新潟に赴任した寅子(伊藤沙莉)は、故・星朋彦最高裁長官の著書改訂を通じて出会った星航一と、再会を果たしました。
仕事の上のかかわりだけでなく、不思議な縁に導かれるように公私ともに交流を深めていく寅子と航一。そして今週は航一が、戦時中に「総力戦研究所」に所属しており、そのことに重い責任と後悔の念を感じ続けていたこともわかりました。
航一を演じる岡田将生さんに、抱えてきた過去が航一にどんな影響を及ぼしたと思って演じられたのか、また、変化する寅子との関係性なども聞きました。
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最初から、航一と寅子は運命的な関係だと感じていました
──新潟で再会したことで、徐々に寅子との距離が縮まってきました。
少しずつですけど、航一のかわいらしい部分、人間的な部分も出てきている気がしますよね。自分で蓋をしていたものを、少しずつ開けて、閉じて、また開けて、の繰り返しをしているような。それが皆さんにも伝わっているといいなと思います。
だって、やっぱりちょっと面倒くさい人じゃないですか。演じていても思う時がありますし、伊藤(沙莉)さんも、最初のうちは2人のシーンでカットがかかるたびに、「うわ、めんどくさ!」って言ってましたから(笑)。僕はもちろん愛情をもって演じていますけど。
今は徐々に2人のシーンの雰囲気も変わってきたというか、「面倒くさい」って思うことも、言われることもなくなりました。最初狂っていたリズムが、この2人ならではのリズムになってきたんです。
――そんな寅子と航一の今の関係を、岡田さんはどう感じていますか?
僕は最初から、この2人は運命的な関係だと感じていました。やっぱり出会いのきっかけが、父(星朋彦/平田満)の本を改訂するという作業で、完成後まもなく父が亡くなってしまうことを考えると、父が巡り合わせてくれた人なのかなと。そのあと新潟で再会するのも「これって偶然なのかな? どうなんだ?」って思うんじゃないでしょうか。
僕自身、この仕事をしていて感じることなんですけど、どういうタイミングで、どの作品に出会うかって、すごく大切なんですよね。僕もそのタイミングを逃さないように生きているつもりですが、寅子と航一の出会いも必然的で、運命的な巡り合わせだったんだろうな、と感じて演じています。
──寅子との交流を通じての、航一自身の変化はどう捉えていますか?
やっぱり、人は人によって変わっていくものだと思うんです。だから皆、トラちゃん(寅子)に会うことで少しずつ人生が変わっていきますよね。航一も同じです。いちばんは、常に人と距離をおいている自分とは違って、誰に対しても諦めずに近づいていくトラちゃんに影響されているのだと思います。
それから、トラちゃんって、誰に対してもオープンなようでいて、自分の不安を吐露する相手は、実は限られているんですよね。なのに、航一に対しては、自然と、愚痴みたいな感じで心情を吐露してくれる。僕は、それがすごくうれしいなと思っています。きっと航一もそう感じていたのではないでしょうか。
──今週は、裁判官として裁判を行うシーンもありました。裁判官役、法廷シーンの感想はいかがですか?
裁判官の役をやるにあたって、いろいろ資料を読ませてもらったり、監督と話をしたりする中で考えたのは、「正義ってなんだろう?」ということです。裁判官は、検察官と弁護人、両者から提示されたものの中で判決を行わなければいけないわけですけど……トラちゃんの場合は、どうしても“人”に思いを寄せていってしまう。
一方、航一は、最大限公平であろうとする。でも、何に対して公平なのか? 知らない情報がある中で、今、提示されたものだけで判断して公平性が保たれるのか? ──特に今回扱った事件*では、それがとても大事なポイントになるので、いろいろ考えさせられました。
ただ、航一が裁判官という仕事を選んだ理由も、なんとなくわかってきた気がします。自分の過去に対して揺れ動く思いを抱いているからこそ、常に、公平とは何か? 真実とは何か? を自問自答して生きているんじゃないかと。だから表情にこそ出しませんでしたが、法廷シーンの撮影は少し、苦しかったですね。
* 第18週の、スマートボール場火災をめぐる裁判(第18週のあらすじ)。
──そんな真面目な航一の、意外なよりどころとして麻雀があるということが明らかになしました。岡田さんご自身は麻雀をされたご経験は?
祖父がずっとやっていて、子どもの頃、正月は家族みんなで遊びながらやった記憶があります。なので、今回、久しぶりにやれてうれしかったですね。
麻雀って、すごく人が出ると思っていて。一緒にやっていると、なんとなくこういう人なんだなあというのが見えてくる、そこがすごく面白いんです。航一も麻雀の話になると、少しだけ「なるほど」のテンションが上がりがちですし(笑)。ある種スポーツ的でもあって面白いと思います。
もし、僕が航一と同じ状況だったら絶望してしまうと思った
──今週、航一が戦時中「総力戦研究所」にいたという過去が明らかになりました。非常に重い過去を背負っていたわけですが、岡田さんはこの事実をどのように感じましたか?
星航一のモチーフの一人である三淵乾太郎さんという方がそうだったということで、僕も関係する本や資料を事前に読ませていただいていました。と言っても僕は、役は現場で作っていくほうなので、あまり自分で固めていこうとは思っていませんでした。
それでも、資料を読むたび、少しずつ自分の体が重くなっていく感覚がありました。うまく言葉では言い表せないのですが……今回は、そういうのも全て背負って演じるということに責任を感じています。
実際の現場では、監督が逐一、このシーンの航一は何をどう感じ、思っているのか、というのを話してくださったので、それを聞いて、ワンシーンずつ大切に撮っていきました。
──第17週のラストで、空襲で亡くなった娘や孫を思い出して泣き出した杉田弁護士(高橋克実)に「ごめんなさい」と言ったり、戦争の話になるたびにつらそうな表情をしたり。また、第16週では、新潟で再会した寅子に「謝る必要はない」と告げた言葉も印象的でした。ちょっとした表情や言葉が、この過去に繫がって感じられます。
そうですね、航一は、ずっとあの過去を背負っていたわけですから、彼のすべての言動に影響を与えていたと僕は思っています。もしかしたら、見る方にとっては違和感があるような言葉のチョイスも、後になってその意味がわかってきますよね。吉田(恵里香)さんが脚本を書かれる中で、とても繊細に選ばれてきた言葉なので、僕もそれを忠実にやろうと考えました。
最初に台本を読んだとき、もし、僕が航一と同じ状況だったら絶望してしまうと思ったんです。人生を、生きることすらも諦めてしまったかもしれない。でも、航一には子どもがいて、ちゃんと育てなくちゃいけなかったわけで……。今こうしてお話しているだけでも、つらくなってしまうくらいです。
抱えてきたそんな思いを、航一は言葉を選びつつトラちゃんに話したわけですけど、僕はこのシーンを演じて、彼が生きていてくれてよかったと心から思いました。そして隣にトラちゃんがいてくれることも、本当によかった。
航一は心を閉ざしているようで、どこかにかすかな希望を持って生きてきたと思うんです。今週の告白を見たあと、これまでの航一の言動を振り返ると、見え方が変わるかもしれません。彼が人生を諦めずに、踏ん張ってきたのがわかる。そうやって毎日、朝日を浴びて生きてきた彼を、僕は尊敬しますし、これからも寄り添って演じていきたいと思います。
おかだ・まさき
1989年8月15日生まれ、東京出身。NHKでは、大河ドラマ「平清盛」、連続テレビ小説「なつぞら」、「絆〜走れ奇跡の子馬〜」「昭和元禄落語心中」「タリオ 復讐代行の2人」など。近作に、ドラマ「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(フジテレビ系)、「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日)、映画『ドライブ・マイ・カー』『1秒先の彼』『ゆとりですがなにか インターナショナル』『ゴールド・ボーイ』(2024年)など。出演映画『ラストマイル』が8月23日(金)に、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が11月に公開を控える。