企業スポンサーのいないNHKには「どんなジャンルなのかわからない」という不思議なポジションの番組が少なくありません。その1つが現在、総合テレビの火曜23時台で放送されている「ワルイコあつまれ」。

番組ホームページ上では「子どもも大人も楽しめる新しい教育バラエティ 社会を楽しく学んでいきましょう」と書かれていますが、民放ではほぼ見られないジャンルとコンセプトの番組と言っていいでしょう。

それでも新しい地図の3人(稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さん)が出ていることもあって、かつての「あの番組」に近いところを感じ……でもやっぱりNHK Eテレのようなニュアンスもある。その意味でオリジナリティとしてはテレビコンテンツの中でも突出したものを感じさせられます。

そんなつかみどころのない「ワルイコあつまれ」はどんな内容で、何が魅力の番組なのでしょうか。


コント仕立ての演出「あの番組」にEテレ要素をミックス 

「ワルイコあつまれ」が初めて放送されたのは2021年9月13日・20日で当時はEテレでの放送。その後、2022年1月1日の放送をはさんで4月からレギュラー放送化され、さらに2年後の2024年4月に総合テレビでの放送に変わりました。その歩みを見る限り、着実に視聴者の数を増やしている様子がうかがえます。

総合テレビの23時台は2022年4月から主に若年層をターゲットにした曜日替わりの番組を放送していて、1~2クールごとに番組を入れ替えていましたが、「ワルイコあつまれ」は現在4クール目に突入。この明らかな特別扱いは一定以上の支持を得ていることの証と言っていいでしょう。

国民的アイドルのSMAPが解散したのは2016年12月31日。しかし3人は翌2017年に旧ジャニーズ事務所を退所すると、民放各局の忖度そんたくから番組出演がほぼなくなっていました。その意味で「ワルイコあつまれ」は3人にとって「バラエティの感覚を保つ」という意味で重要な番組であり、旧ジャニーズ事務所への忖度が消えて民放各局の番組出演が再び増えはじめた彼らの健在ぶりがそれを裏付けています。

「ワルイコあつまれ」は現在火曜23時台の放送ですが、当初から月曜22時台に放送されていた『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)を重ね合わせて見ている」という人がたくさんいました。

その理由は、週替わりでランダムに選ばれるコーナーのほとんどがさまざまなキャラクターにふんしたコント仕立ての構成・演出だから。たとえばメインコーナーの「慎吾ママの部屋」は、往年の人気キャラ“慎吾ママ”にふんした香取さんが歴史上の偉人を演じるタレントを迎えて本音を引き出すトークコーナーであり、「Eテレ要素をミックスさせた『SMAP×SMAP』」というムードがあります。


古き良き昭和のチョイスとムード

今週28日の放送でトップコーナーとして放送されたのは、バブル期の様子をコント仕立てでフィーチャーする「バブルランウェイ」。「DJ赤坂泰彦」を思わせるキャラクター・泡坂にふんした香取さんは、絶頂期の「SMAP×SMAP」を彷彿ほうふつさせるハイテンションでコーナーをやり切りました。

ちなみに同コーナーには香取さんだけでなく、東京ラブストーリーを思わせる「リカ」と「カンチ」にふんした田中律子さんと大鶴義丹さんも出演。ねるとん紅鯨団、フラワーロック、Wink、イカ天などのバブルカルチャーをコント仕立てで振り返っていました。全編を通して40代以上の視聴者に「古き良き昭和の番組」というムードを感じさせるチョイスやムードを織り交ぜていることも「ワルイコあつまれ」の魅力でしょう。

話を香取さんに戻すと、現在ひさびさの民放主要4局主演ドラマ「日本一の最低男」(フジテレビ系)が放送中ですが、それに先駆けたバラエティへの番宣出演で話題を集めていたのは記憶に新しいところ。どのバラエティに出ても笑いにつなげ、主演俳優をそろえた大型特番でも中心になれるスキルは「ワルイコあつまれ」で感覚が鈍っていなかったからではないでしょうか。

28日は、2つ目が草彅さんが腕利き捜査官にふんした「好きの取調室」、3つ目が稲垣さんがディーラーのMr.ゴローにふんした「カレーなる賭け」が放送されましたが、「ひさしぶりに彼らのキャラクターコントを見た」という人はかつてと変わらない3人の見た目、テンション、スキルなどに驚いたのではないでしょうか。


ほどよい笑いと学び“子どもが主役”が強みに

その「カレーなる賭け」は、小学生が3つのカレーから家のカレーを当てて家族の絆を深めるというコーナー。カレーを作った母親が子どもに手紙を贈るパートもあるなど、民放では少なくなった親子のハートフルなシーンが見られる稀有けうなバラエティとも言えます。

さらに「慎吾ママの部屋」と並ぶメインコーナーとして放送されている「子ども記者会見」なども含め、子どもを主役にしたコーナーが多いことも特徴の1つ。このあたりは“学び”という観点を忘れないEテレ発の番組らしいところですが、「子どもが主体的に見られる」、引いては「家族一緒に安心して見られる」という点での強みにつながっています。

裏を返せば、20代以上からの圧倒的な認知度を持つ3人にとって、「ワルイコあつまれ」はそれ以下の子どもたちとの接点になりうる貴重な番組ということ。さらに、子どもたちと接するときの彼らの姿勢はどこまでも優しく見える上に、アラフィフとは思えない若々しさを感じさせられることもメリットでしょう。

「ワルイコあつまれ」は、ほどよい笑いと学びがある一方、民放のような視聴率を得るための小刻みな編集がないなど、「ゆったり見られる」という点で優良コンテンツであり、有料コンテンツにもできそうな感もあります。自由度の高い番組だけにまだまだ発展性を秘めていますし、NHKに「月曜22時台の放送」という英断を期待しているファンは多いのではないでしょうか。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。

「ワルイコあつまれ」NHK公式サイトはこちら※ステラnetを離れます