帝大を目指して岡山の寄宿学校に通っていた、猪爪家の末弟・直明。戦後は実家に戻り、一度は進学をあきらめるも、無事帝大に入学しました。勉学のかたわら「東京少年少女保護連盟」で戦災孤児たちのケアをするボランティアにいそしむなど、とも(伊藤沙莉)の自慢の弟です。

そんな直明を演じるのは、三山凌輝さん。ボーイズグループ「BE:FIRST」のメンバーRYOKIとして音楽活動も行っています。
初の朝ドラ出演にあたっての思いや、直明を演じる上で心がけたことなどを伺いました。


自分のやんちゃな部分をいったんそぎ落として、“熱量”のほうに注ぎ込む感覚です

――朝ドラ初出演ということで、ご出演が決まったときの心境からお聞かせください。

ただただ嬉しかったですね。グループとしての活動だけでなく、俳優としての個人活動にも注目してもらい始めたタイミングで、伝統ある朝ドラに出演できるというのは、大きな意味を持つことです。「虎に翼」は、自分の役者人生にとってすごく大切な作品になるだろうなと、クランクインする前から確信していました。

出演が発表されてからは、本当にいろんなところから声をかけていただいて、とにかくありがたかったです。皆さんからの期待を感じましたし、昔から応援してくれているファンの方に恩返しできるという気持ちにもなりました。

――三山さんは、直明をどんな人物だと思って演じられていますか?

素直で、真面目で、まっすぐ。誰かのために自分を押し殺すこともできる人だと思います。ただ、自分の思いを殺してしまうというのは必ずしもいいことではないので、そういう意味では、まだ人として成長段階にあるのかもしれません。

あとは、人間が好きで、人間と接することも好きだと感じます。心をえぐられるようなトラウマがあるわけではないけれど、戦争を経験して「自分ひとりが楽しく人生送るだけじゃダメだ」いう思いが生まれ、戦争孤児に目を向けるようになったのかなと想像しました。

――そんな直明に、三山さん自身が共感する部分はあるのでしょうか。

アーティスト活動を通じて、僕のやんちゃな面をご存じの方は、直明とはかけ離れていると感じるかもしれません。でも自分では、根本的な熱量は似ていると思いますし、共感できる部分も多いです。

たとえば、直明はどうしてあんな素直な人間になったんだろうと考えると、やっぱり周囲から深い愛情を受けていたからだと思うんです。僕自身も家族からたくさんの愛を受けて育ったので、そこに関しては、お芝居に自分自身を乗せていけばいいのかな、と。

真逆の人間を演じているのではなく、自分の中のやんちゃな部分をいったんそぎ落として、“熱量”のほうに注ぎ込む感覚です。

――直明は子役から登場していて、第9週で三山さんにバトンタッチしたわけですが、猪爪家に途中から合流するにあたり、どんな心持ちで臨まれましたか?

正直、初日は本当にプレッシャーを感じました。皆さんが長いこと一緒に撮影して関係を築いている中に、突然、僕ひとり入っていくわけですから。
ただ、ストーリー上、直明も久々に家族のもとに帰ってきたという設定なので、きっと家族との間にちょっと探るような空気や緊張感があったはず。

だから僕自身の緊張も含めて、自分なりの直明を演じようと決めました。それに、猪爪家は“スーパー俳優さん”ばかりなので、まずは皆さんにお預けして、僕は全力で“受け”の芝居をしようと。

――実際にお芝居を交わしてみて、いかがでしたか?

実は、直明が岡山から帰宅するシーンが、僕のクランクインだったんですが、皆さん「初めまして」の僕に、抱きついて泣いてくれるんですよ。すごいなと思いましたし、あの感動は未だに忘れられないです。

今は緊張もすっかり解けて、猪爪家の皆さんといると、本当の家族みたいに感じます。お母さん(はる/石田ゆり子)も、お姉ちゃん(寅子/伊藤沙莉)も、それぞれが自然と自分のポジションにいるので、僕も現場で“弟”としてのびのびとさせてもらっていますし、スタジオの外でも仲よくしていただいています。

僕は花江さん(森田望智)の息子、直人(琉人)と直治(楠楓馬)と一緒の撮影が多いんですけど、「直明お兄ちゃんとごはんに行く」と言われて、よく3人でNHKの食堂に行くんです。丸坊主の3人が並んでご飯を食べていると、頭の高さで携帯電話の電波状況のマークみたいになってて(笑)。

“坊主3人衆”としてちょっと有名になっていたらしいです。恥ずかしいけど、2人ともめっちゃ可愛いですね。最近は、撮影期間が空くと、すごく寂しくなります。


「虎に翼」はきれいごとだけでなく、人間としての矛盾も描かれている

――第11週では、直明が寅子の職場で、対立する家事審判所と少年審判所のメンバーのかたくなな心を溶かしました。あのシーンをどう表現しようと思われました?

セリフにもありましたが、直明は素直に家庭裁判所を作るのは素晴らしいことだと考えているだけで、「自分がみんなを動かさなきゃ」みたいな、ヒーロー気取りの感覚はなかったと思います。もちろん、お姉ちゃんの力になりたいという気持ちはあるけれど、まずは、直明の思いを真っすぐ伝えることを大事にしました。

ただ、脚本のト書きに「目がキラキラしている」というのがありまして。キラキラってどうしたらいいんだろう? と考えていたら、監督が「目に光を入れるからね」と、スタジオにいろんな照明機材を入れて撮影してくださったんです。そうしたらありがたいことに、目に光がいっぱい入って、本当にキラキラしました(笑)。

直明にあてられて、周りもみんなキラキラしちゃうという演出になっていたのも面白かったですね。直明のせいで、その場の全員がキラキラさせられていて、思わず笑っちゃいました。

――コミカルなシーンは、「虎に翼」の魅力の一つでもありますね。三山さんは、吉田恵里香さんの「生理おじさんとその娘」にもご出演されていますが、吉田さんの脚本の魅力をどこに感じますか。

すごく“攻めた”脚本を書かれるイメージです。それに、どのキャラクターもきれいごとだけでなく、人間としての矛盾も描かれているから、人間味があるんですよね。しかも、攻めたテーマを扱っているのに、見たときにすごく共感できるように仕上げられていますので、読みながら「あ、わかるわかる」と感じる瞬間がたくさんあります。

実はこの前、吉田さんとお話しする機会があったんですが、「勉強しながら、なんとか書いてます」っておっしゃっていて。「えっ『なんとか書いてます』のクオリティーじゃないですよね!?」と驚いてしまいました。すごいな、天才的だなと。

――最後に、三山さんから見たドラマの魅力や、今後の見どころなどを教えてください。

僕自身、撮影に入るとき「虎に翼」ってなんでこんなに魅力的なんだろう? と考えたんです。そのとき思ったのは、テーマの一つであるいろんな種類の「差別」や「生きづらさ」が、現代社会でも大きなトピックで、他人事じゃないという感覚で見られることが大きいのかなと。

当時より良くなっているとはいえ、今もまだ生きづらさを感じる場面はありますし、ストレスだってたまりやすい。みんないつも、どこかせかせかしていて……。僕自身、気づいたら同じようにせかせかしたり、イライラしたりすることも多いです。

でも「虎に翼」で直明を演じていると、気持ちが落ち着いて、 デトックスされる瞬間があって。「そんなに怒る必要はないな」「人にやさしくしたいな」と、リラックスできるんです。

視聴者の方にもそんな空気が伝わって、穏やかな気持ちになってもらえるといいですね。直明についても、今後お姉ちゃんのそばでどんな存在になっていくのか、その成長に注目していただけるとうれしいです。

【プロフィール】
みやま・りょうき
1999年4月26日生まれ、愛知県出身。俳優として、またボーイズグループ「BE:FIRST」のメンバーとしても活動。NHKでは、吉田恵里香脚本のドラマ「生理のおじさんとその娘」に出演。近作に、映画『HiGH&LOW THE WORST X』、ドラマ「往生際の意味を知れ!」など。