最愛のきさき・忯子が亡くなったことで失意のどん底に陥り、政も投げやり状態の花山天皇。特異なキャラクターで知られ、さまざまな奇行も伝えられるこの難役をどのように演じているのか。本郷奏多に話を聞いた。
花山天皇は悪い人ではない!? 意外性のあるキャラは演じていて楽しいです
──大石静さんが描く花山天皇についての印象は?
まずは「変な人だな」と思いました(笑)。現代を生きる僕たちが持っている天皇のイメージとかけ離れているので、演じるのが面白そうだなというのが率直な感想です。
──大石さんの脚本ならではの面白さとは?
史実として今に伝わっているエピソードを描くときも、登場人物にちゃんと人間味を持たせて、キャッチーな物語に落とし込むような肉づけをしていく。そこが本当にすごいなと感じます。
セリフ回しも特徴的ですよね。ときどきハッとするような現代語っぽい言い回しが含まれていたりして。もちろん狙って書かれていると思うのですが、魅力的な部分だと思いますね。大石さんの言葉を大切にしたいので、僕は台本でいただいたセリフを一字一句変えずに全部しゃべっています。
──実際に花山天皇を演じてみて、いかがでしたか?
誰かに当たり散らしたり、すごく落ち込んでいたり、かと思えば大喜びではしゃいでいたり。感情の起伏が激しいキャラクターなので、かなり体力が必要な役どころです。スタッフさんとアイデアを出し合いつつ、 振り切って演じています。
監督やプロデューサーから共通してお聞きするのは、「花山天皇は悪い人ではない」ということ。誤解されがちですけど、若くして天皇に即位したことで、いろんな物事に巻き込まれてしまっている不憫な人なんです。
取り巻きの重臣の中にも、本気で彼のことを思ってくれている人はいないですし……。なので、悪役に見られないよう気をつけて演じています。
本作の花山天皇の魅力を一言で言えば、大河ドラマに出てくるキャラクターっぽくないところでしょうか。普通やらないだろうと思うような“遊び”を結構取り入れているので、他の登場人物より目立ちますし、そういう役を組み立てていくという作業は非常に面白いです。
── “遊び”とは、具体的にはどういうものでしょう?
たとえば、リハーサルのときに考証の先生が「天皇は本来ここには下りない」とか「天皇は自らここに触れたりしません」とか教えてくださることがあるんですけど、監督たちは口をそろえて「花山天皇だからやっちゃいましょう」とおっしゃるんです(笑)。
第2回では、檜扇を足の指で開くシーンもありましたね。もちろん、普通はしないことですが、 「花山天皇だからこれくらいはやる!」ということになって(笑)。その意外性あるキャラクターを演じていて楽しいし、見ている方にとっても印象に残る役なんじゃないかなと思います。
──花山天皇はすごく女好きとして知られていますね
花山天皇について調べると、確かに女好きのエピソードがたくさん出てきます。でも今作の花山天皇は遊び人というより、妻の忯子を一直線に愛している気がします。
だから、一つのことに激しく熱中してしまう人とも言えますね。忯子も花山天皇の愛に応えてくれている。ふたりは互いに信頼し合う、ある意味純愛に近い夫婦関係だったのではないかなと思います。
ただ忯子の存在がすごく大きかったからこそ、それを失った花山天皇は自暴自棄になって、本来だったら踏みとどまるような行動さえしてしまうことに。そういう意味で彼はすごくピュア。だから、周りの人にもだまされてしまうというか。
──やはり忯子の死は、大きなターニングポイントになりそうですね。何か意識されましたか?
がっつり意識しました。彼女の死後、やっぱりズーンと落ち込んでいるし、ずっと「忯子、忯子」と名前を呼んでいます。このお芝居で監督と話し合ったのは、花山天皇にはいないはずの忯子が見えているときがあるんじゃないか?ということ。
そのくらい依存していたというか、そういう捉え方でお芝居しているときもあります。
──大河ドラマ「麒麟がくる」(2020年)では公卿・近衛前久役で、今回は天皇役。何か準備をしましたか?
所作の稽古は何度かさせていただきました。でも平安時代だから、天皇役だからと、特別な稽古はあまりなかった気がします。それこそ、「麒麟がくる」で教えていただいたことが今回も通じた部分が結構多くて。まあ「花山天皇だから、細かい所作はいいか」みたいな感じだったかもしれないですけどね(笑)。
──御所内のシーンで印象に残っているものはありますか?
帝というのは、どうしても普通の人とは違う位置にいる“神”のような存在です。花山天皇自身は常識に囚われないキャラクターなので、そういうことは気にしていなくて、いろんなところにぷらぷら一人で行っちゃったりもする。そういうの面倒くさいよね、というように。
でも、そうは言っても大勢の人が集まるシーンでは、毎回いちばんいい場所にいますね。第4回では、五節の舞を眺めるシーンがありましたが、僕がいたのは屋内のいちばんいい席でした。
じつはあの時、撮影中に雨が降ってきて。スタッフさんやほかの出演者さんは“てんやわんや”だったんです。でも、屋内にいた僕だけすごく快適で……思い出深いです。天皇でよかったなと思いました(笑 )。
平安時代は、スピリチュアルでロマンチックな時代
──平安時代には、どのような印象をお持ちですか?
今のような文明がまだ発達していない時代なので、それこそ呪いを信じていたり、目に見えない何かを本気で怖がっていたりする、そういう面白さがあると思います。
たとえば「死はケガレ」とされていたので、死んでしまった大切な人にも会わせてもらえなかった、というエピソードを聞くと「それは絶対会いたいだろうし、顔も見たいよな」……と思います。
でも、当時はスピリチュアル的なものが常識として取り扱われている時代。それがやっぱり興味深いですね。占いが政治に関わるなんて、今じゃあり得ない感覚ですし。
でもその分、歌を贈り合ったり、文を代筆する職業があったり、ロマンチックさもありますよね。現代とも、大河ドラマでよく見る戦国の世とも違う。一般的になかなか馴染みがないので、新鮮で面白いです。
──衣装についてはいかがでしょうか?
天皇の衣装はほかの役に比べて意外に少なくて、「麒麟がくる」で前久を演じたときの方がいろいろな衣装を着ていた印象があります。今回の衣装では、長袴を履いたことが印象的でした。
なかなか動きづらいのですが、たくさん練習してしっかり着こなして、遊んでいるシーンも結構あるんですよ。体を動かして遊ぶことで、花山天皇の子どもっぽさを演出してみたりもしています。
実資役の秋山竜次さんは一方的にすごく好きな方で、ニヤニヤ……
──忯子を演じられた井上咲楽さんとお芝居された感想は?
「しっかりとしたお芝居はあまりやったことがない」とお聞きしていたのですが、だからこそ、すごくまっすぐな佇まいで、ピュアな目線をぶつけてくださったのが印象的でした。
きっと忯子のこういうところに、花山天皇も惹かれたんだろうなと感じさせられました。すごく素敵なキャラクターに仕上がっていたんではないでしょうか。
──側近には、岸谷五朗さん演じる藤原為時がいらっしゃいますね
じつは岸谷さんとは、僕が小学生の時に出演させていただいた、デビュー作でもある映画『リターナー』(2002年)という作品でご一緒させていただいているんです。当時、僕は子役だったので、出演シーンは本当に少なかったんのですが、なんと岸谷さんが覚えていてくださって!
最初にご挨拶をしたとき、こちらからその話題を出す前に「本郷くん、久しぶりじゃん、あの時は小学生だったよね」と言ってくださったのがめちゃくちゃうれしかったです。岸谷さんのおかげで緊張がほぐれて、その後も楽しくお芝居することができました。
──撮影中、印象的だった共演者さんは?
すごく印象に残っているのは、藤原実資役の秋山竜次さんですね。共演させていただくのは初めてだったのですが、同じシーンでご一緒できてすごく楽しかったです。
ふだんから一方的に、すごく好きな方だったので、お芝居中、秋山さんが真面目な顔で正座しているだけでうれしくて、面白くてニヤニヤしていたら、「なんで笑っているんですか!」って突っ込んでくださって(笑)。とてもすてきな方でした。
──主人公のまひろとはほとんど絡まないと思いますが、まひろ役の吉高由里子さんについては?
まひろとは五節の舞のシーンで一緒になったくらいで、ほとんどお芝居中の姿は見られていないんですよ。でも、吉高さんとは以前共演させていただいたこともあって、すごくすてきな女優さんだと思っています。
視聴者の一人として画面上でまひろの活躍を拝見していますが、平安時代が舞台で、女性の主人公でという本作の主演を見事に務めていらっしゃいますよね。まひろが出演しているパートは、これからも楽しみにしています。