パリ五輪の期間、ききょう(清少納言)を演じるファーストサマーウイカさんが作品への思いを語りつくすコラムを、全3回の連載記事としてお届けします!
第1回は、ききょうが仕えていた中宮定子と、定子を演じた高畑充希さんへの愛を語ります。
※この記事は、ファーストサマーウイカさんへのインタビュー取材をベースに、ご本人監修のもと、コラムとしてまとめたものです。
「生まれ変わりかも」と思うほど、清少納言と自分の考え方が近いんです
春はあけぼの、夏はサマー! 最近はSNSで「清少納言の生まれ変わりみたい」と言っていただくことがあって、心からうれしく思っているファーストサマーウイカです。
『枕草子』をはじめ、清少納言に関する多くの本を読むと、自分でも「生まれ変わりかもしれない」と思うほど、考え方や表現のしかたが近いと感じます。それは「感情移入できる」レベルではなく、「こういう状況なら、絶対にこう言うよね」というくらい重なり合う瞬間があって、彼女を知れば知るほど演じるのに不安がなくなります。
もちろん最初は「紫式部が主人公の大河ドラマで、紫式部のライバルとも言うべき役」というプレッシャーがあったのですが、脚本を読み進めると、「これ、ほぼ私だな」と思えて、「どんな気持ちなのか、わからない」と悩むことは一度もなかったんです。
ききょうが初めて定子様とお会いして見とれるシーンも、お芝居をしている感覚はなかったですね。だって、本当に美しかったから! 高畑充希さんが定子様を演じているだけで、同じ場所にいる私は、いろいろと“いただける”んです。
撮影中、定子様と同席しているだけで、涙があふれてしまうことも
皆様にも同意していただけると思うのですが、「光る君へ」の中でいちばんの悲劇のヒロインは、定子様だと考えています。わずか24年の生涯で、ききょうがお仕えしたのはほんの数年ですが、その間のジェットコースターのような壮絶な展開たるや……。
そんな定子様をききょうは全力で支え、絶頂期から亡くなるまでを見届けたのですが、あまりないことですよね。人生の伴侶や家族以外でそんな深い関係になることなんて。ふたりは特別な絆で結ばれていたのだと思います。
つらいシーンの撮影が続いていたころは、高畑充希さんが出演されているテレビCMを見るだけでも、グッときちゃったりして。スマホを見ていても、ふいに充希さんの広告映像が入ってきた瞬間に「あっ、定子様!」というモードに切り替わってしまいました。
撮影中も、定子様の登場シーンで、ききょうには特にセリフもなく、ただ同席しているだけなのに、涙があふれてきて、「ごめんなさい。泣いちゃいました」みたいなことがあって……。そのぐらい、濃密な時間を過ごせました。実際の清少納言もそうだったのかな、と思ったりもします。
高畑充希さんとの共演は「2度目まして」だったのですが、対面でお芝居をさせていただくと、改めて「目」が本当に魅力的で。もちろん言わずもがな、お顔も声もお芝居も歌も、何から何まで天才で大好きなのですが、もう目が、瞳が素晴らしくって。
先のことや人の心をスッと見通す定子様の目は、鋭さや聡明さもありながら、常に優しさと憂いに満ちているんですよね。時に、高階貴子(板谷由夏)様よりも「お母さん」を感じるような瞬間があって。少し難のある兄(伊周/三浦翔平)や弟(隆家/竜星涼)を見る目だったり、一条天皇(塩野瑛久)にすがる目だったり……。
子どもが生まれてからは、より全てを悟り、受け入れつつ望みを託すような、深い慈愛に満ちた目になっていきました。定子様の目に何度泣かされたことか(笑)。充希さんの目には圧倒的な力があるんですよ。
壮絶なシーンの撮影中でも、粋を忘れない充希さんに感動
同じ関西人なのに、充希さんはすごくチャーミングで癒やし系です。
撮影中に充希さんのお誕生日があって、靴下をプレゼントしたんです。後日、充希さんのインタビュー記事を読んだら、「靴下を集めるのが趣味」と書いてあって……。知らずに靴下を贈っていたので、「充希さんの好きなモノを、ちゃんとあげてられてる! やるじゃん、私!」と、うれしくなりました。
満足感に浸っていたら、のちのリハーサルの日にさりげなく履いてきてくださって。「かわいいねって、よく褒めてもらえるよ。ありがとう」と言ってくれて……。ああ尊い! さりげない一言にも愛があふれる、麗しく素晴らしい方です。
もうひとつ、揚げパンのエピソードも紹介させてください。NHKのなかにカフェテリアのコーナーがあって、そこの数量限定の揚げパンが気になっているけれど、大人気ですぐに売り切れてしまうんです。
数日後、運よく買えたんですが、なんと私のマネージャーさんも私のために買ってくれて、2個になってしまったんです。美味しかったし、せっかくだから充希さんにあげようと思ってお裾分けしました。
翌日もずっと一緒に撮影していたんですけれど、楽屋に戻ったら、袋に入った抹茶味の揚げパンがテーブルに置いてあったんです。前日食べたのはプレーン味だったので、マネージャーさんがまた買ってきてくれたのかな? と聞いたら、「買ってないです」って。
「じゃあ誰が……? あ!! 充希さんっ!?」って、小躍りしながらお礼を言いに行ったら、「2日も連続で要らないかな? と思ったけど、お礼に」と言ってくれて……。「定子様ぁ! おしゃれ~!」って、心の中で叫びました。
『枕草子』の中に、山吹の花びらのエピソードがあるのをご存じですか? 清少納言が里に下がって定子様と離れているときに、定子様から届いた手紙を開けたら何も書いてなくて、紙に包まれた一重の山吹の花びらに「いはで思ふぞ」と書いてあった、という。
山吹色の染料のもとになる「クチナシ」と「口なし」をかけて、そこに「何も言わなくても、あなたの気持ちはわかっているよ。だから早く帰ってきてね」という意味が込められていたんですね。そういう粋なことをされるわけですよ、定子様は。
抹茶味の揚げパンがさらりと楽屋に置いてある感じに定子様が重なって、ウルッときました。充希さんはクランクアップ直前で、日々壮絶なシーンを撮られていたのに、心の中には粋を忘れない定子様がいるんです。「恐るべし、高畑充希」と感動しました。
鳥戸野陵を訪ねると、柔らかくて大きな風が私を歓迎してくれました
その後、京都へ行く仕事があったんです。そうしたら、同じ時期に充希さんも京都で別の作品の撮影に入られると聞いて、「すごい、繋がってる! 2人で京都へ行くなんて、偶然にもほどがある!」みたいな(笑)。
充希さんには、京都へ行ったら定子様の葬送の地である鳥戸野陵に足を運んでみてくださいとお勧めしました。
私は「光る君へ」のクランクイン前に訪ねたんですが、着いたら正面から風がブワッと吹いたんです。天からの息吹というか、「よく来たねー!」って感じの柔らかい大きな風が……。まるで歓迎されているようで、定子様と繋がったような気持ちになりました。
定子様のお墓の近くには、清少納言の歌碑がある泉涌寺もあるんです。清少納言のゆかりの地が1000年後も定子様のそばに在ることに胸が熱くなりました。
さて次回は、ききょうが定子様にお届けした『枕草子』について、演じながら感じていた私なりの気持ちをつづりたいと思います。実際に私が書いた(←ここ、大事なところです。笑)「春はあけぼの」についても! では、またっ!
(つづく)