ドラマの出演者やスタッフが「この回のあの人、あのシーン」について語ったコメントを不定期で配信するコーナー。最終回は、藤原道長役の柄本佑さん、源倫子役の黒木華さんから!
柄本佑さんの最終回振り返り
——権力を手にしてからの道長は、父・兼家(段田安則)に近づいているように見えました。
以前の取材で、同じ質問をされたときに「やっていることは同じだけど、気持ちが違う」と答えました。そもそも出発点が違っていて、政を兼家は「家のために」、道長は「民のために」やると……。
最後まで演じ終えた今、最終回の「この世は何も変わっていない……。俺は一体何をやってきたのであろうか……」というセリフに、道長の思いが集約されている気がしています。もっと言ってしまうと、「光る君へ」の道長って、権力のトップに立つことが本当に嫌だったんだろうなと思うんです。権力を持ったり、その差配をしたりすることが、最後まで合わなかった、と。
この話をしていて、ふと思い浮かぶのは道綱(上地雄輔)の顔です。道長は道綱のことが羨ましかったんじゃないでしょうか。最終回では、「大臣にしてくれよ」と言ってきたりもしたけれど、朗らかで自由に生きる人柄を、道長はすごくいいなと思っていて……。
道長も本当は、2人の兄(道隆/井浦新、道兼/玉置玲央)がバリバリ政治をやっているのを端から見ながら、のんびり過ごしたかったのかもしれません。
黒木華さんの最終回振り返り
——倫子がまひろ(吉高由里子)に「殿の妾になっていただけない?」と言った本意は何ですか?
「弱ってきた殿の力になってあげてほしい」というのが、倫子の本音だったと思います。きっとまひろには、自分には補いきれない何かがあると理解してのことだと思うんですよね。実際、彼女の歌や文章の才能は、最初から認めていたわけですし。
でも、「友を一緒に葬った」という話まで出てきたのはショックだったと思います。ただ昔ちょっと関係があっただけじゃない、深いつながりが、ふたりにはあったということですから。倫子は動揺もしたでしょうし、傷つきもしたと思います。
それでも、嫡妻としてのメンツがあるし、何より道長の顔に泥を塗るようなことはできない。彰子のことも、家族のこともある。だからこそ、倫子はああいうことを言ったのだと思っています。
とは言っても、やっぱり、倫子にも女性の部分、人間的な部分があるわけで、そこの揺れは表現したいと思って演じました。どんなに理屈ではわかっていても、最後の最後にドロッとしているものが出てきてしまうのは、仕方のないことだと思うので……。
──道長の最期に、まひろを会わせたのはなぜだと思いますか?
それも愛、ですかね。死にゆく道長がいちばん求めているものが何なのかと考えたとき、それは自分ではないということを、倫子は理解している。そして、最後に会いたい人がいるのであれば、会わせてあげたい。会わせてあげなければいけない、と思ったのだと思います。だから、愛と尊敬からの行動だと思います。
そういうことができるのは、両親から愛情をかけられて育った倫子さんだからこそ、と思いました。家族の幸せをいちばんに思っている、自分の愛した人の、いちばんの幸せを最後まで思える人だから、だと。
──本作を振り返って、感じたことは何でしょう?
「光る君へ」は、まひろと道長の物語でした。酸いも甘いもふたりで共感しあい、そして時代を作っていったふたりの人生のお話ですよね。そして、そのなかに倫子の人生もあった。
倫子自身は、ちゃんと自分の人生をまっとうしていると思うんです。好きな相手と結婚して、子どもをたくさんもうけ、家族を作り、夫は大出世、ついに家から帝まで出した。当時としては大成功ですよね。
ただ、倫子にとってはいちばん大事な、というか、きっといちばん手に入れたかったもの──夫からの愛は、手に入らない人生だった。倫子を演じてきた私としては、そんな彼女のせつなくもまっすぐな生きざまを静かに受けとめています。