笠置シヅ子をモデルとする、戦後を明るく照らしたスター・福来スズ子(趣里)の物語を描く、連続テレビ小説「ブギウギ」。今回、ブルースの女王と呼ばれる人気歌手で、スズ子のよきライバルでもある茨田りつ子を演じる菊地凛子に、役への思いや物語の見どころについて話を聞いた。


淡谷のり子さんがモデルと聞いて…

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出演していたとき、隣のスタジオでは朝ドラの撮影が行われていて、「朝ドラもいいな」と思っていました。なので、今回オファーをいただいて本当にうれしかったです。けれど、役柄を聞いて驚きと共に気が引き締まりました(笑)。

私が演じる茨田りつ子のモデルは、淡谷のり子さんになります。淡谷さんの著書を読めば読むほど、演じることに腰が引けるくらい、とても偉大な方だと感じました。なかでも印象に残っているのが、軍歌は歌わないという信念を最後まで貫かれたこと。私だったらきっと揺らいでしまうだろうと感じるほど、当時のエンターテインメントに対する締め付けはとても厳しかったと思います。始末書もものすごい量を書かれたそうです。その中でも、自分の信念をまったく曲げないその強さに、感銘を受けました。

と同時に、表現者でもありますので、ちゃんと誰かに寄り添える心持ちの方だと思います。いろんなことを理解できる心のひだがある、とてもすてきな方だったと想像します。ただ今、私が淡谷さんと対面したら、たぶん緊張してひと言もお話しできないかもしれません(笑)。淡谷さんの歌を聞けば聞くほど、淡谷さんの足元にも及ばないですし…。ただ精一杯に演じることが自分の務め。ボイストレーニングも日々行っていまして、お墓参りにも伺い「一生懸命演じるのでどうか怒らないでください」と、ご挨拶させていただきました(笑)。


天使のような声を大切に

演じる上では、りつ子の人間としての強さを常に持ちつつ、スズ子をはじめとした周囲の人にもリスペクトを忘れない、この2つのバランスをうまく表現できたらと思います。

これも淡谷さんの印象ですが、すごく厳しいことも言うけれど、愛情のあるコメントもされていたイメージを、子どものころ持っていました。淡谷さんの若いころの映像や音声は多く残っているわけではないので、自分が持つイメージも大切にしながら、りつ子像を膨らませて演じているところです。

また淡谷さんは、柔らかく天使のようなお声をされていた印象があります。静かに、のどを大事にするような話し方を心がけています。厳しい内容でも繊細にお話しされる、その魅力は大切にしたいと思います。


スズ子と手をつなぎたくなる瞬間があった

スズ子は本当にはなやかで、かわいらしい大輪の花を持っているような方だと感じます。周りを巻き込みながら、前向きに明るく生きていくスズ子に、りつ子も自然と影響を受けるようになります。

そんなスズ子に、りつ子は手をつなぎたくなるような瞬間があったのではないでしょうか。実際に手をつなぐということではありませんが、歌手として互いに激動の時代を渡り歩く中で、“よきライバル”という言葉以上の絆が二人の間にはあるのだと思います。


スズ子とりつ子は、赤と青の炎

演出の福井充広さんからは「スズ子とりつ子は同じ炎でも、スズ子は赤で、りつ子は青の炎」だというお話をいただきました。お互い熱い炎を心の内に持っているけれど、りつ子はクールに静かに燃えていて、スズ子は明るく元気に燃えている。その対比もうまく表現できたら。
ただスズ子は、関西ことばでわーっと明るく話すので、その空気に引っ張られすぎて、りつ子のペースを崩さないように気を付けています。

私はいつも脚本から元気をもらっています。激動の時代を、女性たちがひたむきに生きる姿が力になるんです。そのなかでもスズ子のステージは、本当にパワーをもらいます。スズ子の歌唱シーンはこれまでもたくさんありましたが、いろんな表情を見せてくれますよね。彼女のステージを間近で見る機会も何度かありました。パワフルなパフォーマンスで、私も元気になりましたし、役柄を超えてつい応援したくなりました。

ぜひ今後も、スズ子のステージに注目していただけたらうれしいです。そして、私も一出演者として、視聴者の皆さんを元気づけられる存在でありたいと思います。

菊地凛子(きくち・りんこ)
1981年生まれ、神奈川県出身。NHKでの主な出演作に、連続テレビ小説「ちゅらさん」、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、「生理のおじさんとその娘」など。