まひろ(吉高由里子)の変化に敏感に気付き、支えてきた弟・ふじわらの惟規のぶのり。勉強は好きではないが要領はよい彼が、第35回では好きな女性のために男子禁制の塀を乗り越えるという情熱的な面を見せた。演じる高杉真宙に、惟規のキャラクターや成長、印象的なシーンについて聞いた。


いつも冗談めかしているけれど、じつは惟規はちゃんとやれる子なんです!

――第35回で惟規は、塀を乗り越えて斎院さいいん中将ちゅうじょう(小坂菜緒)に会いに行く情熱的な面を見せましたね

最初、あのシーンはギャグかと思ったんですよ。でも現場に入ったら、“身分の差を越えた恋愛への希望”が込められたシーンなのかなとも感じて。きっと惟規は、これまで女性に思いを伝えて、振られて、傷ついて……をたくさん繰り返してきた男なのだろうと思って演じました。

実家では“勉強できないおの”だった惟規ですが、あの場面では“やるときはやる男”という面も描かれていましたよね。

家族の前ではちょっと恥ずかしくて、勉強していても隠していただけで、これまでもきっと惟規なりに頑張ってきたんだろうと思います。そうじゃなければ、左大臣様(ふじわらの道長みちなが/柄本佑)の後押しがあっても、ここまで急激に偉くなることはできなかったでしょうし、とっさに詠んだ歌で内親王の心をつかむこともできないはず。

いつも冗談めかしているけれど、じつは惟規はちゃんとやれる子なんです!


惟規にとっては、いとがソウルメイトに近い存在なのかもしれない

――第31回では、まひろから“自分らしさ”について聞かれて、「嫌なことがあってもすぐに忘れて生きているところ」と答えましたが、惟規をどのようなキャラクターと捉えていますか。

監督からは“明るく、軽く”と言われているので、そこを軸にしながら、気を遣える人物だということをプラスして役柄を作っています。僕自身、惟規ほどではないですが、物事を重く捉えすぎないタイプなので近しいものを感じましたし、彼の気負いすぎないところはもっと見習いたいですね。

一方、第1回で母上(ちやは/国仲涼子)があんな亡くなり方をしたのに、これだけ明るく生きてこられたということは、内面に強さもあるのだろうと感じています。

惟規のセリフはかなり現代語に近い形で書かれていて、「なのかな〜」のように語尾に「〜」が付いていることが多いんです。だいにいる皆さんが少し硬めの言葉を使っているので、惟規のセリフが強調されて視聴者の皆さんに届きやすい効果があるなと感じています。

その背景には、惟規が登場することで場の空気を変えたいという大石静先生の意図があるのかもしれないですね。どちらかというと物語の中で自由に動かせるキャラクターですし、惟規が登場するとシーンの風通しが良くなることも多い。僕自身もそれを楽しんで演じています。

そして、惟規はつねに家族がいちばん。まひろのことも、姉ではありますが自分が守るべき存在だと思って接しています。

第26回で、宣孝のぶたか(佐々木蔵之介)が若い女性と浮気していることを姉上に言ってしまうシーンについては、蔵之介さんから「なんで言っちゃうんだよ!(笑)」とボヤかれましたが、それも姉上の幸せを思っているからこそ。家族の幸せを考えすぎて、ちょっと災いを招いてしまっただけなんです(笑)。

――まひろと道長の関係について、惟規はいつ気付いたのでしょう?

台本には、「このタイミングで気付いた」とは明記されていません。ただ、父上や自分が出世できたのは左大臣様のおかげ、というセリフもあるので、その頃には確実に気付いていたんでしょうね。

惟規自身が姉上と接する中で、直感で気付いた部分もあるけれど、誰かから聞いていた可能性も高いのだろうと思っています。

第28回で、赤ちゃんのかたを見て「おでこのあたりが宣孝様に似てるね」と言うシーン。じつは、台本を読んだときに「父親が誰か気付いているのかな? それとも気づいていないのかな?」と悩みました。

でも、ここまで演じてきた惟規は決して“鈍い人”ではないので、「きっといと(信川清順)から、宣孝さんの子ではないと聞いた上であえて言っているんだ」と解釈して演じました。

惟規は家族に会いたくて、隙を見つけては実家に帰ってきていますよね。そのとき、いとに家族の様子を逐一聞いていたでしょうし、賢子の父親について知らされていたとしても不思議はないなと。だからあのセリフは、惟規なりの優しさだと思っています。

――乳母のいとと惟規は、本当に固い絆で結ばれていますね

惟規にとって、いとは本当に信頼できる存在で、ほぼ母親ですね。それでいて、一緒にふざけ合える関係でもある。姉上と道長はソウルメイトと言われていますが、惟規にとっては、いとがソウルメイトに近い存在なのかもしれないですね。

僕自身、性別が違ってもソウルメイトになれると思っていますし、そういう関係をステキだとは感じますが、姉上と道長様の関係は苦しそう。恋愛から始まってしまった以上、お互いにソウルメイトになるのは難しいのかな?と考えたりもします。


内裏に上がってみて、実家の温かさを改めて実感しました

――惟規もだんだん出世してきています。その変化をどのように表現していますか?

所作や言葉遣いについては、序盤から本当に自由に演じさせていただいていたのですが、はたしてこのキャラクターはこのままでいいのか?(笑)と考えつつ、僕なりに少しずつ調整してきています。

約1年にわたって惟規を演じてきて、僕の中に人となりのベースができていたので、その作業はそんなに大変ではありませんでしたね。

――衣装の変化などに助けられた部分も大きかったのでは?

確かに! 出世するにつれて1日の撮影の中で着替えることが増えて、大人になったなと感じましたね。着物も重いし、しゃくを懐に差すようになるのですが、それがすぐに落ちちゃう(笑)。

姉上も藤壺で会ったら重そうな着物を着ていましたし、偉い人って大変なんだなと思いました。

あと、内裏に上がってみて、初めて為時(岸谷五朗)邸が古かったことを知りました(笑)。為時邸もたくさん部屋があって豪華だと思っていたのに、内裏はその比じゃない。なんとなく居心地が悪くて、実家の温かさを改めて実感しました。

父上と姉上、いとと乙丸(矢部太郎)ときぬ(蔵下穂波)……もちろん僕も含めて、あの団欒だんらんを作っていたのだろうと思いますし、本当に温かい家族ですよね。


フランクに接してくださる吉高さんとは自然に姉弟を演じられた

――吉高由里子さんと岸谷五朗さんの印象も、教えてください

吉高さんは、今までお会いしてきた先輩方の中でも、いちばんと言っていいくらいフランクに接してくださる方だったので、自然に姉弟を演じることができました。人をきつける不思議な魅力を持っていらっしゃる方です。

岸谷さんは、超カッコいいお父さん。面白おかしくお話してくださっている間に、吉高さん演じる「まひろ」と僕の名前の「真宙」が混乱しちゃったことも(笑)。でも、そこも含めてカッコよかったです。

――「平清盛」以来11年ぶりの大河ドラマの出演ですが、改めて感想を聞かせてください

視聴者の皆さんも同じと思うのですが、演じている僕自身もキャラクターの成長を見守り、演じるのが本当に楽しみ。1年かけて同じキャラクターを演じるのは、こんなにも楽しいことかと実感しました。本当に幸せな時間を過ごさせていただいています。