「超多様性トークショー!なれそめ」
Eテレ  毎週(金)午後10:00~10:29
再放送 毎週(火)午前0:00~0:29(月曜深夜)
NHKプラスでは同時配信、放送から1週間見逃し配信しています。

女子校出身のトランスジェンダー正木菜々瀬が、これまでの経験などをもとに番組をレビュー。独自の視点で感想や見どころなどを綴っていきます。誰かの背中をそっと押すような、そんな番組との出会いを皆さんに届けていきます。

「自分とは違うタイプだから、話すことはないだろうな」と思っていた人が、後でいちばん仲良くなったり、「なんか苦手だな……」と感じていた人が、実はあたたかい人だと後でわかったりすることもある。
不思議なもので、あるきっかけにより、その人と共有する世界がガラッと変わることがある。

にもかかわらず、目先の情報が交錯するSNS社会となった今、私たちは人を知る機会を自ら減らしているようだ。流れ来る些細な情報に惑わされ、本来の目的や意図を見失ったり、人を傷つけたりしてしまうことも。いま必要なのは、人や物事の本質を見つめる力ではないだろうか。
「超多様性トークショー!なれそめ」6月9日の放送を見て、 私はそう感じた。

今回のゲストカップルは、車いすで幸せに向かう有本奈緒美さん&愛が止まらないポジティブな昌人さん。難病を発症して気を落としていた奈緒美さんと、彼女をポジティブに支え続けている昌人さんは、どのようなきっかけでカップルになったのか? 「今がいちばん」と話すふたりが、これまでどんな壁にぶつかり乗り越えてきたのか、そして変わらない愛の在り方とはどのようなものなのか?
「なれそめ」のキーワードを記した「なれそメモ」をもとに、司会の田村淳さんとゲストの方々が多彩なトークを繰り広げていく。

ふたりの出会いは、奈緒美さんの長男が通っていたサッカークラブ。
そこでコーチをしていたのが昌人さんだった。ある日、奈緒美さんが長男のケガのことを昌人さんに相談したことがきっかけで、ふたりで話す機会が増えたという。当時、奈緒美さんは二度目の結婚をしていたが、旦那さんとの間でいろいろあり、相談相手として昌人さんを頼るようになった。

それからふたりで時間を過ごすことが増え、交際をスタートした矢先、奈緒美さんの難病が発覚した。やっと落ち着いた幸せな日々が待っている――そう思った矢先の発症だった。
「なんで自分ばっかり……」
そんな感情を抱えつつも、これから人生を共にしたいと考えていた昌人さんに、交際を続けていいものか確認をする。そのときの昌人さんの言葉が印象的だ。
「歩けないだけで本人は変わらない」
奈緒美さんが昌人さんに意思確認したからこそ、「変わらない愛のかたちの尊さ」をふたりは見つけられたのだろう。

LGBTQの当事者である私も、「なんで自分ばっかり……」という思いには大変共感した。自分がトランスジェンダーであると知ってからは、
「なんで自分なのか……」
「なんで自分ばかりつらい思いをしないといけないのか……」
そんなマイナスな感情と葛藤する日々が続いた。

だが、いまとなっては思うところがある。
「なってしまったものはしょうがない」
運命といっていいのかわからないが、その境遇を受け入れ、自分らしく生きる方法を模索していく気持ちになれた。現に、私は性別が男性になり見た目も変わった。しかし今でも、友人や家族との関係性は何も変わらず、むしろ自分らしく生きられている。

人と違うことで自信を失ってしまうような感情を生み出す要因は、当事者よりも現代社会に底流する意識にある。とくに右へならえの日本では、人と違うことをマイナスとして捉える傾向がある。その一方で、違いから生まれる出会いや愛があることを、今回の「なれそめ」が気づかせてくれた。

違いを受け入れることは簡単なことではないが、その違いを愛おしいと思ってくれる人がいる限り、いまの自分や幸せを大切にしなければいけないのだと思った。

そして、奈緒美さんの前向きさを表しているのが、キラキラとピンクに塗装された車いすだ。カラフルにしたいと思ったきっかけが、周りの視線が怖く、車いすで外出することができなくなっていた時期に、子どもたちから言われた次の言葉。
「車いすでもお母さんは、お母さん」
この言葉で立ち直った奈緒美さんは、今では車いすを漕ぐときも、胸を張って堂々としていられると話していた。

私も堂々とできず自分を見失ったときがあったが、そんな時に救われた言葉がある。
「どうぞ、物事を面白く受け取って愉快に生きて。
 あまり頑張らないで、でもへこたれないで。」

これは、日本の大女優である樹木希林さんの著書『120の遺言』にある言葉だ。

この言葉を思い出すと、肩の力がスッとぬける。たとえ嫌なことがあっても、その状況をできるだけ楽しめるようにしたいと思える。自分のマイノリティーを個性として愉快に受け取っていきたい、そう思わせてくれる。この言葉は、いまでも私の心の支えである。

人はたったひと言で救われることがある。
優しく寄り添う昌人さん、そして励ましてくれる子どもたちの言葉が奈緒美さんを支えている。家族の変わらぬ愛があるからこそ、堂々と生きることを奈緒美さんは選択できたのだろう。

そんなふたりが考える「超多様性」とは――?
「気にしない」(昌人さん)
「ありのままを尊重する」(奈緒美さん)

ある時、人とは違う部分を好きになれない自分がいるかもしれない。だが、人と違うことは、自分らしく生きる表現のひとつでもある。ありのままの自分を認めることで、ありのままの相手を尊重できる。その連鎖が、共生社会へとつながっていくのではないだろうか。

(文/正木菜々瀬)

「車いすで幸せに向かう彼女&愛が止まらない彼」は、本放送から1週間見逃し配信しています。
https://www.nhk.jp/p/naresome/ts/KX5ZVJ12XX/episode/te/2W7WXQX6QZ/

次回の放送は、6月16日(金)
「25歳差!若々しすぎる超年上の #アキさん&ピュアすぎる超年下の #ヨシタカさん」カップル!(再)
(初回放送は2022年8月6日)

https://www.nhk.jp/p/naresome/ts/KX5ZVJ12XX/episode/te/QL9P815WVL/
(放送後、1週間見逃し配信しています)

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。