一条天皇(塩野瑛久)ほか代々の帝に仕えた藤原実資は、政治や儀式のしきたりに詳しい学識者で、頑固一徹な正義漢。道長(柄本佑)にとっては尊敬できる先輩であり、また煙たい存在でもある。演じる秋山竜次に自分の役柄や、作品について聞いた。
僕もクラスの端っこにいて、人の様子をネチネチ見ているようなタイプだったんです(笑)
——初めての大河ドラマ出演ですが、依頼を受けたときの感想は?
「いや、そんなわけないだろ!」と思いましたね。自分が出演するなんて、1ミリも考えていなかったので、ドッキリじゃないかな、と(笑)。以前「小河ドラマ 織田信長」というコメディー作品に出演したことがあるんですが、「小河」じゃなくて「大河」。マジなほうかと思って、驚きました。でも、うれしかったですね、やっぱり。
——藤原実資という人物については、ご存じでしたか?
歴史に詳しくないので、全然知りませんでした。まずはウィキペディアで調べて……(笑)。「ああ、こういう感じなんだ」とざっくりしたイメージをつかみました。そのうえで、スタッフから詳しい説明をもらって。
道長の近くにずっといて、歴代の天皇や藤原家のことを見てきた人なんですよね。その様子を『小右記』という日記に記録として残していて、たまにむしゃくしゃして暴言を吐きながら、思ったことも書いたりしている。すごいポジションにいる人物だなと思いました。
——『小右記』については、どんな印象をお持ちですか?
始まる前に現代語訳を読んだんですけど、台本が来たら「あそこに出てた話だ」って、結構『小右記』をベースにされているんですよね。何々の会をやったとか、出席者とか全部細かく書いてるじゃないですか。実資のまじめな性格が、(『小右記』の)資料としての価値を高めているんだなあと思います。
あと、思ったことをズバズバ書き込んでいるんですよね。人のことを「鼻くそ」と扱ったりして。しかも、それを結構かわいい字で書いているんですよ。
字体って人によって全然違っていて、いろんな人の書を見た後に、実資のものを見たら「こいつ、丸いな」って。すごくかわいい字を書いていて……。僕の周りにもそういう男子がいて、そういう男子のほうが、女心がわかりそうな感じがする(笑)。
ドラマの中で書くときのために書の練習もしているんですが、すごく難しいんですよ。まだ書道とかが始まる前の時代の字で、小筆みたいなので、力強く書くのと真逆で、「スーッ」みたいな字を練習しています。
——台本を読まれての印象は?
内裏の大事なシーンに、いつもいるんです。端っこのほうに必ず。最初は蔵人頭として、位が上がってからは参議として、天皇と公卿たちのやり取りを見ていて……。密かに不満を持つこともあるけれど、適切な提言をすることもある。真面目で、真っすぐな感じですね。
ただ、いろんな言葉を本心で言っているのかどうかは、今ひとつわからないところもあるんです。相手のことを探りつつ、操ろうとしているようにも感じられるので。それをどんな表情で表現するのか、結構難しいところもあります。
——ご自身と共通する部分はありますか?
彼のポジションは、政権の端っこに常にいて、そこで起きたことを客観的に日記に書いているというものですが、僕もクラスの端っこにいて、人の様子をネチネチ見ているようなタイプだったんです(笑)。
端から見て「あいつ、ああいう感じなんだな」とか、「ヤンキーだから無理やりダルそうにしているけれど、実はそれほどでもないのにダルい感じをアピールしているな」とか、そんなことを考えるのが好きでしたね。もちろん、政権を動かすような学生ではありませんでしたが(笑)、そういうところは似ています。
母ちゃんは、「いやぁ、あんたは“映える”顔やね」って言ってました
——放送が始まっての感想は?
いつも極力8時にテレビの前で構えて見てます。意外と見られる時が多いんで、オープニングからちゃんと。あのテーマ曲が流れて、自分の名前が出てきた時の感じは、何回見ても興奮しますね。
放送より先にVTRが送られてくることもあるんですけど、オンエアの時に楽しみたいので、VTRをチェックせず、視聴者と同じ状態で見るんです。「どんな風になってるのか?」「今日俺は何のシーンで出んだろう?」とか、「あれ、今週は俺、出なくねえか?」とか。
オープニングで名前が出てこなかったら、「そうだそうだ。今週出ないやつだ」みたいな。いまだにドキドキします。 バラエティーをチェックするのとは違いますね。ちゃんとやれてるんだろうか、毎週楽しみに同じテンションで見ています。
——ご両親の反応はいかがですか?
毎週リアルタイムで見てるって言ってます。親父は、大河ドラマだし、息子がふざける感じじゃないモードでどう来るのか構えて見てると思います。母ちゃんは、「いやぁ、あんたは“映える”顔やね」って言ってましたね。あと「日焼けが黒すぎんかね」って(笑)。大河ドラマに出ていること自体すごいので、地元はみんな喜んでると思います。
バラエティーのロケでも、今までは気づいていただけなかった上の世代の方から「実資、実資」って言われるんですよ。この間も喫茶店で横のおばあちゃんに小声で「実資さん」って呼ばれて。そんなこと今までなかったです。大河の影響力はすごいですね。
——出演発表で「コントにならないか心配」とコメントされていましたが?
ストーリーがちゃんとしているので、演技をそんなに批判されることもなく……。でも、実資が初めて出た第2回のとき、自分としては「抑えられている」と思ったけど視聴者の反応はどうなんだろう、と調べたら、ネットニュースで「黒すぎだろう」みたいになってるんですよ。だよね~。やっぱ言われてるよって(笑)。
最初にプロデューサーに確認したんですよ。僕はお笑いの仕事のために日焼けをしますよって。梅宮辰夫さん基準で焼いていて、これは絶対に譲れない条件ですって。そうしたら、帳尻合わせなのか、外で蹴鞠をするシーンが作られてて……。そこで日焼けをしたことにしているのかもしれない(笑)。まあ史料によると、実資は本当に蹴鞠が上手だったとされてますけれどね。
日焼けしすぎ、恰幅が良すぎという意見の一方で、「意外とハマってる」みたいな声も多かったので、そこは嬉しかったです。着物を着て、風貌的に平安ぽさに「ちゃんとハマっている」という声があったので、第一段階はクリアできたかなと思ってます。
ギリギリのライン、コントに行く手前ぐらいのところがいいってアドバイスをいただいてます
——変なことをするのを期待する視聴者もいると思うんですが?
他のドラマに出るときは、いつも悪ふざけさせてもらっているんですけど、「光る君へ」に関してはまったくボケてないです。もしかしたら、登場人物で“一番まとも”というのが、一番のボケかもしれないですね(笑)。皆さん、「実資が一番真面目なんかいっ!」ってツッコミを入れながら見てくれてるかも……。
「どんだけ真面目なんだよ」と思いますね、実資って。グチグチ小言を言ってる場面も流暢に言わないといけないし、セリフを崩せないんですよ。めちゃくちゃ硬いことを言ってるんで。
——実資は状況説明のセリフが多いですからね。
セリフはめちゃめちゃ難しいです。生まれて初めて口にするような単語が多いんですよ。本当に頭の中に入ってこなくて……。イントネーションもわからなくて、台本の中にイントネーションを説明するページを作ってほしいくらいです。
「内裏」でも「だいり(語尾下げ)と「だいり(フラット)」でイントネーションが違うと、意味が分からなくなるじゃないですか。それを調べながら覚えるので、頭が爆発しそうです。何日もかけてやっと覚えても、撮影が始まると「ヤバい、間違えんじゃねえか」みたいなプレッシャーがかかってきて、「本番!」ってなったら、セリフがすっ飛んじゃうんです。
そうすると「あれ? 秋山、セリフ覚えてきてないんじゃない?」みたいな空気になって、「いや、覚えたんですけど」と言いたいんだけど、どうやっても出てこない……。だから覚えてきていないヤツを演じ始めたことがあります。言い訳するより早いと思って(笑)。
何回かあったんです、撮影を止めたことが。止めたら、最初からお付き合いいただくことになるじゃないですか。共演者にむだなカロリーを使わせたら申し訳ないので、そうならないよう必死にリハーサルで慣れて、監督にセリフを言ってもらって、もう無我夢中です。
こんな状況があとどのくらい続くんだろうと、改めてウィキペディアを見てみたんですよ。そうしたら、実資の享年は90って! 道長より長生きしているんですよ。ということは、まだまだ単語を覚えなくちゃいけないんだろうなぁ……。
——所作はどうですか?
大変です。階段を昇るときは左足からとか、ちょっと体勢を低めにとか、これまで自分がやってないキツいやつなんですよ。座るときも「よっこらしょ」な感じじゃダメで、体幹を使ってスッと座る、みたいな。
僕、体重が100キロくらいあるんで、何回もやるとプルプルになってきます(笑)。しかも座るときは間に片足立ちを挟むので、無理だろ!と思いつつも、時間があるときに練習しています。立ったり座ったり。しかも座っている場面だと、やっぱり腹があるから、体が後ろに行っちゃうんですよね、みんなで胡坐になっていると。
だから、こっそり台みたいなものを持ってきてもらっています。制作スタッフが「これ、挟みましょうか」と言ってくれるので“ドーピング”しています(笑)。年下の奥さんにお腹をつままれる場面もありましたけど、そのあたりは実資というより、秋山の体格ゆえですね。
——笑えるシーンも多いですね。
本当にありがたい役をいただいてます。真面目なんだけど、クスッとするようなところが要所要所にあって。大石先生が、僕が演じることを想像して書いてくれてるのかなって思うところがいくつかあります。
第12回で、女性のお尻が透けて見えるちょっとエッチな絵を見て、「オホホ……」 と言うシーンなんか、学生がエロ本を見て「ウホ」ってやってるのと同じで。あんなシーンが平安時代に入ってくると、どこまでやっていいんだろうって迷いますよね。
「コントにならないようにしないと」と抑えたんですけど、監督さんが「もうちょっと行っちゃっていいですよ」みたいなこと言うんですよ。「え! いいんスか!?」って、ギリギリのライン、コントに行く手前ぐらいのとこがいいってアドバイスをいただいてます。
実資は長生きの分、一緒にいた人がどんどん退場していくのを見るんでしょうね
——大河ドラマの面白いところは?
大河ドラマは、正直そんなに見てこなかったんで、難しいイメージだったんです。それが「光る君へ」は普通にまひろ(吉高由里子)と道長のラブストーリーを楽しめて。ややこしいことを理解できない僕でもすごく分かりやすく、ハマって見られます。
ふたりが本当に綺麗で、感情移入して応援したくなっちゃうんですよね。月に向かって思いを馳せる幻想的な映像を、夜に電気を消して見ると、本当に平安の世界に入り込んだように感じて。道長はかっこいいし、今までイメージしていた大河ドラマと全く違いました。
不思議なもので、平安時代のことを勉強したくなっちゃいます。このドラマが始まってからウィキペディアをすごく使っているんです。「この人は何歳まで生きたのかな」とか、「この事件ってどういうことなんだろう」とか調べるために。
で、この役はいま何歳ぐらいか調べると、俳優さんが実年齢より10とか20若い役を演じていたりしていて……。すごいですよね。だって普通のドラマで30代の俳優さんが10代を演じたら変ですよね。でも、大河ドラマだと見えちゃうんだよなあ。
あと、大河ドラマが終わった後に紀行が流れるじゃないですか。あれを見て、場所を調べたりして。まず実資に興味が出ますよね。どこに実資の骨が埋まってるんだろうとか、すごい調べるようになりました。
——役の年齢を重ねていく難しさはありますか。
実資はもともと若い感じの役でもなく、おっさん臭くて口うるさいので、セリフのテンションは変わらずにやってます。ちょっと髭が生えたくらいです。どんな老け方していくんですかね、病気になってメークが青白くなったりするんでしょうか。撮影している期間、誰かに病気のメークが入ると、「あ、もうお別れになっちゃうのか」と寂しくなります。道隆役の(井浦)新さんも、退場する間際に青白いメイクをされていましたし。
実資は長生きの分、一緒にいた人がどんどん退場していくのを見るんでしょう。「もうクランクアップしちゃうのか」って……それも悲しいですよね。90まで生きると、ずっと見送る立場ですもん。道長も見送るのかなあ……。
——藤原家のなかで、道長に対する態度だけ違うように見えますが……
藤原家って、むちゃくちゃじゃないですか。兼家(段田安則)も道隆も道兼(玉置玲央)も、みんなして嫌なところがあるんだもん(笑)。実資は、自分が上がりたいより、昔のしきたりとか歴史を守りたい人なので、藤原家の前例破りが気にいらないんでしょう。
その中で道長だけが野心があまりないというか、優しいし、話していてもホッとするんです。道長に対しては“できるヤツ”と、光を感じてる。だから最初から実資は道長を教育する感じで接しています。
——撮影現場で感心したことは?
ベテランの方々の演技です。段田さんとか益岡徹さん(源雅信役)とか、ただそこにいらっしゃるだけで、そのまま兼家や雅信に見えちゃう。マジで、すごいなと思いました。兼家がおかしくなるシーンも、「本当に大丈夫ですか?」と思ってしまうほどの演技を段田さんがされていて。
益岡さんは雪が降っているシーンで、台本に書かれていないのに、震えていらっしゃったんですよ。スタジオはめちゃくちゃ暑くて、僕は大汗をかいていたんですけど(笑)。それで「寒い感じにしてるんですか?」とお聞きしたら、「うん。雪が降ってるからね」って……。絶妙な感じで表現されていて、すごいなと思いました。
雅信がみんなの話を聞いてなくて、いびきをかいてるシーンなんかは、お芝居とわかっているのに、だんだん「本当に疲れて寝ているんじゃないの?」と思えてきて、それぐらい自然なんです。おじさんが眠りかけている姿、そういう細かいところまで、ひとつひとつがとても勉強になりますね。
せっかくこんな作品に混ぜてもらっているので、くまなくギョロギョロして、いろんなものを吸収して帰りたいと思っています。