NHK放送技術研究所(通称:技研)は、日本で唯一の“放送・メディア技術専門”の研究機関です。
今年はラジオ放送が始まって100年の節目の年。技研も東京・世田谷区砧の地で95年の歴史を重ねてきました。そんな技研の最新の研究成果を見ることのできる「技研公開」が、6月1日(日)まで開催されています。
NHK財団も参加している「技研公開2025」の見どころを紹介しましょう。
イマーシブメディア ~その場にいるような世界を体感~

技研の正面玄関を入ってすぐ、エントランスホールでは、「ひろがるコンテンツ体験」としてARグラス、3Dディスプレー、多感覚提示装置による未来のコンテンツ体験をお楽しみいただけます。
ARグラスとは、現実世界にデジタル技術を重ね合わせるメガネのこと。場所が離れていても、このメガネをかけることでお互いの視界を共有でき、同じコンテンツを見ながらコミュニケーションできるようになります。
3Dディスプレイは、映像を立体的に表現する技術。そして、多感覚提示装置は、振動、温度、そして香りを感じさせる装置です。この二つの技術を組み合わせることによって、あたかも目の前に別の空間が実在するかのように感じられ、そこに見えるものの感触や匂いを体感することができます。

「イマーシブメディア体験」のコーナーでは、特殊な装置をつけなくても、360度の映像体験が楽しめます。
ここでは、360度撮影できるカメラを使って撮影した映像を、半球型のスクリーンに投影しています。その画素数は30K。つまり、8Kの約14倍!です。非常に解像度の高い映像にマルチチャンネルの音響が組み合わさることで、スクリーンの中に座ると、あたかもその場にいるかのような臨場感を体験できます。
続いては「シーン適応型カメラ」。
これまでのカメラは画面全体を同一の撮影条件で撮影してきました。一方「シーン適応型カメラ」では、センサーによって領域ごとにふさわしい条件を指定して撮影できます。


たとえば日中のサッカーの試合では、太陽が反射してまぶしい場所や建物の影で暗い場所があります。また、ドリブルする選手とゴールキーパーでは動きの速度が違います。これら同一の画面内にある様々な被写体を、それぞれの明るさや動きに応じて、局所的かつ動的に撮影モードを制御、見やすい映像にする技術です。
ユニバーサルサービス ~いつでも・どこでも・誰にでも~
「つながるメディアアクセシビリティー体験」では、あらゆる人が情報を共有するための技術を紹介しています。聴覚・視覚に障害のある方や、高齢者や外国人でも番組の情報が伝わるよう、手話CGや解説音声、日本語や英語の字幕などを、番組と連動してモバイル端末で提示する技術です。

フロンティアサイエンス ~基礎研究により未来のメディアを創造~
「自由な曲面を可能にするディフォーマブルディスプレー」では、柔軟でさまざまな形状に変形できるディスプレーを展示しています。ゴム製の基板に伸縮する配線と赤・緑・青色のLEDを並べ、フルカラーにすることを実現。昨年の「技研公開2024」で展示したものよりも画素数が増え、より精細な映像が表示できるようになっています。

メディアを支える ~メディアの直近の課題解決に貢献~
「放送局データを用いた大規模言語モデル(Large Language Models: LLM)」では、NHKが所有するニュースや研究論文などの独自データを学習させた技研独自のLLMを構築。より自然で放送局業務に適した文章生成が可能になりました。そのLLMを基に開発した、番組制作者をサポートするアプリケーションを紹介しています。
NHK技術の活用と実用化開発
NHK財団では、技研が開発した最新のメディア技術を幅広い分野に活用するためのお手伝いをしています。また、NHKが保有する特許・ノウハウを広く紹介し、社会で活用されるための取り組みを促進しています。
今回の技研公開では、「映像音声連動型8K切り出し視聴技術」「AI音声合成技術による古文や短歌・俳句の読み上げ」「ネットワーク技術を活用した3次元映像コンテンツ」「NHKが保有する特許・ノウハウの技術移転」の4項目を紹介しています。




ほかにも、NHK放送博物館に収蔵されている貴重な放送機器を厳選し、「放送100年 黎明期の貴重な機器に見る放送技術の原点」として展示しています。
未来を体験できるコーナーが盛りだくさん。土日にはファミリー向けのイベントも予定しています。ぜひ会場で、さまざまな最新技術をご体感ください!
(NHK財団 技術事業本部 大久保洋幸)
技研公開2025 「広がる つながる 夢中にさせる」
開催期間:5月29日(木)~6月1日(日) 午前10:00~午後5:00
会場:NHK放送技術研究所(東京都世田谷区砧1-10-11)
入場:無料(事前予約なしでどなたでもお越しいただけます)
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/strl/open2025/ ※ステラネットを離れます