NHKの“夜ドラ”(総合、月~木曜 午後10:45~)では、これまで「作りたい女と食べたい女」「コトコト~おいしい心と出会う旅~」が放送されただけに、「あおぞらビール」というタイトルを聞いて「グルメドラマか」と思った人は少なくないでしょう。

いざドラマがはじまってみたらグルメではなく、キャンプがテーマのドラマでした。若年層のキャンプブームが定着した感があるだけに、ついに「NHKもやるのか」というところでしょうか。

これまでキャンプがテーマのドラマは、2019年10月期の「ひとりキャンプで食って寝る」(テレビ東京系)、2020年1月期の「ゆるキャン△」(テレビ東京系)、2021年4月期の「ゆるキャン△2」(テレビ東京系)、2025年1月期の「ふたりソロキャンプ」(TOKYO MX)などが放送されました。また、YouTube内のドラマでも、「おやじキャンプ飯」「ひとりキャンプ」「女子ソロキャンプ」などが配信され、再生数を稼いでいます。

さらに放送・配信を問わずキャンプを扱ったバラエティやドキュメントなども多いだけに、主要テーマの1つとなったと言っていいのかもしれません。

ただ、「あおぞらビール」は公共放送のNHKが手がけるドラマであり、さらにプライム帯の帯ドラマでもあるなど、16日のスタート早々からちょっと違うな……というムードが漂っています。


底抜けに明るく元気な3人の大学生

ドラマ「あおぞらビール」のコンセプトは、「夜のリラックスタイムをほのぼのしながら、川や山でとれた自然の恵みやご当地グルメを、青空の下で冷えたビールと一緒に楽しむアウトドア・ドラマ」。こうして文字で見ると、さわやかな印象を受けますが、はじまってみたら底抜けの明るさと元気を前面に出した作品でした。

自称「Fラン大学」4年生の主人公・森川行男(窪塚愛流)は、まさに愛すべき「アウトドアバカ」の自由人。「とにかく日々を楽しく過ごしたい」とキャンプを繰り返し、テント設営、料理、食事、アクティビティなどすべてのシーンを全力で楽しむ姿を見せています。

そんな行男の明るく元気な姿と、キャンプ技術を目の当たりにした同級生・八木拓馬(通称・マルコ、藤岡真威人)とバイト先の後輩・松宮一朗太(南出凌嘉)も、すぐにテンションがシンクロ。料理が完成したら「できあがり!」と笑顔で叫び、食べはじめたら「最高!」とまた笑顔で叫び、「ごちそうさま」や記念撮影なども含め、3人がはじけるような満面の笑みを見せるシーンが続いていきます。

当初、マルコは就活に苦戦中の身であり、一朗太は「流行はやっているから」という浮ついた興味に過ぎませんでしたが、2人は行男に巻き込まれるような形でキャンプの醍醐だいごを体感。さらにそんな3人を見守る視聴者も行男に巻き込まれるような形で、キャンプを疑似体験できるのが当作の魅力でしょう。


「チャラいがルールを守る」若者像

なかでも作品のコンセプトを体現しているのが「カンパイ!」のシーン。行男のモットーは「人生の豊かさは、大自然の中、青空の下で、キンキンに冷えたビールを飲んだ回数で決まる」だけに、毎話盛り込まれる渾身こんしんの「カンパイ!」と3人の笑顔に癒やされると言う人は多いでしょう。

そして彼らに癒やされるもう1つの理由は、キャンプにおけるモラルを守り、ルールを破らないこと。特に行男は「俺には合わない」と就活を避け、一朗太は金持ちのボンボンで軽薄なところもありますが、決してノリがいいだけの大学生として描かれていません。特に「現在22歳でキャンプ暦20年」の行男は大人以上にキャンプのルールを守る姿が描かれています。

たとえば、食料調達のために釣りをするシーンではマルコと一朗太に「海で竿さおを使って魚を釣る行為は川と違って制限されてないから入場料を払わなくていい場合が多い。ただ、サザエとかアサリとかの貝類とか、タコとか伊勢エビとかは共同漁業権の対象になっちゃうからると密漁になっちゃう場所もある」と語りかけていました。このような視聴者の学びになるセリフも織り込むことで、外見のチャラさや快楽主義とのギャップが生まれ、愛すべきキャラクターになっています。

その一方で「けっきょくカップラーメンが一番うまい」と話して居合わせた上級キャンパー・大山千晶(佐藤江梨子)を驚かせる自由さも、かわいげを感じさせるポイントの1つ。いい意味で大人キャンパーのようなプライドや固定観念がないことも、キャンプ事情に詳しくない一般視聴者にとってのハードルを下げています。


毎日キャンプシーンがある帯ドラマ

さらに帯ドラマならではの面白さは、第1週目が「ゴムボートで川の上流から海までぐ」、第2週目が「節約コスパキャンプ」などと週ごとのキャンプテーマを追う楽しさがあること。「月曜の放送から週替わりのテーマが少しずつ進められ、木曜に結実する」「毎日キャンプをする姿が見られる」という構成は他のキャンプ系ドラマにはない帯ドラマならではの魅力です。

一方でグルメドラマとしては、ここまで他のキャンプ系ドラマとの差はさほど感じられません。たとえば、第2週で行男が作った山菜の天ぷら、イカのまるごとバターしょうゆ焼き、アオリイカのイカスミパエリアなどは料理番組を超えてCMレベルのシズル感がありました。

ただそれでも当作のメインはやはり行男たち若者キャンパーの生き生きとした姿なのでしょう。自然の中で何も考えずに好きなことを楽しむ無垢むくな姿は、都会で働く大人が失いがちなものであり、そのまぶしさをでる作品のようにも見えます。

冒頭にあげたキャンプ系ドラマの中で最大のヒット作は「ゆるキャン△」シリーズで間違いないでしょう。同作は、福原遥さん、大原優乃さん、田辺桃子さん、箭内夢菜さん、志田彩良さん、石井杏奈さんら若手女優が集結することで話題を集めましたが、「あおぞらビール」はその男性版にも見えます。21歳の窪塚愛流さんと藤岡真威人さん、19歳の南出凌嘉さんという近未来のゴールデン・プライム帯を担うであろうイケメン俳優を先取りすることも楽しみの1つです。


キャンプ系は夏ドラマの定番になるか

もう1つ忘れてはならないのは当作がプライム帯で放送されていること。これまでのキャンプ系ドラマは深夜帯の放送かネット配信であり、それがニッチな印象につながっていました。

一方、「あおぞらビール」は視聴者の多いプライム帯だからなのか、上級キャンパーの行男だけをフィーチャーした物語ではありません。初心者キャンパーのマルコと一朗太の目線からも楽しめるなど、ライト層を置き去りにしないプロデュースに気づかされます。

第1週では、「行男が岩場から川に飛び込んで海パンが脱げてしまい、必死に泳ぎながら追いかける」というシーンがありました。それを大笑いで見るマルコと一朗太の姿も含め、思い出したのは、かつて夏ドラマの定番だった「WATER BOYS」(フジテレビ系)シリーズ。もし「あおぞらビール」が視聴者の多いプライム帯で話題になれば、キャンプ系ドラマが“夏の定番ジャンル”になっていくのかもしれません。

そして最後にふれておきたいのが、NHKがキャンプ系ドラマを手がけることについて。これまで業界内でキャンプ系ドラマは“コアなファン層に向けた配信向けのコンテンツ”とみられてきました。「『あおぞらビール』はそれをNHKが手がけるとどんな仕上がりになるのか」という試金石のような作品と言っていいのではないでしょうか。

ここまでの放送ではNHKらしいロケーションのこだわりと映像の美しさが感じられました。正直なところ「もう少しキャンプのワイルドさや泥くさいところも見せてほしいかも……」という感もありますが、それがなくキレイで贅沢ぜいたくな仕上がりこそNHKの手がけるキャンプ系ドラマなのかもしれません。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。

NHK公式サイトはこちら ※ステラnetを離れます