じていらしたので、皆さん「星丸さん」って呼んでいました。
本多:めっちゃ、乙丸に寄せているじゃないですか!
矢部:乙丸・星丸で、ちょっとファミリーみたいな(笑)。一時期そっちに気持ちが行きかけましたけれども、やっぱり乙丸は百舌彦さんで。
本多:よかったです。
——本多さんと矢部さんの共演は初めてですか?
本多:以前、矢部さんが主演されたドラマに出演させていただいたのですが、同じシーンはなく、ご挨拶しただけだったので、一緒に撮影するのは……。
矢部:「光る君へ」が初めてですね。僕はそれほどドラマに出た経験がないので、知っているキャストの方があまりいなかったんです。もちろん後輩の金田哲(斉信役)くんと秋山竜次(実資役)くんは知っていますけれども、一緒のシーンはないので。そんななか、本多さんはお会いしたことがあったから、「知ってる方がいた!」と、うれしいというか、落ち着くというか……。
本多:僕は、矢部さんに丸坊主のイメージがあったので、「髪の毛、長っ!」って思いました(笑)。
矢部:カツラが半カツラといって、地毛となじませるタイプなので、伸ばしたんです。
本多:僕も横は地毛を使っているので、散髪する時に「横は切らないで」と美容師さんに言ったら、いっさい切ってもらえなくなって、横だけ伸びちゃって……。
矢部:だから僕は、全体を伸ばすことにしました。
本多:そっちに舵を切ったんですね。秋山さんや佑さんのように髪の毛が長い方は、カツラを使わずに地毛を結っているんですよね。
矢部:百舌彦さんも、そっちに行ったらいいんじゃないですか。
本多:えー、伸ばすんですか? 半カツラ勢から、地毛勢に?(笑)
百舌彦は今でもぬいと続いている……!?
——お互いの演技で、刺激を受けるところは?
矢部:僕は、本多さんが演技のアイデアをたくさん出しているのが、すごいと思います。「このシーン、こういうふうにしてみてもいいですか?」とか、少しでもいいシーンにしようとしていて。で、監督さんに「それはやらないでください」と言われたりして……(笑)。
本多:そういうこともありますね(苦笑)。 矢部さんは表情がすごく引き込まれますね。何を考えているのか、よくわからない感じで……。演技をするときって、わかりやすい表情をしがちだけど、矢部さんはそういうところが削ぎ落とされていて、おもしろいです。仙人みたいで……。
矢部:仙人! うれしいです、仙人……。
——乙丸は、きぬ(蔵下穂波)を越前から連れて帰りましたが、ご感想は?
矢部:びっくりしました。少し前の回で「この身ひとつ、姫様をお守りするだけで、日々精一杯」と言っていたばかりなのに……。
本多:人間ですね……(笑)。
矢部:姫様のためにウニを求めに行って、そこできぬと出会って、良いウニをもらうために話しているうち、付き合っちゃったのかな。それだけ魅力的な人間なんですよ、乙丸は。
本多:彼女ができたら急に態度が変わるタイプなんですね(笑)。
矢部:百舌彦さんにも紹介しますから、きぬの越前の友達を(笑)。
本多:いや、僕には、ぬい(野呂佳代)さんがいるんで。
矢部:ぬいさん!? 何年前の話ですか!
本多:いやいや、まだ続いているんで。
矢部:えええ?
乙丸が仕えるのは“家”、百舌彦は“道長”
——演じている役柄について、どのように感じていますか。
矢部:為時(岸谷五朗)様の家が貧しく、働いていた皆さんが離れていっても乙丸は残りましたから、忠義の心というか、姫様と為時様にお仕えする気持ちがすごく強いと思います。お方様(ちやは/国仲涼子)が亡くなったとき、役に立たなかったこともありますし……。
本多:いや、本当に。残念なくらい、一切役に立ってなかったですね。
矢部:何をしていたんだって後悔が、ずっとあると思うんです。そうした中で、姫様には健やかに育ってほしい、幸せになってほしいと、自分より優先させているんじゃないかと思います。
本多:散楽の一座で騒ぎになったときも、まひろさんを守りにいってましたね。放免(検非違使庁の下級刑吏)に対して。一発でKOされていましたけど。
矢部:でも、乙丸がいなかったら、パンチがまひろ様に当たっていたわけですから。
本多:そこは、お方様のときとは違いますね。
矢部:違います。それ、大事なところですから。
本多:立場の違いで言うと、乙丸は為時さんの“家”に仕えているけれど、百舌彦は“道長様だけ”に仕えているんですよ。だから、道長様が兄弟や肉親に対しても見せられない部分を出せる、ガス抜きの場所になればいいなと思っています。人には言えないこと、見せたいことのない表情を見せてもらえたら、と。
矢部:なるほど。
本多:道長様は、誰に対しても誠実なんです。百舌彦にも人として接してくれますし、乙丸のこともちゃんと認識してるし……。それと佑さんのきれいな目が魅力的で、全部が見透かされているような鋭さもあります。そういう人だから、国を治めていけるんですよね。
——回を重ねて、何か変化はありますか?
本多:百舌彦は、何話も連続で出演しないことがあるんです。だから「このままいなくなったらどうしよう?」という不安が、回を重ねることに増えました。台本を待っている時間がいちばん緊張します。台本が届くと、ハァハァしながら台本を開いて、「乙丸はいる。……あ、百舌彦もいたっ! よかった、生きてたー」って。
矢部:ははは。百舌彦さんが兼家(段田安則)さんに叱責されて、クビになりそうなことがあったじゃないですか。あれ、僕もビクッとなって、「他人事じゃない」って感覚がありましたね。でも、百舌彦さんは、話が進むにつれて道長様と一緒に出世していかれて。
本多:そうなんですよ。自分はずっと従者だと思っていたんですけど、位も上がって……。 こんな人生だとは、思っていなかったですね。
まひろと道長の逢瀬は、帰る道中が切ない
——まひろと道長の恋模様については、どのようにご覧になっていますか。
矢部:乙丸は「若君、もういい加減にしてくださいませ」と、かなり出過ぎた発言をしましたね。
本多:出過ぎです。でも、あそこに乙丸の一途さが出ていましたけれど。
矢部:百舌彦さんも同じように思っていたでしょう?
本多:やめといた方がいいのに、とは思っていますね。道長様はすごくすてきな男性ですし、結ばれたら幸せになるんだろうな、とは思うけれど、道長様には道長様の家庭があるから、「ややこしくなるのもなぁ……」みたいな。難しい恋をされているな、と。
矢部:ずっと続いてらっしゃるからね、あのふたりは。あの切ない感じが、いいのかも。
本多:切ないと言えば、ふたりが六条の廃屋で会うとき、従者たちも少し離れたところで待っていたと思うんですね、夜だし。そのあと、乙丸と百舌彦が、それぞれの主を家に連れて帰る道中を想像すると切ないです。
矢部:そうですね。廃屋で何があったのか、こちら側からは聞かないし、おふたりもお話しにならないでしょうから。
本多:その心中を察して、主従だけで一緒に帰る道のりが、切なさもあるけど、特別な時間なんじゃないかな、と思います。
矢部:そうですね。お仕えしている方に幸せになっていただきたいという思いが第一にありますから。
——これまでの出演場面で、活躍できたと思うシーンを教えてください。
矢部:うーん、すぐには出てこないですねぇ。
本多:矢部さん、まひろさんが辻の地面に小枝で文字を書いて、読み書き教室をPRしていたとき、「乙丸だ~、俺の名前だ~」ってサクラをやってたじゃないですか。
矢部:確かに、あそこは役に立てましたね。たねちゃんが「字を書きたい」と心を動かしてくれて。あのときは、直秀(毎熊克哉)さんを失った姫様の気持ちに、乙丸は寄り添ったんですよね。
お方様が亡くなったときも、悲田院でたねちゃんが息を引き取ったときも、悲しいことがあるたび、姫様とつながる感じがします。
本多:百舌彦は、道長様に助けられてばっかりなんです。百舌彦がクビになりそうになったときも、親に反抗してまで助けてくれて……。道長様の優しさに包まれてばっかりですね。
でも、たまに百舌彦が役に立てると、絆が深まっていく感覚はありました。あとは、馬を引くシーンが、活躍といえば活躍かな。乙丸さんは、馬を引いたことはあります?
矢部:越前に行くときのロケで、一度だけ引きました。
本多:難しいですよね。初めてのロケで、いきなり「馬、引いてください」と言われて。右手だけで馬をコントロールするんですよ。「こっちへ」とか、「もっと早く」とか。夜だと、右手に手綱、左手に松明で。
しかも、木が生い茂った場所なので、松明が左側に寄りすぎると燃え移るし、かといって、右側に寄ると馬が「ヒヒン!」と熱がって……。やり遂げたとき、自分を褒めてあげたかったです(笑)。
もしかしたら『源氏物語』に乙丸の存在が……?
——「光る君へ」の魅力についてアピールしたいポイントは?
本多:戦国時代だと主君を裏切ったりすることがありますよね。でも、僕たち従者には、裏切りが一切ない。友情ともまた違う、奉仕の心というか……。道長様のような関係性の人がいたら、人生に違う豊かさが生まれるんじゃないかな、と感じました。
矢部:僕は、自分の日々の仕事に果たして意味があるのだろうか、と考えたりすることがあるんです。でも、まひろ様が書いた『源氏物語』の中に、乙丸と姫様との関係から発想された何かが残っているかもしれない。それを、千年後の誰かが読むかもしれない。
そう考えると、仕事の意味とかじゃない、生きていることがすばらしいことなんだと、このドラマを通して感じられるようになりました。歴史のなかの圧倒的多数は、乙丸のような名もなき人ですから。
本多:いいこと言いますね~。百舌彦が為時邸に行くと、いつも乙丸が掃除ばかりしていて、掃除しかしないのかと思っていたけれど(笑)。
矢部:ちょっと(笑)!
本多:でも、もしかしたら『源氏物語』の中に、掃除が行き届いて屋敷の前がきれい、と残っているかもしれない。
矢部:しれないですね!