どうも、朝ドラ見るるです。
これで放送も残すところあと1週……思えば遠くに来たものですが、なんなんだー! この、「ラスト直前」週とは思えない、今週の話題ぎっしりぶり。
そんな中、続いていく少年法改正の議論。そして、よねと轟の元に身を寄せる美位子の事件に進展が──。そう、「尊属殺」の事件が、ついに最高裁に上告されたんです!
何が気になるって……やっぱりこの事件。ツライ内容だったけど、よねさんは「心を痛める暇はない」って言ってた。それって、前に進むためにちゃんと受け止めろってことだよね。はい! 見るる、前に進むため、ここでしっかりおさらいをしておこうと思います!
というわけで、第14週以来──ドラマの中では19年ぶりに登場した「尊属殺」について、「虎に翼」で法律考証をご担当されている、明治大学法学部の村上一博教授にお話を聞きました。ではさっそく! 教えて、村上先生〜!
19年前のおさらい! 尊属殺人って、いったい何?
見るる 半年間見守ってきた「虎に翼」のラストが、この事件なんですね。直接法廷に関わるわけじゃないけど、“穂高イズム”を継承するトラコにとっても、大事な裁判になりそうです。
村上先生 ええ。最終週に続くテーマである「尊属殺の重罰規定」の問題は、あの穂高先生が亡くなる前、強く違憲性を訴えていたものですからね。それが19年の時を経て、再び審議されるわけですから、大変重要なトピックです。
見るる ですよね! ……で、そもそもなんですけど、「尊属」って何でしたっけ?
村上先生 「尊属」とは、自分(基準となる人)よりも“前の世代の血族”を示す言葉です。父、母、祖父、祖母、おじ、おば、などですね。そして尊属は2つに分類されます。父、母、祖父母などは「直系尊属」。一方、おじやおばは「傍系尊属」です。
見るる ふむふむ。佐田家で言うなら、優未にとってトラコ(母)は直系尊属。トラコの弟の直明(おじ)は傍系尊属ってことですね。
村上先生 そして「尊属殺」とは、直系尊属にあたる人を殺してしまうことです。問題だったのは、その刑罰の内容。当時の刑法第200条には、こう規定されていました。
「自己または配偶者の直系尊属を殺したる者は死刑または無期懲役に処する」
また傷害致死罪においても、同じように重い刑が適用されることになっていた──これが、尊属に対する「重罰規定」です。
見るる じゃあ、当時の一般的な殺人罪の刑罰は、もっと軽かったということですね?
村上先生 「死刑または無期懲役もしくは3年以上の懲役」でした(2004年の改正で、現在では下限が「5年以上」に引き上げられています)。
見るる 後半の「もしくは3年以上の懲役」があるかないかの差ですよね。……ん? そんなに大きな違いですか?
村上先生 ポイントは、一般的な殺人の場合と違って、尊属殺の場合はどれだけ減軽しても、3年以上の懲役刑になってしまうということです。それは、「執行猶予」がつかず、必ず「実刑」になるため。もちろん、「実刑」と言っても、「情状酌量」などによる減軽によって、死刑が宣告されることはほとんどなかったようですが。
見るる なるほど。つまり、殺した相手が尊属か、そうじゃないかによって刑の重さが変わるのは不公平じゃないか?ってことですね。
村上先生 そうです。それは憲法14条に定める「法の下の平等」に反する、つまり違憲だ──というのが、穂高先生の主張でした。ところが、第14週に登場した、1950(昭和25)年の最高裁での判決は「合憲」でしたよね。
見るる そうでした、あの時も、なんでだ〜⁉︎って思ったんですよ。
村上先生 穂高先生が判決に書き記した反対意見を振り返ってみましょう。
「このたびの判決は道徳の名のもとに国民が皆平等であることを否定していると言わざるを得ない。法で道徳を規定するなど許せば、憲法14条は壊れてしまう。道徳は道徳、法は法である。今の尊属殺の規定は、明らかな憲法違反である」
村上先生 つまり、道徳規範を法律に持ち込むのはおかしいんじゃないか、ということですね。本来、道徳と法律は全く別のもののはずですから。
年上の人は敬うべし、目上の人には従うべしという儒教的、封建的な思想がベースにあるのが「尊属」という考え方です。
ですから、戦後の法改正のお手本となったアメリカやヨーロッパ諸国の価値観とは異なるのですが、日本では、江戸時代から続くそういった考えが戦後の法制度の中にも残っていたんですね。ちなみに江戸時代も尊属殺──つまり「親殺し」は重罪、「市中引き回しのうえ磔獄門」でした。
見るる ひえ〜! というか、ドラマの穂高先生の意見を引用してくださいましたけど、昭和25年に尊属殺の合憲判決が下ったというのは史実どおり……ってことで、いいんですよね?
村上先生 そうです。思い出してください。以前、“日本家族法の父”と呼ばれる法学者で、明治大学が女子教育に力を入れるきっかけを作った人物──穂積重遠(1883〜1951)氏のことをお話ししましたよね?(「戦前の女性の“大学事情”ってどんな感じ?」)
最高裁で尊属殺をめぐる判決が出されたのは、彼が最高裁判事だった1950(昭和25)年のこと。穂積氏は、穂高先生と同じ少数意見で「違憲」を主張しましたが、このときの判決(多数意見)は、やはりドラマと同じく「合憲」だったんです。
見るる そうだったんですね! この法廷の重要性がだんだん見えてきました。
美位子さんの事件のモデル──「栃木実父殺害事件」
見るる それで……これはちょっと聞くのがおそろしいんですが、美位子さんの事件にも、やっぱりモデルがあったんでしょうか?
村上先生 実は、そうなんです。実際の事件は、「栃木実父殺害事件」と呼ばれていて、本当にひどいものでした。
被告人の女性、仮にAさんとしましょう。Aさんは、事件当時29歳。中学2年生の時から10年以上、実の父親による性的暴行を受けていました。その結果、彼女が産んだ子どもは5人(ドラマでは2人)。そのうち、2人は生まれて間もなく亡くなっています。
見るる なんてこと……。Aさんの母親は、ドラマと同じように娘を置いて逃げてしまったんですか?
村上先生 父親は、夫婦げんかのたびに刃物を持ち出していたと言いますから、母親も命の危険を感じていたのかもしれません。きょうだいの一部を連れて、実家に逃げ帰ってしまうんです。
その後、一度は戻ってきたようですが、結局、Aさんは父親と、Aさんの妹のうちのひとり、そしてAさんが産んだ子どもたちとで暮らしていたそうです。夫婦同然の生活を強要され、逃げ出せば無理やり連れ戻されていたと言います。
しかし、ある時、工場に働きに出るようになっていたAさんに好きな人ができました。なんとかその人と結ばれたい、この関係をやめてほしいと父親に話したところ、彼女は監禁され……思い余って父親を絞め殺してしまったというわけです。
見るる 何度聞いてもつらい、ひどい話ですね。これほどひどい父親なのに、親だというだけで、普通の殺人罪よりも罪が重くなるなんて、納得いかないです!
村上先生 この事件、第一審では、尊属殺重罰規定は「違憲」と判断され、通常の殺人罪が適用されました。さらに事件の情状が酌量されて、刑は免除となりました。
しかし、検察側はすぐさま控訴。第二審では、尊属殺重罰規定は「合憲」と判断され、A子さんは懲役3年6か月の実刑判決を言い渡されてしまったのです。
そこで、Aさんの弁護士は、これを不服として、さらに最高裁に上告したわけです。
見るる まさにドラマと同じ……。そして、この判決は、来週放送の大法廷で下されるわけですね。ところで、サラッと出てきましたけど、この最高裁の「大法廷」って、どんなものなんですか?
村上先生 最高裁判所に属する、裁判官全員で審理をする法廷です。合憲・違憲を争うような重要事件を扱い、長官を含めて15人で行います。
見るる 最高裁判事全員で……!
村上先生 大法廷での判決は、意見の一致を目指して議論が行われ、意見が分かれた場合は多数決で決まります。昭和25年の多数決の結果は、13対2でした。今回は一体、どんな結果になるのか――ぜひ注目してご覧ください。
最終週「虎に翼」9月23日(月)〜9月28日(土)
意味:《ただでさえ強い力をもつ者にさらに強い力が加わることのたとえ》(「デジタル大辞泉」より)
さあ、ついに来ました最終週! え〜さみしい! さみしいぞ‼️
と言いつつも気になるのが、美位子の事件もさることながら、まだまだ話がまとまりそうにない少年法改正の議論。「愛の裁判所」は、一体、どうなっちゃうの?
それに、美佐江の娘・美雪と、寅子がどう向き合うのかも気になる。あと放送は5日しかないのに……。もう、情緒不安定になっちゃう!
というわけで、今週の「トラつば」復習はここまで。
来週、最後の講義も、お楽しみに〜!!
明治大学法学部教授、明治大学史資料センター所長、明治大学図書館長。1956年京都府生まれ。日本近代法史、日本法制史、ジェンダーを専攻分野とする。著書に、『明治離婚裁判史論』『日本近代家族法史論』(ともに法律文化社)など多数。「虎に翼」では法律考証担当として制作に参加している。
取材・文/朝ドラ見るる イラスト/青井亜衣
"朝ドラ"を見るのが日課の覆面ライター、朝ドラ見る子の妹にして、ただいまライター修行中! 20代、いわゆるZ世代。若干(かなり!)オタク気質なところあり。
両親(60&70代・シニア夫婦)と姉(30代・本職ライター)と一緒に、朝ドラを見た感想を話し合うのが好き。