7月10日(月)に駒澤大学で、「LGBTQについて考えてみよう!~学生によるダイバーシティ研修会~」が開催された。この研修会は、文学部社会学科の松信ひろみゼミの学生が、LGBTQの当事者へのインタビュー調査に基づき、セクシュアル・マイノリティへの理解を深めるために行った発表だ。
これまで、松信ゼミの学生たちは、NHKドラマ「恋せぬふたり」のトークイベント(https://steranet.jp/articles/-/206)に参加。また、アジア最大級のLGBTQのイベント「東京レインボープライド」(https://steranet.jp/articles/-/1799)や、世田谷区「男女共同参画センター らぷらす」による「セクシュアル・マイノリティフォーラム2022」(https://steranet.jp/articles/-/1002)ではサポーターとしても活動し、学びと経験を蓄えてきた。
そして、昨年より実際に当事者の方にインタビュー取材を行い、世田谷区内の中学校への出前講座を目指して資料などを作成してきた。今回、これまで参加する側だった学生たちが、これらの経験や活動をふまえ、いよいよ伝える側に立つ。はたして、どのような言葉、どのような思いを伝えるのか――。学生たちが学びを深めてきた成果を紹介しよう。
研修会は、松信ゼミの学生が制作した資料をもとに、LGBTQやセクシュアル・マイノリティの基礎知識から、当事者インタビューのデータや学校生活をテーマに進められた。
ひとつひとつ用語や概念を細かくかみ砕き、わかりやすい説明と言葉づかいを意識しているのが伝わってくる。セクシュアル・マイノリティを学ぶことは必要なのか、という根本的な問いに対してもていねいな説明を加え、さらにセクシュアル・マイノリティの割合などを身近に感じやすいデータに置き換えるなど、さまざまな工夫がなされていた。
私自身が当事者であるため、セクシュアル・マイノリティやLGBTQの講演を聞くことは、あまりにも自分ごとすぎてしまい、苦手意識が強かった。しかし、今回の学生の発表は、セクシュアル・マイノリティばかりにフォーカスを当てるのではなく、自分自身も何かのマイノリティであることを意識させてくれる内容。誰もが“自分ごと”として、受けとめることができるような視点が付加されているのがすばらしい。当事者の私からしても、たいへん共感しやすい内容であった。
終了後、発表を担当した4年生の3人、遠藤左智子さん、平安山八広さん、伊藤遥さんに取材や資料づくりで工夫した点などを聞いた。
――研修会の発表で大切にされたことは何ですか?
遠藤 中学生が聞いても分かりやすい内容で、誤解を生まないよう伝えることを大切に発表しました。用意した文章をただ読むだけにはならないよう、聞き手側の思いも想像しながら発表することを心がけました。
平安山 取材するなかで、当事者の方が鋭い表現を使われていることも多々ありました。そのリアルな思いを、今回の発表にどのように落とし込んでいくかは悩んだ部分でもあります。分かりやすく伝えようとするあまり、要素をそぎ落としすぎると、当事者の思いがちゃんと伝わらないですし……、そのバランスをすごく考えました。
伊藤 「この発表が当事者探しにつながらないようにしよう」ということは、ゼミ生の共通認識として取り組んできました。そして、「セクシュアル・マイノリティってかわいそうな人たちだね」とならないよう、当事者の思いを想像させる内容にすることを目指して発表しました。
――当事者へのインタビューのなかで発見はありましたか?
遠藤 セクシュアル・マイノリティの中でも、同じ経験をして、同じ考えを持っている方はいなく、それぞれの人生を歩んでいるということに、改めて気づかされました。
平安山 大事な話を聞いた直後はいろいろ考えるけれど、寝て起きたらすっかり忘れてしまうことってあると思うんです。そのせめぎ合いの境目で、当事者の方は生きてきたんだと感じました。
伊藤 セクシュアル・マイノリティの方は大変な思いをしていると、勝手に思っていたんです。でも、「困った経験はまったくなかったよ」とおっしゃる当事者の方もいらっしゃって。「セクシュアル・マイノリティだからマイナス」ではないことをしっかり伝えたいと思いました。
――今後の中学生への出前授業に向けて、意気込みをお願いします。
遠藤 セクシュアル・マイノリティについて、自分には関係のないこととして捉えないでほしいです。
平安山 授業を受けた中学生が、何か考えるきっかけとなったらうれしいです。どこか神妙な表情になってもらえたらと思います(笑)。
伊藤 まずはセクシュアル・マイノリティについて知ってもらい、そこから日々の生活を振り返る時間になったらなと思います。
来年の1月に予定している世田谷区内中学校への出前講座に向けて、またひとつ大きな経験をした駒澤大学の学生たち。今回の研修会でみえた新たな課題や考えに、これからどのように向き合うのか、そして彼らがどんな出前講座を子どもたちに届けるのか、今後も注目していきたい。
(文/正木菜々瀬)
1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。