戦争が……終わりました。
長くつらい一週間でした。餓死寸前で“あちら側”に半歩入ってしまった嵩(北村匠海)は、父・清(二宮和也)の幻影を見ました。殻ごとゆで卵をバリバリ食べるシーンは鬼気迫るものがありました。岩男(濱尾ノリタカ)とリン(渋谷そらじ)の辛い結末は、やなせたかしさんの絵本『チリンのすず』で描かれた、子羊と狼の物語を想起した方もいらっしゃるのではないでしょうか。
80年前、命も心も、どれだけの犠牲を払って終戦を迎えたのか……。

今週もしっかり振り返ります。ネタバレ、ご承知おきください。

劇場アニメ「チリンの鈴」は6月25日(水)午前0時~Eテレで放送予定 ※ステラnetを離れます


「しょんのなかったい。これが戦争やろうもん」

福建省の奥地に送られた小倉連隊。
八木上等兵(妻夫木聡)を描いた絵がきっかけで嵩は「せん班」に配属になる。
任務は医療活動や娯楽によって、現地の人たちに日本軍への親しみを深めさせ、占領に協力させること、だ。
嵩は塹壕ざんごうを作らなくてもよくなった。
八木「それがどんなに厄介やっかいで困難な任務か、あいつもすぐにわかるだろう」

嵩に命ぜられた仕事は、地元民から反感を買わず、老若男女が喜ぶ紙芝居を作れ!
というもの。
このところ、宣撫班の“作戦”はうまくいっていない。
その日の朝も、『桃太郎』を日本兵に見立てた紙芝居を見せていたら、村人たちの怒りを買い、騒ぎになった。小倉連帯の兵隊が丸腰の住民にやられたとあって、班長おかんむり。
「そこでだ、柳井! 一刻も早く次の作戦を考えるんだ!」
……めんらう嵩。

争いがあった現場に言ってみると……日本人を敵視する中国人たちがいた。
「用が済んだらとっとと帰れよ!」
一礼して去る嵩。

嵩は早速、健ちゃん(辛島健太郎・高橋文哉)を呼び出した。
小声で健ちゃんに「どこが正義の戦争なんだ」
大陸に日本軍が来た目的は、東洋平和のため、米英の侵略から大陸の良民を守るため、とたたき込まれて来たが、
「こっちの人からしたら、いい迷惑なんじゃないか?」
健ちゃんは「憎まれてもしょんのなかよ」
自分たちの分隊は民家を接収して回ったという。住んでいる人たちを追い出して……
「しょんのなかったい。これが戦争やろうもん」

班長から明日までに紙芝居のアイデアを出せ、と言われ町に出た嵩は、中国人の子どもから突然「たっすいがぁ!」と駆け寄られる。
後ろをついてきたのは岩男と康太(櫻井健人)だった。
子どもの名前はリン。隊で雑用をしているが、岩男になついているという。
とてもかわいい。

岩男は結婚して男の子がいるが、入隊してから生まれたので、顔は見たことがない。岩男は、リンに自分の息子を重ねていたのだった。

そこで紙芝居の案を思いつく嵩。一緒に宣撫班になった健ちゃんと絵を描き始める。
千尋(中沢元紀)が手渡していった父・清(二宮和也)の手帳にあった言葉「東亜の存立と日支友好は双生の関係である」と、岩男とリンの仲の良さを見ていて思いついた。

できた紙芝居のラフを班長に見せる嵩。
絵をめくりながら班長が「実際にやれるかどうかわからん。その前に厳重な審査がある」
審査に落ちると、二人とも元の分隊に戻されて戦闘任務になるという。
「審査は明朝9時! それまでに仕上げろ!」
健ちゃんと一緒に紙芝居の絵を描く嵩だった。

翌朝。
審査の場には特別に八木上等兵が呼ばれていた。

紙芝居『双子の島』
ストーリーはこうだ。
食べ物がなく生活が厳しい島から、一人の男が隣の島に食べ物を探しにいくと、
その島の男とけんになる。
しかし、不思議なことに相手を殴ると、自分の身体の同じ場所が痛むのだ。
自分たちはお互いにそっくりだ。双子だったのだ。
二人はともに助け合って生きていくことを決めたのだった。
※高橋文哉 振り返りインタビュー

勧善懲悪、鬼退治でいいじゃないか、という中隊長に八木が意見具申する。
“桃太郎で騒動が起きたのなら、今の紙芝居でどうか”と。
審査は合格した。
嵩が八木にお礼を言うと、いつもの “知らん顔”のポーズは変わらず……
八木「鬼退治よりマシだと言っただけだ。双子の話はお前が考えたのか?」
嵩「半分は自分で考えました」
八木「あとの半分は?」
嵩「この、父の手帳に書いてあったのであります」
八木「しかし、日本人がそう思っていても連中がどう思っているかわからんぞ」
という。「絶対にしくじるなよ」

村人たちに見せる日。
兵士たちが嵩たちの周囲に立って固める。以前、騒動になったことをおそれてのことだ。
物々ものものしい雰囲気の中で紙芝居が始まった。
通訳は勝手に翻訳する。
男が隣の島に行く場面では、
「お前は日本兵か? 俺の国にズカズカ入ってくるな!」
見ている村人は笑っている。嵩も健太郎もなぜ笑っているのかわからないけれど。

双子のシーンも、通訳は全く違う訳で伝えた。
「たしかに顔は似ているけど、お前のような乱暴者と俺が双子なんてちゃんちゃらおかしい」
村人たちは大爆笑。おかげで紙芝居は拍手で終わった。
(中国での紙芝居と通訳の誤訳のお話は、やなせたかし著『アンパンマンの遺書』などの著書にも登場しています)

岩男の肩車で見ていたリンも大喜びで拍手。
嵩と健太郎は「また来てね」と言われる。
八木「通訳がセリフを変えて訳したんだ。こっちの連中が喜ぶように」

というわけで、なんだかよくわからないうちに紙芝居は成功に終わり、嵩は絵画制作主任に任ぜられた。健太郎は嵩を補佐することになり、オリジナルの紙芝居を村人たちの前で披露するようになった。


餓過飢會改變人ヤウ -グェ -ギ -エ -ホラン -ガイ -ベン/空腹は人を変えてしまう」

昭和20年、日本の敗戦は決定的なものに……。3月10日、東京大空襲。
嵩の駐屯地も敵の大攻撃で孤立。紙芝居どころではなくなり、嵩は元の分隊に戻された。
補給路が断たれ、食料を倹約することになった。
食事は薄いかゆ1杯。朝晩の2食になった。
空腹との戦いが始まった。

水曜日、皿の中には乾パンが4個。
救援隊を待つ嵩たちの隊の食事はとうとう乾パンだけになった。

そのころ、朝田パンでは、乾パンの材料もなくなり、休業状態。
出征した若者が次々と亡くなるので、釜次(吉田鋼太郎)は墓石を彫るのに忙しい。
蘭子(河合優実)は郵便配達。女性たちが町を支えていた。
羽多子(江口のりこ)とメイコ(原菜乃華)たちは、婦人会で防空壕ぼうくうごうを掘っている。
国民学校も勤労奉仕ばかりで、子どもたちは疲れ切り、のぶ(今田美桜)は授業どころではなくなっていた。

嵩たちの小隊ではとうとう乾パンが1個。食料が底をついた。
空腹のまま、倒れそうになりながら銃を持って警備をする嵩と康太、神野(奥野瑛太)。
康太はダンゴムシをおうとする。
とにかく空腹で何もできない。
歩いていても足元を見つめ、食べられるものを探してしまう。

とうとう、康太は民家に押し入って「食いもんよこせ!」と年老いた中国人の女性に銃を向けた。
しかし、すでに同じような日本の兵隊に襲われたあとで、鍋は空っぽだ。
康太「わしらは、どうせ死ぬがじゃ。せめて最後は腹いっぱい食うてから死にたい」
彼女は卵を抱えて戻ってくる。生みたての卵だ。手を伸ばそうとする康太たちを制して、ゆで卵を作りはじめる。鍋に卵が6つ。
殻ごとむさぼって食べる二人を、力なく眺める嵩。

女性は嵩にも卵を一個手渡す。
嵩「謝謝シェイシェイ。謝謝。……おいしい」
中国人の女性は「空腹は人を変えてしまう」と悲しそうに嵩たちを見るのだった。


「リンはようやった。これで、ええがや、リン」

リンが見張りについている岩男のもとにやってくる。
「ハッキュー、ハッキュー(はっけよい)……」とじゃれついてくるリンに
岩男「いいか、もう俺には付きまとうな」
リン「どうして?」
岩男「おまえは便衣(スパイ)だと疑われている」
リン「もう会えないの?」
岩男「そうだ。お別れだ。これまで、ありがとうな」
抱きつくリン、抱きしめる岩男。しかし……リンの目が鋭く光った。

そこに銃声が!
倒れていたのは岩男。
駆け寄り、大丈夫か? と問う八木に「大丈夫であります」
子どもが逃げた、捕まえろ、という声に「あの子は関係ありません」
と言って力尽きる岩男。
子どもを追う八木。そこに銃を構えるリンが!

嵩「岩男。あの子に撃たれたんだろ」
岩男「伍長殿、違います」
嵩「まだあの子をかばうのか」
岩男「ずっと前から、覚悟しちょった」
嵩「ずっと前から?」
岩男「リンはようやった。これで、これでええがや、リン」
「岩男君……」……息絶えた。
八木は“子どもは見つからなかった”と報告。田川兵長(岩男)は名誉の戦死、ということに。

その後、八木は嵩に本当のことを告げる。
八木「あの子は、親のかたきを討ったんだ」
1年前、ゲリラ討伐で、リンが住んでいた村が攻撃目標になり、両親は射殺された。母親はリンをかばい、覆いかぶさって死んだ。母親を撃った日本兵が……岩男だった。
リンは“父親の銃で仇を討ったがぼくの胸はちっとも晴れない。イワオさんはぼくのやさしい先生だった”と泣いた。
八木「おまえは、リンが憎いか? 幼なじみの仇を討ちたいか?」
嵩「わかりません」
戦場で生き残るにはきょう者になることだ、と言ったのを覚えているか? と八木。
「卑怯者は、忘れることができる。だが、卑怯者でないヤツは、決して忘れられない」
嵩に詰め寄る。「お前はどっちだ? どっちなんだっ! どっちなんだよっ」
八木が去ったあと「わかりません」とつぶやく嵩。


「みんなが喜べるものを作るんだ。何十年かかったっていい。諦めずに作り続けるんだ」

りゅうじょが舞い、タンポポが咲く原っぱで。
タンポポの根をかじる嵩たち。食料が来ず、それも食べつくし、フラフラの嵩。
父の手帳を手に地面に倒れ、気を失う。

嵩が見たのは父・清だった。
「会いたかったよ、父さん」
清「父さんもだ」

嵩「父さん、あの時食べたあんぱん、美味おいしかったね。千尋と、母さんと、みんなで食べたあんぱん。また食べたいな。千尋はどこにいるんだろう? 僕はもうすぐ、餓死すると思うけど。千尋は名誉の戦死をするのかな」
清「バカなことを言うな。こんなくだらん戦争で大切な息子たちを死なせてたまるか。だが、こんなみじめでくだらない戦争を起こしたのも、人間だ。でも人間は美しいものも作ることができる。人は人を助け、喜ばせることもできる。だってあんなにみんな喜んでたじゃないか。お前の紙芝居」

嵩「でも、ぼくはこんなにも無力だ」
清「お前は何一つ、無駄なことはやってはいない。いいか嵩、お前は、父さんの分も生きて、みんなが喜べるものを作るんだ。何十年かかったっていい。諦めずに作り続けるんだ」
「父さん」

手帳を嵩の手に握らせて出ていく清。
「嵩、大きくなったな」
清の背中は柳絮舞う明るい光の中に消えた。
※北村匠海 振り返りインタビュー

嵩が目覚めると健ちゃんがのぞき込んでいた。
重度の栄養失調だった。かゆを食べる嵩。救援隊が到着して食料も届いたのだ。

第59回、木曜日のこの日、テーマ音楽はなく、出演者の名前などは最後に字幕で流れる、特別な演出になっていた。


「ハチキンがついちゅうき」

家にいるのぶに、夫・次郎(中島歩)から便りが来た。海軍病院からだった。
花を持って見舞いに向かうのぶ。

久しぶりに会った次郎だったが、ベッドの上に座っている様子は力がない。
次郎の言っていたことが正しかった、自分が子どもたちに話しているように戦争は終わらない……と話し始めるのぶに
「もう、戦争の話は、よそう」

朝田家に寄って次郎の様子を報告するのぶ。病気は「肺浸潤」。結核の初期症状だ。
輸送船に乗っていた次郎は大変だったろうと気遣う羽多子(江口のりこ)。
のぶは「次郎さん、自分の話は一切せんが。きっと、うちに聞かせとうないような、つらいことがあったがやと思う」

そして、のぶは最終の汽車で高知に戻っていった。
「ほいたらね」「またね」

その夜、昭和20年7月4日。
高知には空襲警報が鳴り響く。
防空頭巾をかぶって外に飛び出すのぶ。
子どもの「助けて」という泣き声が聞こえてくる。
火のなか、助けに戻るのぶ。
怖がって立ち上がれない子どもを「たっすいがぁはいかん!」と一喝。
「ハチキンがついちゅうき、大丈夫や」

羽多子は蘭子・メイコとともに高知に駆けつける。
朝。一面焼け野原となって色のない世界。転がる遺体。
のぶを探しながら叫ぶ3人。メイコは泣き出す。そこへ……
「おかあちゃん」
そこに子どもの手を引いて呆然ぼうぜんと歩くのぶが現れる。
その子、“なおき”は母親が現れ、無事に返すことができた。

8月15日、終戦のみことのりがラジオで放送された。
いわゆる「玉音放送」だ。
天に向かい「やっと終わったで、豪ちゃん」とつぶやく蘭子。
一方、のぶは焼け野原にたたずんでいた。
※今田美桜 振り返りインタビュー


やっと、戦争が終わりました。今週も、辛く悲しく苦しい一週間でした。それでもこれは戦争のほんの一部、わずかな一部分でしかないことを、私たちは想像しないといけないですね。
次週は「サラバ 涙」
戦後の一歩を踏み出していくのぶと嵩を見守りましょう。ほいたらね。