12月7日(土)からスタートする特集ドラマ「コトコト〜おいしい心と出会う旅〜」。百貨店のバイヤーである主人公の結稀宏人が、日本全国の魅力的な食材を探して全国各地を旅する物語だ。
第1弾の舞台は、富山県と新潟県。人との距離を置こうとする宏人だが、美味しい食材を求める中、宏人はさまざまな人と出会い、図らずも人と関わることになっていく。
どこかミステリアスな雰囲気を漂わせ、心に何かを抱えているような宏人を演じる古川雄大さんに話を聞いた。
――今回、雪深い新潟と、能登半島地震で被災した地域もある富山で撮影したということですが、現地での撮影はいかがでしたか?
古川 富山も新潟も自然が豊か。富山は海も山もあり、新潟は寒かったんですけど、雪がすごくきれい。広々とした場所での撮影で、解放的な気持ちになりました。
この作品にはゆったりとした空気が流れているんですけど、テンポも心地よく、撮影チームも穏やかな雰囲気でした。新潟では、撮影期間中に雪が降らないというトラブルに見舞われたのですが、みんなで笑いながら雪集めをして乗り越えたんです。すごく温かい空気が流れていたので、それがうまく画に反映されていると思います。やっぱり現地を訪れ、その土地で撮影できたのはよかったなと思っています。
――富山、新潟ともに地元の人も協力してくださったんですよね?
古川 地元のみなさんは、このドラマにすごく期待してくださっていました。富山は能登半島地震があり、撮影が5月に延期されました。本当に撮影できるのか? といった状態から、地元のみなさんの熱意によって撮影が実現しました。
応援してくださる方々は協力的で、楽しみにしてくださっていて、とても前向きなので、僕らのやる気にも繋がりました。なので、本当に微力ですが、ドラマが少しでも復興に繫がったらなという思いでいます。
東京はドライな人が多すぎるが故に、自分もドライじゃないと生きていけない感じがあると思うんです。地方の人たちは人と人の繋がりを大切にしますし、特に新潟はその繋がりで雪を乗り越えてきた土地柄。見ず知らずの僕らを温かく迎えてくださったり、声をかけてくださったりします。現地の方々の温かさに触れ、そういったことも映像に反映されている気がします。
別れがつらくなるという葛藤があるのかも
――百貨店バイヤーの宏人は、人と一定の距離を保ち、あまり自分の感情を表に出さないタイプ。そんな宏人がさまざまな土地で人と出会うことで見せる変化も見どころの一つですが、古川さんご自身が共感できる部分はありますか?
古川 新潟編、富山編ではまだ、宏人が抱えているものは具体的に描かれていないんですけど、父親が病気を患っているという場面が登場します。また、小さい頃に父に作ったスープを「美味しい」と言ってもらった思い出があり、あの時の感覚を味わいたくてバイヤーとして旅を続けているようなところがあります。
宏人は人生についてすごく考えている人で、そう遠くない先に父との別れを予感していて、それをすごく儚く感じている。僕自身も年齢を重ねていく上で、この先いろんな別れが待っていると思いますし、それをどう受け入れようかと考えたりするので、すごくリンクする部分があります。
宏人が人との距離を取っているのは、人間関係を濃くすると、別れがつらくなるという葛藤がきっとあって、あえて一歩踏み入れないという理由もあったりすると思うんです。
話がかなりずれますけど、僕はロールプレイングゲームを最後までできないんです。毎回ラスボスと戦う寸前でやめちゃう。たぶん、ゲームが終わってしまうのが嫌なんです。友達と旅行に行った帰りや、実家での最後の1日がすごく苦手で、最後の時間が嫌で、あえて早く帰ろうとしてしまうところがあります。そうした感覚は、宏人と通ずるものがあるのかなっていうのはすごく感じましたね。
撮影で同じものを何回食べても大変じゃなかった!
――このドラマでは、宏人が各地の美味しいものをたくさん食べますね。撮影で実際に食べてみていかがでしたか?
古川 富山でも新潟でも、お寿司を食べるシーンがあるのですが、美味しかったですね。新潟のお寿司はお米が本当に美味しいですし、富山のお寿司は魚介が抜群で、それぞれの良さがあるお寿司を味わいました。撮影では同じシーンを何回も撮影するため、何度も食べるのは大変かも、と思っていたんですけど、本当に美味しかったので、全然大変じゃなかったです(笑)。
――ドラマでは、宏人がキッチンに立ってスープを作るシーンがあります。立ち姿や包丁さばきなどの所作が美しく、食材に対する敬意が伝わってきます。
古川 宏人は食べることが好きで、食に関する知識もあるので、料理の仕方はきれいであるべきなんだろうなというのは思っていました。ただ、自分は日々料理をそんなにやっているわけではないので、料理指導の先生と、うまいカメラワークのお力で、なんとかそういう風に見えているのだと思います。敬意があると感じてもらえたのなら、うれしいですね。
すっと心に温かいものが入ってくるドラマ
――このドラマは、地域の食や人との繋がり、その土地や人の魅力など、さまざまな要素が詰まっています。富山編、新潟編それぞれの見どころを教えてください。
古川 富山編は、震災を経て、新しい方向に踏み出していきたいけど、自分には何にもないんじゃないかと思い込んでいる若者が登場します。現状をどう打破していくか、という過程が描かれています。有能な幼なじみに対する葛藤なども乗り越えていくことになるのですが、不器用な2人が反発し合いながらも歩み寄る様子が、さまざまな具材を煮込んだスープとも重なります。新しい挑戦をする上でのヒントがちりばめられている作品です。
新潟編は、出会いと別れという大きなテーマがあり、80代、30代、10代の女性が登場します。各年代特有の悩みを抱えているのですが、それぞれがかけがえのない存在であり、その代わりはいない、ということが描かれます。スープの具材も同じで、どの具材が欠けてもその味にはなりません。たとえ別れがあったとしても、繋がりは永遠に続くという温かいメッセージも込められています。どちらも奥深く、ぬくもりが感じられる物語です。
――これからドラマを観る人へのメッセージをお願いします。
古川 世の中はすごくスピーディーに進んでいき、常に速さが求められているような気がしています。例えば、ネットの動画でも10秒くらいのリールがたくさんアップされていて、僕も見ちゃったりするんですけど、このドラマはあえてすごくゆったりとしたテンポで進んでいきます。このドラマをお届けすることで、昔懐かしい感覚を取り戻してもらい、ゆったりとした時間を過ごしてもらえるといいですね。
生きていく上で、みんなが抱えるであろう悩みや葛藤がドラマに出てきます。きっと共感できるものがあり、大きなヒントになって背中を押してくれるはず。それに、観ているとすっと心に温かいものが入ってくるドラマなので、ぜひ観ていただきたいです。
――「コトコト」シリーズの舞台として47都道府県の制覇を目指す中で、古川さんの故郷である長野県にも行けるといいですね。
古川 長野には新鮮な水を使った蕎麦、味噌、郷土料理のおやきなどの美味しい食べ物がたくさんありますし、リンゴやぶどうなどの果物も名産で、バイヤーとして紹介できるものはたくさんあります!
ふるかわ・ゆうた
1987年、長野県生まれ。2007年、ドラマ「風魔の小次郎」でデビューし、同年のミュージカル『テニスの王子様』でメインキャラクターの不二周助役で人気を博す。'12年に『エリザベート』のルドルフ役で初めて帝国劇場の舞台に立ち、グランドミュージカルに初出演。ドラマは、'23年にNHK「大奥 Season2」で時代劇に初挑戦。映画や音楽活動など、活躍は多岐にわたる。
特集ドラマ「コトコト~おいしい心と出会う旅~」
【富山編】12月7日(土) BSP4K 午後9:00〜9:59
12月8日(日) NHK BS 午後4:30〜5:29
総合にて、2024年度冬放送予定
東京の百貨店バイヤー・結稀宏人(古川雄大)がやってきたのは、富山県・射水市。日本海にのぞむ新湊漁港を訪れると、仲買人の遥来(葉山奨之)と漁師の壮太(濱尾ノリタカ)の幼なじみ2人が、地元の魚の売り出し方をめぐってもめていた。宏人は、富山の魅力を伝えたいという遥来に案内されて食材探しへ。ところが海や山の食材を試すも「これが富山だ」というものはなかなか見つからず……。そんな中、遥来と壮太をめぐる過去の出来事が明らかになる。
【新潟編】12月14日(土) BSP4K 午後9:00〜9:59
12月15日(日) NHK BS 午後4:30〜5:29
総合にて、2024年度冬放送予定
新潟県十日町市にやってきた東京の百貨店バイヤー・結稀宏人。宏人は食材探しの中で、縄文土器に惹かれて新潟へ移り住んできた相場美羽(高梨臨)と出会う。美羽は雪に囲まれるこの町で孤独を抱えていた。
宏人をきっかけに、地元で長年暮らすおばあさん・チヅ子(藤田弓子)や女子高校生の恵菜(新井美羽)たち、4人の不思議な関係がうまれる。そして、宏人がつくる一杯のスープが、雪国で凍ったそれぞれの心に変化をもたらす。
作:坪田文
音楽:光田康典
制作統括:堀内裕介
プロデューサー:田島彰洋、郷原陽介
演出:木村隆文、門脇弘樹、髙橋実香
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兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。