この数年で、LGBTQという言葉を多くのメディアを通じて耳にする機会が増えた。メディアが取り扱うようになったのは、自治体や非営利団体の活動、個人の声の多さに社会が少しずつ目を向け始め、人権課題のひとつとして考えられるようになったからではないだろうか。

LGBTQの認知度が高まる一方、アロマンティックやアセクシュアルをはじめとする多様な性のあり方(Aro/Ace)についてはあまり知られていない。(アロマンティック=他者に恋愛感情を抱かない、アセクシュアル=他者に性的に惹かれない)

「アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2022 概要報告」より引用

自分の性別と自認する性の関係性について、日常的に考えることが少ない世の中で、去年NHKで放送されたドラマ「恋せぬふたり」は、社会が内包する課題について向き合う大きなきっかけになったといえよう。そして、12月14日に最終回を迎えた、夜ドラ「作りたい女と食べたい女」でも、自分の性や社会の窮屈さといった課題を取り上げているように、多様な性の認知の拡大は進んでいる。

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そんな中、12月10日(土)、早稲田大学で「恋せぬふたり」の考証をつとめたAs Loopによる『Aro/Ace2022調査発表会』が行われた。登壇したのは、中村健さん(As Loop)、三宅大二郎さん(As Loop)、今徳はる香さん(にじいろ学校 代表)、平森大規さん(法政大学助教)。

左から中村健さん、三宅大二郎さん、今徳はる香さん、平森大規さん。

ここでは、データによる調査報告をもとに、そこから見えてくる社会の変化について考察した。
発表会には、幅広い年齢層の165名が参加。また、聴講者への配慮や、性的な言葉が含まれることを事前に伝えるなど、安心して参加できる多様な配慮がとられていた。

調査の目的としては、以下の3つを掲げている。
①Aro/Aceの可視化を促すこと
②Aro/Aceもコミュニティに集まる人たちの多様性について議論するための情報を収集する
③Aro/Aceに関する情報を提供し、学術研究の発展やAro/Aceに関する運動の活性化に寄与する

調査は、ことし6月にWeb上のアンケートフォームを活用して実施。今回の発表会では、恋愛的項目や性的項目、カミングアウトやパートナー関係など、さまざまな設問から抜粋して結果の速報値が報告された。

その報告の中で、“Aro/Aceとして生きる中で不安を感じること”が、大きな課題のひとつとしてあがった。

不安を感じる理由として、いちばん多かった回答が、「周囲に自分の在り方を理解されないこと」。冒頭でも述べたように、Aro/Aceという言葉を一般的に耳にすることがあまりない中、「理解されないこと」が不安を感じるいちばんの要素となるのは、当然のことのように感じる。

また、Aro/Aceであることをカミングアウトした相手についての調査で最も多かったのは、「誰にも伝えていない」という回答。

このふたつの調査はまさに、これからAro/Aceを可視化することが、いかに重要かを示すものとなった。

さらに、“Aro/Aceであることから経験したこと”というアンケートでは、さまざまな回答が寄せられ、中には『親しい友人にカミングアウトしたが「何かトラウマがあるんじゃないか」と言われた』という回答も見られた。

これもまた、“わからない”“知らない”ということがこのような返答につながっている。だが、これは相手を思い、何か言葉をかけたいと選んだものが、結果的に当事者を不愉快にさせることとなってしまったのだろう。

聞いたことがないことやわからないことに対しては、自分の知識を押し付けず、相手の意見や思いを受け入れる姿勢が大切だと思う。そして、このような調査や発信していく人たちの力が、社会での可視化につながり、その結果、不安に感じる要素がひとつずつ薄れていくことに期待したい。

そして印象的だったのが、“Aro/Aceに関する作品を望むか”という設問で53.9%の人が“望む”と回答したこと。

これは「恋せぬふたり」というドラマが社会にあたえた影響力の大きさも関係していることだろう。「恋せぬふたり」でAro/Aceを初めて知っただけではなく、恋愛や性愛、家族にもさまざまなかたちがあることを知った方も多いだろう。
「いろんな人がいる。それでいいのでは?」という作品の思いが、多くの視聴者に届いたドラマ。同様に、「作りたい女と食べたい女」も、日常の疑問や違和感と向き合いながら、優しく心に問いかけてくれるドラマとなっている。

報告会終了後には、40を超える質問が寄せられた。これからの社会に何が必要なのかを可視化する意義を感じた人も多いのだろう。当たり前や当然だと思っていることこそ、見つめ直す必要性が大いにあることを改めて感じる。

Aro/Aceも多様であるように、セクシュアリティに関わらず、多様性の中に自分自身も存在していることを忘れてはいけない。そのことを理解したうえで、互いを尊重しあうことが、よりよい社会を築きあげるひとつのきっかけになるのではないだろうか。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。