「超多様性トークショー!なれそめ」
Eテレ 毎週(金)午後10:00~10:29
再放送 毎週(火)午前0:00~0:29(月曜深夜)
NHKプラスでは同時配信、放送から1週間見逃し配信しています。
「きちんと話し合わなきゃ。
でも、改めて話すのはめんどうだし、言わなくてもわかるからいいか……」
共に過ごす時間が長い家族や大切な人に対して、言葉にしなくてもなんとなく伝わるだろうと思ってしまうときがある。
だが、私たちが想像している以上に、言わなくては届かないことはたくさんある。「以心伝心」や「言わずもがな」といったことが日本では美徳とされる向きもあるが、実際はそうはならない。メールやSNSによるコミュニケーションが増えた今、むしろ「伝心」することのほうがまれであるようにも感じる。
そんな折、
「超多様性トークショー!なれそめ」6月2日(金)の放送を見て、互いにきちんと向き合い、言葉にして話し合うことが大切であると、あらためて心に刻むこととなった。
今回のゲストカップルは、性教育ユーチューバーとして活動するシオリーヌさん&トコトン話し合うことを大事にするつくしさん。
過去の経験からなかなか人を信じることができないシオリーヌさんと、職場の人間関係や働き方に悩んでいたつくしさんのふたりがどのようなきっかけでカップルになったのか? そして、トコトン話し合うなかで見つかる、安心感や幸せとはどのようなものなのか?
「なれそめ」のキーワードを記した「なれそメモ」をもとに、司会の田村淳さんとゲストの方々がひも解いていく――。
ふたりが出会ったのは、つくしさんが看護師として働いていたときに参加したあるイベント。出会ったときから、「話し合う」ことをとても大事にしていることが互いの共通点だとわかり、交際へと発展するきっかけになった。
だが、過去に離婚を経験したことなどから、シオリーヌさんは、つくしさんがいい人だとはわかっていながらも、信頼しきれずにいる自分に引け目を感じていたという。
そんな思いを抱えていたシオリーヌさんに対し、つくしさんが交際する前にとった行動が「性感染症検査」だった。なぜ、つくしさんは性感染症検査を交際する前にしようと考えたのか。それは、シオリーヌさんのYouTubeチャンネルにあった過去の動画を見たことが理由だったのだ。
実は、私はシオリーヌさんのYouTubeチャンネルを大学生のころから知っていた。教育実習で扱う保健の授業に備え、シオリーヌさんの番組を見ていたのだ。今回、性感染症検査が交際理由とどのように結びつくのか知りたくなった私は、再びシオリーヌさんのYouTubeチャンネルを訪れた。
▼関連動画はこちらから▼
https://www.youtube.com/watch?v=sd0NDic66Og
動画では、「性感染とはなにか」「どんな方法で検査を受けることができるのか」など、とてもわかりやすく解説されていた。とくに、パートナーが変わったタイミングで検査することが重要だとうったえるシオリーヌさんの姿が印象に残った。その他、性教育をドラマ化したものや世界と日本の性教育に対する考え方の違いを紹介した動画もあった。充実したその内容とともに、どれも彼女の情熱が感じられるものであった。
つくしさんが、自分が発信していることを大事に思って行動してくれたことが何よりうれしかったと語るシオリーヌさん。その姿からは、人に対する不信感をつくしさんがぬぐってくれたのだと伝わってくる。
自分が大切にしているものを否定されると、自分自身を否定されているのと同じくらいつらく感じてしまう。だが、自分が大切にしているものをわかろうとしてくれる人と出会えたとき、うれしくなって、不思議と前向きになれることがある――。
今回のふたりのように、互いに向き合おうとする気持ちや行動が、大きな安心感や自信をもたらしくれるのだ。コミュニケーションが多様化するなかで、忘れたくない視点だ。
もう一つ、私の考えを変えてくれた言葉が「結婚」の話題の中にあった。
それはふたりが悩んでいたという、「いい旦那さん」という言葉。
一見、何の違和感も覚えないポジティブな表現に見える。
だがこれは、男性はあまり家事や育児に対して積極的ではないという固定概念から生まれたもの。つまり、古典的な男性と女性の役割を比べることから生まれた表現だ。
トランスジェンダーとして生きる私は、「社会のなかでとらわれている性」という考え方と最近向き合っていたので、とてもタイムリーに受けとめた。現在、男性として生きている私は、将来家族が出来たときに仕事を頑張らないといけないとか、経済的に安定させないといけないなどのプレッシャーを感じることが増えてきていた。
それは、私が男性として周りから見られるようになったことが大きな要因であると思うが、正直、私は男性として生きる生活にまだ慣れていない。だからこそ感じる、「男女のギャップ」があった。
今回の番組のなかでシオリーヌさんとつくしさんが語った、「それぞれの性分にあう役割を担う」という考え方は、「社会における普通」にとらわれない自由な生き方だ。自分が好きなことを見つけることも大事、そしてそれと同じくらい自分の性分に合っていることを見つけることが大切だと思い至った。
ふたりの「なれそめ」は私のなかのモヤモヤを払拭するとともに、安心感をも届けてくれた。自分らしくマイペースで歩んでいいのだと。
そして、ふたりが考える「超多様性」とは――?
「違いを否定しないこと」(シオリーヌさん)
「当たり前を疑うこと」(つくしさん)
きちんと向き合って言葉を交わすことによって、人は信頼と安心を感じる。
そんなあたり前で大切なことを、私たちは見失いがちだ。安心感や信頼感、そして未来への希望を大事な人に届けるために、「話し合う」という選択肢がとれる自分でありたい。
(文/正木菜々瀬)
性教育ユーチューバー&トコトン話し合う彼の「なれそめ」は、本放送から1週間見逃し配信しています。
https://www.nhk.jp/p/naresome/ts/KX5ZVJ12XX/episode/te/E87MP8KMZ4/
次回の放送は、6月9日(金)
「車いすで幸せに向かう #有本奈緒美 さん&愛が止まらない #昌人さん」カップル!
https://www.nhk.jp/p/naresome/ts/KX5ZVJ12XX/episode/te/2W7WXQX6QZ/
(放送後、1週間見逃し配信しています)
1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。