「まど・みちおのうちゅう」展が、現在、栃木県宇都宮市にある宇都宮美術館で行われています。
「ぞうさん」や「やぎさん ゆうびん」など童謡の作詞で知られるまど・みちおさん。その創作の世界を垣間見ることのできる展覧会「まど・みちおのうちゅう」展は、NHK財団が2015年から、周南市美術博物館とともに企画に携わってきました。(詳しくはこちら)
今回の展示で最も特徴的なのは、4億画素の超高精細デジタルカメラで撮影したまどさんの絵画作品を、大型スクリーンで見ることができるコーナーです。またAIを活用した合成音声での解説もあります。展示の見どころをご紹介します。

超高精細カメラで撮影すると、別の世界が見えてきた!
詩人として知られるまど・みちおさんですが、実は絵画作品も制作しています。非常に細かな筆致で描かれているものが多く、中には「一見しただけではどうやって描いたのか、わかりにくい」(宇都宮美術館学芸員・石川潤さん)ものもあるほどです。
それを超高精細カメラを通して見ると、どんなことがわかるのか……?
撮影は、春、周南市美術博物館で行われました。使用するのは8Kカメラ(3300万画素)よりさらに解像度が高い、4億画素の超高精細デジタルカメラです。

撮影を担当したNHK財団の妹尾宏エンジニアは
「作品をどう置いて、どの角度で撮るのか、というところから工夫しました。床面において真上から撮る方法も考えましたが、万が一カメラが絵の上に落下したら大変なことです。そのため、斜めにおいてカメラを正対させ、フラットに照明を当てました。フォーカスはマニュアルで調整しました」
撮影に立ち会った、宇都宮美術館の石川潤学芸員の話です。
「非常にエキサイティングな経験でした。実際実物を見てわかっているはずなんですけれど、撮影してモニターで映し出され、それをぐーっと拡大して見ていくと、“え? こんなふうになってんの!”っていうのがグワっと……見ているようで見ていなかった、というのがどんどん見えてくる、という経験でした」(5月23日の『デジタルアートで蘇る日本の記憶』イベントにて ※イベントの記事はこちら)

まどさんの絵は、細かいタッチを重ねて、ボールペンやクレヨン、色鉛筆など身近な画材を使って描かれています。特に好んだのがボールペンで、一見、面で塗りつぶしているように見えるところも、細い線で果てしなく書き込んであります。
石川さんの解説をもとに、この絵を見ていきましょう。
(このWEB画面で使っている画像は超高精細ではないので、雰囲気だけ味わってください)
石川さん「『星がとおい』」は、34.3センチ×23.9センチという、比較的小さい絵です。上の部分、黒いところは、主にフェルトペンで細かい点を無数に打っているのがわかります」(下の拡大部分)

石川さん「また、下の方、オレンジがかった部分は、さらに、オレンジや紫、黒っぽい点々を打った上からひっかき傷を作ってニュアンスを出しています」(下の拡大部分)

石川さん「これは高さ30センチ余りの絵です。実物だとよく目を凝らさないと見えてこないものが、高精細の大画面で見ると一目瞭然で臨場感あふれる形で見ることができます。そのタッチに込めた、画家の息遣いや思いのようなものが、言葉を介さずに非常に直感的に体感できるんじゃないかと思います」
他にも、色を塗った上から細く細く“線”を切り取り、裏から鮮やかな赤色を“貼って”表現した絵など、超高精細の映像だから「わかる」ことがたくさんあるそうです。
美術館を訪れる人たちは、まどさんの絵を見たあと、映像を見て、またもう一度、絵を見に戻る、という往復をする人たちが多いということでした。
石川さん「将来的に修復が必要になった時などにも、超高精細映像は非常に強力な武器・ツールになると思います。(修復のためには)絵の具の層がどういう風に重なっているか、などをルーペで調べるのですが、それが映像を拡大すれば一目瞭然ですから」
石川潤学芸員のお話が聞ける! ギャラリートークはこれからも予定されています。
6月14日(土)、21日(土)のいずれも午後2時からです。
6月1日には朗読会も開催しました
また、先日は、まどさんの詩を読む、朗読会も行われました。
朗読を担当したのはNHK財団の柴田祐規子アナウンサー。
こちらは「ぞうさん」などおなじみの詩を、歌ではなくて朗読でお楽しみいただきました。


1909年 山口県徳山町(現在の周南市)生まれ。
幼児向け雑誌の編集に携わったあと、1959年にフリーとなり、詩や童謡の創作に専念。
「ぞうさん」「やぎさん ゆうびん」「一ねんせいに なったら」「ふしぎな ポケット」など、今でも歌い継がれている童謡の作詞も多く手がけた。
絵画は50代の初めに集中的に描いていた。
1994年に日本人としては初めて、国際アンデルセン賞作家賞を受賞。
2014年没。享年104。

まど・みちおのうちゅう ~うちゅうの あんなに とおい あそこに さわる~
会場:宇都宮美術館(栃木県宇都宮市長岡町107 電話:028-643-0100)
開催期間:2025年4月27日(日)~2025年6月29日(日)
休館日:月曜日
観覧料:一般 1,200円(960円)、大学生・高校生 1,000円(800円)、中学生・小学生 800円(640円)※( )は20名以上の団体料金
周南市美術博物館の収蔵品より約60点の絵画を中心に、創作ノートや原稿、編集者時代に手がけた仕事などから約240点の資料を展示しています。
石川潤学芸員による見どころガイドはこのあと、6月14日(土)、21日(土)のいずれも午後2時からです。
宇都宮美術館 公式サイト ※ステラnetを離れます