どうも、朝ドラ見るるです。いつも金曜日配信のコラムですが、今回は特別に、前・後編に分けてお送りします!(後編は9月27日(金)配信予定)

さて、ついに美位子さんの裁判に判決が出ました。「懲役2年6か月、3年間の執行猶予付き」。つまり、刑法200条に記された尊属殺の重罰規定を「違憲」とし、通常の殺人罪の刑罰を適用するという内容でした。いやぁ、よかった……(泣)。よねさん、とどろき、快挙です!!

……というわけで、改めて、この判決がどうすごいのか?を、「虎に翼」で法律考証をご担当されている明治大学法学部の村上一博教授に聞きました。教えて、村上先生〜!

「尊属殺の重罰規定は違憲」──判決文を解説!

見るる いや〜、本当によかったです。尊属殺の重罰規定が、通常の殺人の刑罰に比べて「著しく差別的」である、という言葉を桂場さんの口から聞けて……。

先週、桂場さんが「そんなもの(=穂高イズム)を掲げていては、この場所(=最高裁長官の地位)にはいられん」って言ったの、結構ショックだったんですよね。なんだかんだいって、桂場さんは穂高先生のこと、大好きだって思ってるので……。だから、今日の判決文の読み上げのシーン、本当に感動しちゃいました。

村上先生 歴史が塗り変わった、重要な判決でしたね。しかしあの判決、実は穂高先生が19年前に述べていた重罰規定への反対意見とは、少し趣旨が違うんですよ。

見るる え、そうなんですか⁉︎ えーっと、それはつまり......? 解説、お願いします!

村上先生 ではまず、今回の判決文をおさらいしてみましょう。(放送されていない部分も一部引用に含まれます)

この国から道徳心が消えつつあろうとも、子が親を尊重するのは基本的道義である。よって尊属殺人の重罰規定を定めた刑法二百条がただちに憲法十四条第一項に違反するとは言い難い。
しかし本件のように、明らかに人倫を外れた行為を犯した親を子が殺害した場合、立法の目的からすれば、刑法百九十九条の普通殺を適用することでその目的は充分に達しうる。
問題は死刑と無期懲役の二者択一であるという刑罰の極端さである。尊属殺に関する刑法二百条は、普通殺に関する刑法一九九条の法定刑に比べ著しく差別的であり、憲法一四条一項に違反して無効である。この見解に反する従来の判例はこれを変更する。

一方、19年前の穂高先生の主張は、前回(「最高裁の審判を仰ぐことになった“尊属殺の重罰規定”って何? 美位子の事件にモデルはあるの?」)もおさらいした通りですが、要約するとこうでした。

「尊属殺の重罰規定は、子が親を殺してはならないという道徳規範をもとにしたものである。しかし、それは『すべて国民は、法の下に平等である』という憲法第14条に反する。道徳と法律は全く別のもの。その道徳を根拠としている尊属殺の重罰規定は違憲である」

見るる はい、そうでした。違憲だから、尊属殺の重罰規定はなくすべきっていう主張ですよね!

村上先生 でも、今回の判決文の中では、「子が親を尊重するのは基本的道義」として、重罰規定については、「直ちに憲法違反であるとは言い難い」と言っているんです。これは、美位子さんの事件のモデルである「栃木実父殺人事件」の判決にならっているわけですが。

見るる そうなんですね⁉︎ つまり、「親を殺した子は重罰にすべき」という考え方自体が完全に否定されているわけではないんですね。

村上先生 そうなんです。「尊属殺の場合の法定刑が、死刑または無期懲役というのは、あまりにも不公平で憲法に反している。だから今後は無効にしよう」ということを言っているんです。

見るる ぬぬ、確かに、似て非なる話ですね。微妙に論点がすり替えられてるような……。

村上先生 ちなみに、実際の「栃木実父殺害事件」の最高裁判決は、ドラマと同じように、原判決は破棄。言い渡されたのは、懲役2年6か月で、3年間の執行猶予がつきました。

注目したいのは、判決に関わった15人の裁判官たちの意見の内訳です。ドラマの中では描かれませんでしたが、穂高先生と同じように尊属殺の重罰規定に強く反対意見を述べた裁判官は6人。逆に、この規定は「合憲」だと言った裁判官は1人でした。そして残りの8人が、その中間というか、妥協的な意見を持っていました。

そこで、結果的に多数意見として「違憲」が採用された、ということだったようです。尊属を尊重することは「基本的道義」であると強調しつつ、でも今回のケースには刑罰が重すぎるので、判決としてはこれを違憲とした、ということですね。

見るる うーん、いまひとつ釈然としないですけど、19年前に反対意見を述べていた裁判官は15人中2人だったわけですから、大きな進歩……ではありますよね。で、これをきっかけに、刑法の改正が行われたんですか?

村上先生 いいえ。刑法から尊属殺の重罰規定が削除されたのは、1995(平成7)年です。

見るる ……ん? 1995年? この違憲判決が出されたのって、1973(昭和48)年じゃありませんでした?

村上先生 ええ、その通りです。実に22年もの間、放置されていたんです。これは、法改正を行う立法機関である国会が、なかなか法律の改正案を提出しなかったため。それほど、「基本的道義」を重要視する考えは根強く、こだわる政治家も多かったということでしょう。

しかし、一度、最高裁で違憲判決が出た段階で、現場の裁判官たちはその事例にのっとって判決を下すことになっています。実際、判決文には、「従来の判例はこれを変更する」の一文が付け加えられていますよね。

そのため、刑法200条の尊属殺の重罰規定は、その後しばらく死文*化していました。改正が遅れても実務に大きな影響はなかったですし、むしろ1995年の刑法改正で、やっと法律が現場に追いついた、といったニュアンスだったようです。

* 死文…条文はあるが、実際の効力を失った法令や規則のこと。

見るる そうなんですね。それにしても、「効力のない法律」が存在すること自体、びっくりではあるんですけど……。つくづく、法律って、思った以上にナマモノなんですね。
で、すみません、最後にもう1点だけいいですか? 判決を受けて、美位子さんは具体的にこれからどうなるのか、教えてください……!

村上先生 美位子さんには、通常の殺人罪、つまり刑法199条が適用されました。そこから情状を酌量して出された判決では、「執行猶予3年」がつきましたから……文字通り、3年間は刑の執行はありません。そしてその3年の間、新たな犯罪をおかさず、無事に過ごすことができれば、先の懲役刑も消滅します。つまり、完全に普通の生活に戻ることができるわけです。

見るる ですよね! あ〜よかった! 早く、美位子さんに心からの笑顔が戻りますように。
さて、ドラマは残すところあと2回。まだまだ寅子たちの活躍を見ていたい気持ちでいっぱいだよ~!
でも、とにかく見逃し厳禁で、しっかり最後まで見守りたいと思います。最後のコラムも、2日後に配信予定。こちらも、どうぞお楽しみに!

村上一博(むらかみ・かずひろ)
明治大学法学部教授、明治大学史資料センター所長、明治大学図書館長。1956年京都府生まれ。日本近代法史、日本法制史、ジェンダーを専攻分野とする。著書に、『明治離婚裁判史論』『日本近代家族法史論』(ともに法律文化社)など多数。「虎に翼」では法律考証担当として制作に参加している。

取材・文/朝ドラ見るる イラスト/青井亜衣

"朝ドラ"を見るのが日課の覆面ライター、朝ドラ見る子の妹にして、ただいまライター修行中! 20代、いわゆるZ世代。若干(かなり!)オタク気質なところあり。
両親(60&70代・シニア夫婦)と姉(30代・本職ライター)と一緒に、朝ドラを見た感想を話し合うのが好き。