どうも、朝ドラ見るるです!

ついに原爆裁判が幕を閉じた今週。うん先生の遺志を継いだ岩居弁護士とともに法廷に立ったのは、よねさんととどろきでした。そして判事の一人を務めるのはトラコ(とも)。かつて共に学び、働いていたメンバーで、あの戦争に向き合う……感慨深すぎて、涙があふれてしまいそうでした。

しかし、裁判の結果は国側の勝訴。原爆被害の損害賠償を国に求めた原告の訴えは通りませんでした。裁判長の汐見さんが判決文を読み上げる、トラコたちがそれを真剣な表情で聞いている……とっても印象的な回だったけど。ここ、大事なことだから、もう一回、専門家に詳しく解説してもらいたい!

というわけで、第20週の解説(「“原爆裁判”――トラコが担当する歴史的裁判を解説!」①)に続いて、NHK解説委員でドラマの制作にも関わっていらっしゃる清永聡さんにお話を伺いました。

それじゃあ、今週もさっそく。教えて、清永さん〜!

ガラガラの傍聴席は史実だった!? キーパーソンは3人の鑑定人

見るる 判決が出るまで8年もかかった「原爆裁判」。本当に長かった……。実際にも、同じように時間がかかったんですよね。

清永さん そうですね。おさらいしますと、原告側によって訴えが出されたのが1955(昭和30)年4月。準備手続きを経て、最初の口頭弁論が開かれたのは、1960(昭和35)年2月。そして判決が出たのが1963(昭和38)年12月のことです。以前も紹介しましたが、トラコのモデルであるぶちよしさんは、その9回にわたる口頭弁論に、すべて立ち会った唯一の裁判官。ドラマと同じように、ずっと審理の行方を見続けていたわけです。

見るる そうでした! ところで、ドラマでは2人の「鑑定人」が登場していました。やっぱり、実際の裁判でもキーパーソンだったのでしょうか?

清永さん もちろんです。この裁判の最大の争点は、「原爆投下が国際法違反かどうか」。そこで、「国際法学者」が鑑定人として選任されたのです。ちなみに、実際の原爆裁判で選任された鑑定人は3人。

原告側が申請したのは、法政大学の安井かおる教授。そして国側が申請したのが、京都大学の田畑茂二郎教授、東京大学の高野雄一教授でした。全員が国際法を専門とする著名な法学者です。

そして、実際に提出された鑑定結果によると、安井教授と田畑教授は「(原爆投下は)非人道的、無差別攻撃であり国際法に反する」という意見。高野教授は「国際法違反の戦闘行為とみるべき筋が強い」としながらも「断定は避けたい」と述べています。

見るる なるほど。見るる的には、ドラマに登場した国際法学者の表情、セリフからも、そこはかとなく鑑定人の皆さんの心情を想像してしまいました……。

清永さん ところで、3人の国際法学者を鑑定人としたことは、別の効果ももたらしたんですよ。ドラマの原爆裁判の、第一回口頭弁論の法廷の様子を思い出してみてください。

見るる 様子といっても……うーん? 途中で、あの竹中記者が入ってきたことは、よく覚えてますけど……?

清永さん そう。彼以外、傍聴席には誰もいませんでしたよね。実際の裁判でも、傍聴人が一人もいなかったかどうかまでは確認できないのですが、実は原爆裁判は最初の頃、ほとんど注目を集めていなかったそうです。報道もほとんどされていなかったとみられます。

非公開の「準備手続」が27回も続き、5年間も法廷が開かれなかったことで、実質、「忘れられた裁判」となっていたのではないかと思われます。

しかし、鑑定人として国際法学者が3人も選任されたことで、司法記者の間で「裁判所は本気で国際法違反かどうか判断する気らしい」という認識が広がったようです。そこから徐々にこの裁判に注目が集まっていったと……。ですから、ドラマの第一回口頭弁論の傍聴席がガラガラなのも“史実”だったとみられます。

世界で初めての判決!「原爆投下は国際法違反」

清永さん そして判決です。「原爆投下と国際法」については次のような判断となりました。

広島、長崎両市に対する原子爆弾による爆撃は、無防守都市に対する無差別爆撃として、当時の国際法からみて、違法な戦闘行為であると解するのが相当である

原爆の投下が国際法違反であるという判決は、これが世界初でした。

見るる でも、結局、原告の請求は棄却されちゃうんですよね……?

清永さん そうです。判決の争点に対する判断としては、「原爆投下は国際法違反」だが「被害者は国に損害賠償を求めることができない」というものでした。判決文をここで終わらせることも可能です。しかし、判決の指摘はさらに続いているんです。

国家は自らの権限と自らの責任において開始した戦争により、国民の多くの人々を死に導き、傷害を負わせ、不安な生活に追い込んだのである。しかもその被害の甚大なことは、一般災害の比ではない。被告がこれにかんがみ、十分な救済策を執るべきことは、ごんを要しないであろう

しかしながら、それはもはや裁判所の職責ではなくて、立法府である国会および行政府である内閣において果たさなければならない職責である。しかも、そういう手続によってこそ、訴訟当事者だけでなく、原爆被害者全般に対する救済策を講ずることができるのであって、そこに立法及び立法に基づく行政の存在理由がある。
終戦後十数年を経て、高度の経済成長をとげたわが国において、国家財政上これが不可能であるとはとうてい考えられない。われわれは本訴訟をみるにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおられないのである

見るる 「政治の貧困を嘆かずにはおれない」──ドラマを観ながら、ずいぶん踏み込んだことを言うなあって思ってたんですけど、実際に使われた言葉だったんですね!

清永さん ドラマで汐見裁判長が読み上げた最後の部分は、本物の判決文ほぼそのままです。つまり、国は彼らに何かしらの救済策を取るべきであると促しているわけです。これはとても異例なことでした。

見るる そうなんですね! 確かに、この一文だけでも、裁判にかかわった裁判官のみなさんの強い思いがひしひしと伝わってきます。三淵さんもきっと、万感の思いで聞いていたんでしょうね。

清永さん ところが……実はドラマとは違って、この判決が言い渡された1963(昭和38)年12月7日、三淵さんは法廷にはいなかったんです。結審後、東京家庭裁判所に異動したため判決文が読み上げられた日の彼女の席には、すでに後任者が座っていました。

ただ、判決文は結審まで担当した裁判官が書くことになっているため、判決文には三淵さんの名前が記されていますよ。

裁判記録に残された三淵嘉子の署名(日本反核法律家協会所蔵)。

清永さん この判決文の作成に関わったのは、当時裁判長だった古関敏正さん、そして最若手でまだ判事補だった高桑昭さん、そして三淵嘉子さん。ただ、三淵さんが判決文のどこにどう手を加えたのかというところまでは分かっていません。

見るる きっと深い思いがあっただろうと、見るるは思います……!

清永さん もちろん、そうでしょう。敗訴とはなりましたが、この裁判の社会的意義は決して小さいものではありません。繰り返しますが、原爆投下は国際法違反だと司法機関が判断したのは、これが世界初。日本原水爆被害者団体協議会は「この裁判は、その後、被爆者援護施策や原水爆禁止連動が前進するための大きな役割を担った」と評価しています。

来年は、原爆投下80年の節目です。この判決は、国内で被爆者援護の基礎となったばかりでなく、世界的にも無差別大量さつりくを行う核兵器に対し「国際法違反」という大きな「くさび」を打ち込みました。その意味では、三淵さんたちが書いた判決文は、現代もなお生き続けていると言えるのではないでしょうか。

(参考:松井康浩『原爆裁判』(新日本出版社)、日本反核法律家協会「原爆裁判・下田事件アーカイブ」)


次週!

第24週「女三人あれば身代が潰れる?」9月9日(月)〜9月14日(土)

意味:《娘を三人も持てばその嫁入りの出費で身代をつぶしてしまう。娘を嫁入りさせるのに費用が多くかかることのたとえ》(「デジタル大辞泉」ほか参照)

さて、最終回まであと3週! うう。いよいよカウントダウンに入ってしまいました……。寂しい……。しかも、ついに第5代最高裁長官に桂場さんが就任! なのに、タッキーこと多岐川さんの表情は暗い? 声もなんだかつらそうな……。

と思ったら、「頼んだからな、桂場!」って、何を〜〜〜!? ああ、来週もやっぱり気になりすぎる!

というわけで、今週の「トラつば」復習はここまで。
来週の先生方の講義も、お楽しみに〜!!


清永聡(きよなが・さとし)
NHK解説委員。1970年生まれ。社会部記者として司法クラブで最高裁判所などを担当。司法クラブキャップ、社会部副部長などを経て現職。著書に、『家庭裁判所物語』『三淵嘉子と家庭裁判所』(ともに日本評論社)など。「虎に翼」では取材担当として制作に参加。
※清永解説委員が出演する「みみより!解説」では、定期的に「虎に翼」にまつわる解説を放送します。番組公式サイトでも記事が読めます。

2024年8月5日放送の『みみより!解説「虎に翼」解説(6)司法官たちと戦争』はこちらから(NHK公式サイトに移ります)。

取材・文/朝ドラ見るる、イラスト/青井亜衣

"朝ドラ"を見るのが日課の覆面ライター、朝ドラ見る子の妹にして、ただいまライター修行中! 20代、いわゆるZ世代。若干(かなり!)オタク気質なところあり。
両親(60&70代・シニア夫婦)と姉(30代・本職ライター)と一緒に、朝ドラを見た感想を話し合うのが好き。