NHK財団が企画・制作した、アンパンマンの生みの親・やなせたかしさんの初の全国大規模巡回展「やなせたかし展 人生はよろこばせごっこ」が始まりました。4月26日(土)から、熊本市現代美術館で開幕した展示会の模様をご紹介します。


やなせたかしの分身キャラ「やなせうさぎ」がお出迎え!

会場入り口には、やなせさんの分身キャラ「やなせうさぎ」がお出迎え! その近くには「アンパンマン」と「ばいきんまん」のタペストリーも飾られており、やなせワールドへと誘います。

「やなせうさぎ」やなせさん自身はひつじ年だが、気弱なうさぎの性格に似ていることと、うさぎは描きやすいなどの理由でうさぎになったという。(C)やなせたかし

「アンパンマン」の生みの親、やなせたかしさん(1919-2013)は、漫画家・詩人・絵本作家・イラストレーター・デザイナー・編集者など多彩な活動を繰り広げました。現在放送中の連続テレビ小説「あんぱん」の柳井嵩のモデルにもなっており、94年の生涯をとおして「正義とは、いったい何か」を考え続け、それを表現し続けました。「やなせたかし展 人生はよろこばせごっこ」には、そんなやなせさんの神髄が感じられる作品の数々が集結しています。

やなせさんが描いた「アンパンマン」と「ばいきんまん」のイラストタペストリー。フォトスポットとして、多くの親子連れや家族が撮影を楽しんでいた。(C)やなせたかし (公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

会場の中に入ると、やなせさんの名言の数々が迎えてくれます。

天井から下がるフラッグにやなせさんの言葉が。

「なんのために生まれて なにをして生きるのか」(『アンパンマンのマーチ』)

「逆転しない正義とは献身と愛だ」(『アンパンマンの遺書』)

展示会は、6つのテーマによって構成されています。
「やなせたかし大解剖」「漫画」「詩」「絵本とやなせメルヘン」「アンパンマンの誕生」「人生はよろこばせごっこ」。原画を中心とした約270点が展示され、やなせさんの多彩な仕事を、それぞれ分野ごとに、年代ごとにご覧いただけます。


貴重な原画が勢ぞろい!やなせさんの多才ぶりが感じられる

「メイ犬BON」原画 制作年:1959年(自費出版)

「漫画」コーナーでは、当時40歳のやなせさんが愛犬をモデルに描いた「メイ犬BON」の原画をはじめ、『月刊高知』で掲載されていたコマ漫画、セリフなしで描く4コマ漫画「ビールの王様」などが展示されています。

『月刊高知』「ミス高知」1946年9月号複製 制作年:1946年(高知新聞社)/おてんばの高知夫人が活躍する漫画。

会場を訪れていたやなせスタジオ代表・越尾正子さんは、
「『メイ犬BON』は、愛犬家のやなせさんが犬の散歩をしているときに、犬のちょっとした表情や心情を捉えて出来た作品です。また、『月刊高知』のコマ漫画は、高知新聞社で働いていた当時27歳のやなせさんが描いた作品。当時のペンネームはカタカナで「ヤナセタカシ」でしたが、その後ペンネームがカタカナからひらがなに変わりました。なぜ変わったのか……、時代を見つめるとその背景が見えてきます」と語ってくれました。
やなせさんの描く、ユーモアあふれる漫画は必見です。

また、やなせさんが作詞を手がけた「てのひらを太陽に」の自筆詩も。

いずみたく作曲・やなせたかし作詞の「てのひらを太陽に」自筆詩。 制作年:2002年

「絵本とやなせメルヘン」のコーナーには、多くの方に愛されている絵本『やさしいライオン』の原画全点を展示しています。孤児のライオンと母親代わりの犬が、人間の都合で引き離されながらも、お互いを思いあう姿が描かれ、強い絆を感じられる物語です。

『やさしいライオン』原画 制作年:1975年(フレーベル館)

出版社のフレーベル館・宮本麻未さんは、
「やなせ先生と50年ちかいお付き合いが始まった最初の絵本です。先生の絵が大変素晴すばらしいので、ぜひご覧いただきたいです。」と話します。
『やさしいライオン』の原画をじっくりと楽しめる貴重な機会です。

また、やなせさんの絵本コーナーも用意されており、親子連れが絵を指さしながらストーリーについて語り合ったりしていました。

初日の様子。絵本コーナーでは、子どもに読み聞かせをして親子で楽しむ姿が見られた。

描き下ろし作品も多数展示

「顔をあげるアンパンマン」原画 制作年:1996年
(C)やなせたかし (公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

1996年の、やなせたかし記念館アンパンマンミュージアムのオープンの際に描き下ろされたアクリル画も、多数展示されています。
泣くうさぎにちぎった顔を差し出すアンパンマンの絵は、心が揺さぶられます。

「夕陽の決闘」原画 制作年:1998年
(C)やなせたかし (公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団の仙波美由記さんは、
「開館に合わせて描き下ろした1990年代中頃の作品を中心に展示しています。夕陽や水平線は、やなせさんの出身地・高知で幼い頃から見ていた風景。高知の風景を想像しながら鑑賞していただければと思います。すでに当時77歳となっていたやなせさんがミュージアムを作るにあたって全力を注いだ筆のタッチや勢いに注目してみてください。」と教えてくれました。
やなせさんの絵から発するパワーに、「元気100倍!」になるはずです。


やなせたかしさんと記念写真が撮れる!

やなせさんと写真が撮れるフォトスポット「人をよろこばせること」がやなせさんのモットー。エンターテイナーの一面も持っていた。

会場内には、やなせさんの等身大パネルと記念写真が撮れるフォトスポットも!
やなせさんとおそろいの黒いハットをかぶって、撮影を楽しむことができます。ほかにも、やなせさんご自身が企画したパーティー映像の放映や、オシャレ好きだったというやなせさんが着用していた洋服や愛用した靴下も展示。やなせさんのモットー「人生はよろこばせごっこ」を感じられる空間です。


巡回展のオリジナルグッズも盛りだくさん

オリジナルグッズも充実!

巡回展会場で販売しているオリジナルグッズも盛りだくさんです。「アンパンマンとやなせうさぎ」をはじめとする展示作品の絵があしらわれたTシャツやトートバック、マグカップなど。展示を見て感じた温かい気持ちを、やなせさんの絵と一緒に持ち帰ってください。


「開幕ギャラリートーク」では、朝ドラの「シーソー」のお話も!

講師を務めた仙波美由記さんが、やなせたかしさんの絵に関するエピソードを披露。

4月26日(土)の開幕初日イベントでは、やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団の事務局長を務める、学芸員の仙波美由記さんによる、「開幕記念ギャラリートーク」を開催。訪れた多くのお客さんが、やなせさんの絵にまつわるエピソードに耳を傾けました。
連続テレビ小説「あんぱん」でたびたび登場しているのが「シーソー」。やなせさんが弟のことを思って描いた詩画集『おとうとものがたり』に収載されている「シーソー」の原画も展示されています。

「詩とメルヘン」1978年1月号別冊詩集『おとうとものがたり』より「シーソー」 1977年
©やなせたかし (公財)やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団蔵

仙波:「やなせさんにとって弟は一緒に暮らした唯一の肉親。やなせさんは、弟が優秀ということでコンプレックスを持たれていました。幼いころ弟が病弱なときは弟が下がっていて、旧制中学に入ってからは成績が良かった弟が上で、自分が下がっていて逆転した、一方が上がれば一方が下がる、そんなシーソーのようなバランスだったと言います。ライバルとも言える男兄弟の、せったくするそんなお2人の様子が描かれています。」

初日の様子。(左)じっくりとやなせさんの絵を見入るお客さんたち。(右)初日オープン前に並ぶお客さんたち。

やなせたかしさんの温かくて優しい作品の数々に、勇気と元気をたくさんもらえるはずです。「やなせたかし展 人生はよろこばせごっこ」は、6月いっぱいまでは熊本市現代美術館で開催。その後各地を巡回します。ぜひ足を運んで、やなせさんの魅力あふれる作品を味わってみてください。

(取材/文 ステラnet編集部 松田久美子)


「やなせたかし展 人生はよろこばせごっこ」

やなせたかし展 | 一般財団法人 NHK財団(※ステラnetを離れます)

【巡回予定】
熊本/熊本市現代美術館
2025年4⽉26⽇(土) 〜 6⽉30⽇(月)
京都/美術館「えき」KYOTO
2025年7⽉11⽇(金) 〜 8⽉24⽇(日)
鹿児島/かごしま近代文学館
2025年9月19日(金) ~ 10月20日(月)
山口/周南市美術博物館
2025年11月14日(金) ~ 12月28日(日)
愛知/松坂屋美術館
2026年2⽉
東京/世田谷文学館
2026年6⽉30⽇(火) 〜 9⽉6⽇(日)
など、全国数会場で開催予定

展覧会の開催についてのお問い合わせはNHK財団 展開・広報事業部へどうぞ。