終戦から5か月後。のぶは、病室のベッドで次郎(中島歩)が速記で書いた日記を見せてもらい、今度、速記を教えてもらうことに。しかし、夢かなわず、のぶが手を握るなか、次郎は帰らぬ人となった。
教師を辞めたあとも、子どもたちに間違った教えをしていたことに悩み続けるのぶの前に嵩(北村匠海)が現れ、2人は4年ぶりの再会を果たす。のぶを演じる今田美桜に嵩との再会シーンや、次郎との忘れられないシーン、これから戦後を演じていくことに対する思いを聞いた。
どん底に落ちていたのぶを救った嵩の言葉

──戦地から戻ってきた嵩と4年ぶりの再会を果たしました。どういったことを大事にして演じましたか?
撮影前、北村さんが「僕は達観していたい」「成長した嵩でいたい」とおっしゃったのが印象的でした。
あの時ののぶは、これまで落ちたことがないほど深い「どん底」にいるんですよね。次郎さんを亡くして悲しいだけではなく、大好きな子どもたちを傷つけてしまったという後悔もある。のぶは、責任感が強い人なので、こんな自分が生きていていいんだろうか、と真剣に悩んでいたと思います。これまでは次郎さんがのぶの弱い部分を受け止めてくれていたけど、その次郎さんも亡くなってしまって……。そんな時だったんです。
軍隊に入って、戦争も経験して、達観している嵩に、今度はのぶが助けてもらいました。これまでは、のぶのほうが「たっすいがは、いかん」って嵩に声をかけて、勇気づけて元気づけてきたけど、今度は反対に、のぶが嵩にどん底から引っ張り上げてもらった感じでした。
「死んでいい命など、ひとつも無い」や、「生き続けるしかない」といった言葉にぐっときましたし、正義について話をする嵩に、のぶは本当に救ってもらえたのだと思います。

何より、北村さん自身の温かさに救われました。これまでの撮影でも感じたことですが、嵩と通じるところがあって、常に寄り添ってくれるんです。しかも、静かに見守ってくださる。それで何かあったら、「大丈夫?」と声をかけてくださって、さらっと救ってくれるんです。お芝居の面でも、そうじゃないところでも。
2人のシーンでも、あまり、事前にああしようこうしようという話し合いはしないのですが、何でも受け止めてくれるから、何を投げても大丈夫という安心感がありますね。
次郎の死を悼むシーンは演じていて苦しかった

──改めて、次郎のどこに惹かれてプロポーズを受けたと思いますか?
お父ちゃん(結太郎/加瀬亮)がつないでくれたご縁だし、そのお父ちゃんの言葉と次郎さんの言うことが重なったのは大きいです。
プロポーズを受けた頃は、豪(細田佳央太)ちゃんの戦死の報せを巡って蘭子(河合優実)と衝突していて、「愛国の鑑」と呼ばれることに悩んでいた時期でした。その葛藤を家族には言えず、弱音を吐ける相手がいなくて一人で抱えていたところに出会ったのが次郎さんで……。
優しく温かく包み込んでくれるような人柄で、しかも、自分の弱い部分も全部認めてくれる存在だと感じたんだと思います。だから、この人にゆだねてみたいと思えたのではないのかなって思っています。

──次郎が帰らぬ人になり、若松の家でひとり死を悼むシーンが痛々しかったですが、演じての感想は?
苦しかったです。実は、次郎さんとのシーンは、撮影自体はわずか2週間ほどで、本当に短かったんです。そんな中でも、中島さんのおかげで、2人の結婚生活や次郎さんからの愛情を、写真や若松の家の様子で感じることができたので……。それをいっぱい思い出してしまって、とても苦しかったですね。忘れられないシーンです。
──このあと、戦後を演じていくにあたって、どんなところに気を配りましたか?
戦後は食べ物がなく、食事が質素ですし、闇市も描かれました。やなせさんもおっしゃっているんですが、食べ物がない飢餓状態は、これほどまでに人を苦しめるんだと実感させられます。逆を言えば、ごはんって、それだけ幸せなものなんだということを再認識しました。
のぶは子どもが大好きなので、戦災孤児たちのことも気に掛けるようになります。その実態にも、戦時中とはまた別のつらさがあります。
戦争が終わって物語のトーンは明るくなっていきますが、戦後の悲しみもしっかり描かれますし、それをしっかりお伝えしていきたいと思っています。