最高裁長官・星朋彦(平田満)の著書の改稿作業を手伝うことになった寅子(伊藤沙莉)。改稿作業で出会ったのは、朋彦の息子・星航一でした。
横浜地裁の判事である航一は、いつも微笑みを絶やさないけれど目が笑っておらず、口癖は「なるほど」。何を考えているのかわからないと、最初は彼に対して苦手意識を持っていた寅子でしたが、改稿作業を通じて、少しずつ距離を縮めていきます。
航一を演じるのは、「なつぞら」(2019年放送)以来、2作目の“朝ドラ”出演となった岡田将生さん。航一をどんな人物と捉え、どう演じようと考えたのか、伺いました。
航一は、とにかく人との距離感が独特
──3月のキャスト発表から実際に撮影に入られるまでに、やや時間が空いたかと思います。出演にあたっては、どんなお気持ちでしたか?
第1週から、台本はいただいていたんです。もちろん放送も見ていましたから、自分も早く出演したいなってずっと思っていました。台本からして面白い作品ではありますけど、やっぱり実際に動いてみないとわからないところもありますから。
以前「なつぞら」に出演させていただいたとき、回を重ねていく中で、チームの関係がどんどんよくなっていくのを体験していたので、現場に途中から入る不安も、多少ありましたね。
──実際に現場に入ってみて、いかがでしたか。
伊藤沙莉さんのすごさに、日々驚いています。みなさんも放送でご覧になっているとおり、寅子は、伊藤さんのためにあるみたいな役ですし、彼女は誰が相手でも、会話のやり取りがすごくマッチするんです。お芝居の中で、話し手と受け手が自然にはまっていくというか。すばらしいですよね。
──ところがドラマの上では、そんな寅子が、航一とは「やりづらい」と言うシーンもありました。
そうなんです(苦笑)。この星航一という人は、本当にめんどくさい……いや、そんな簡単なひとことで片付けたくないとは思っているんですけど、とにかく人との距離感が独特で。会話でも、ほかの人とはちょっとリズムが違うんです。
だから伊藤さんも、航一と2人のシーンのときは、カットがかかるたびに「やりづらい〜!」と言っていて、申し訳なくなります。でも今は、あえて、それが正解かなと思ってやっていますね。そのうえで、でもなんだか気になる、この人のもっと深い部分を知りたい、と思ってもらえる一面が見せられたらいいなと思っています。
──第14週の段階では、航一がどんな人なのか、よくわかりません。岡田さんは、どんな人物だと捉えていますか?
彼がどんな人で、どんな過去があって、何を考えているのかは、物語が進むにつれてだんだん明らかになってくるのですが、僕が印象的だったのは、廊下で寅子と航一が最初に出会うシーンです。けっこう距離があるのに、彼はいっさい近寄らないまま会話をするんですよね。それが僕には新鮮でした。
彼は、無理に、というより“無駄に”相手との距離を縮めない。常に自分のペース、自分のリズムを乱さずに生きている。そんな彼のあり方が、よく表れているシーンだと思います。少なくとも、僕自身は、そのシーンを撮影して以来、とてもしっくりくるようになりました。
航一の「なるほど」は、案外いい言葉かもしれない
──そんな航一から見て、寅子とはどんな存在だと思われますか?
人間性が真逆、なんですよね。誰に対しても距離を置こうとする航一と、関わった相手全員にほぼフルオープンな寅子。僕自身も基本的に人見知りで、それほど積極的に人と関わろうとするタイプではないので、寅子のような性格には憧れます。
大人になると、仕事の人間関係でも、プライベートな友達に対しても、どこか諦めちゃうことってあるじゃないですか。でも寅子の場合、簡単に諦めずに、相手を知ろうとして、どんどん攻めていく(笑)。航一も、そういう自分にはできないことをしている彼女の姿を、うらやましいと感じているんじゃないでしょうか。
でも、寅子と出会い、関わっていくことで、航一も変わっていくのかもしれません。それは、僕もこれから楽しみです。
──航一は、しょっちゅう「なるほど」と言いますが、あのセリフはどう捉えていますか?
本当にしょっちゅう言ってますよね。すでに寅子の「はて?」を越えそうな勢いです(笑)。しかも、いろいろなタイプの「なるほど」があるんです。とはいえ、だんだんバリエーションがなくなってきた気もしますが。
僕としては、案外いい言葉かもしれない、と思うようになってきました。人の話を聞いて、納得しているわけですから。ただ、時には相手の話を断ち切ってしまうこともあるので……。難しいけど、面白い言葉ですよね。
──今週放送の第68回では、航一の父である星朋彦さんが逝去しました。朋彦を演じた平田満さんとのお芝居はいかがでしたか?
平田さんとは以前、「昭和元禄落語心中」というドラマで、落語家の師匠と弟子として共演させていただいたことがあるんです。だから、いまだに僕にとって平田さんは“師匠”。今回はそれがお父さんになったという感覚でした。
当時僕は、平田さんがいつでも楽しそうに、柔軟にお芝居されている姿にすごく感化されたのですが、それは今回も同じで。親子役をやらせていただけて、うれしかったですね。
おかだ・まさき
1989年8月15日生まれ、東京出身。NHKでは、大河ドラマ「平清盛」、連続テレビ小説「なつぞら」、「絆〜走れ奇跡の子馬〜」「昭和元禄落語心中」「タリオ 復讐代行の2人」など。近作に、ドラマ「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(フジテレビ系)、「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日)、映画『ドライブ・マイ・カー』『1秒先の彼』『ゆとりですがなにか インターナショナル』『ゴールド・ボーイ』(2024年)など。出演映画『ラストマイル』が8月23日(金)に、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が11月に公開を控える。