世の中には、多様なセクシュアリティーが存在するのと同様に、その多様な捉え方がある。これまで私は、LGBTQの当事者としての観点から、よるドラ「恋せぬふたり」を通して考えたこと、感じたことをコラムに綴ってきた。ところで、私と同年代の若者はこのドラマをどのように見ているのだろうか――。
先日、東京の駒澤大学・世田谷キャンパスにて、「恋せぬふたり」のトークイベントが開催された。登壇したのは、咲子の妹・石川みのり役を演じる北香那さん、ドラマのアロマンティック・アセクシュアル考証を担当する中村健さん、企画・演出の押田友太さん、司会の駒澤大学・松信ひろみ教授。そして、代表質問者として駒澤大学の4人の学生が参加した。
○個別テーマの1つ目は、「恋愛観と既成概念」。
学生からの最初の質問は――
“ドラマに登場した「恋愛より仕事キャラ」という表現から、若者に対する「恋愛 の圧力」を感じた。なぜ、20~30代では「恋愛」を強制させられるのだろう?”
第1回でカズくんが、咲子に向けた「恋愛より仕事キャラ継続中?」というセリフ。確かに、ドラマ内では、恋愛や結婚、出産に対して圧力を感じる場面が多い印象だ。
「恋愛を強制される」と感じてしまうのは、健康的に出産できる年齢が20~30代であるという社会通念が理由のひとつのように思える。恋愛・結婚・出産をワンセットで考える前代的な思考も、「恋愛」に対する圧力を大きくしているように思う。
「いい歳して結婚していないなんて、どこか問題があるんじゃないの?」
そんな心ない言葉を聞いたことがある。
そもそも、年齢に応じて結婚するのが当たり前という考え方が根づいているのはなぜか。これこそ、日本のイデオロギーが創作したマインドセットではないだろうか。「恋愛」という既成概念が再構築されつつあるいま、そこへの圧力や強制はふさわしくない。
○ 個別テーマの2つ目は、「LGBTとその理解」。
学生からの質問は――
“第2回で、みのりの夫・大輔さんが咲子に対して言った、「LGBT的な……、授業で生徒に教えてますけど、お姉さんあれですか?」。ここには、自分は理解しているという思い込みが見られる。はたして、適切な知識とはなんだろう。また、どのような対応をするべきだったのか”
正解はおそらく見つからないと私は思う。
LGBTQの当事者である私が、もし咲子の立場だったら、やはりどんな言葉を返されても怒りや悲しみに変換されていただろう。大輔の言葉使いは、ことさら咲子を傷つけるものとなっていた。大輔に限らず、自分は知識を持っていると思っている人ほど、実はそれは表面的なものでしかなく、前提を理解していないと感じることがある。
一方、自分と同じ知識や理解を持つ人ばかりではないことも、多くの人と接するなかで学んできた。今回も別の学生は、「あの場面は大輔が、前のめりになって咲子に寄り添った唯一の人物」という捉え方をしている。
第2回のコラムでは、私は当事者として咲子寄りの目線で見ていたため、大輔の言葉には憤りを覚えたと書いた。ところが反対に、咲子になんとか寄り添うべく言葉を発したと見た学生もいたのだ。
これは、その場面を客観的に捉えることができるドラマだからこそ得られた、もうひとつの答えだと思う。ここに、「アロマンティック・アセクシュアル」やLGBTQを題材にしたこのドラマの大きな意義を感じる。
当事者と非当事者のふたつの目線だけではなく、登場人物それぞれの目線にたってドラマを見ることで、セクシュアリティーやこれまでの恋愛観にとらわれない、人と人の繋がりや考え方を感じ取ることができるはずだ。
知識や理解をある程度持っていても、それはあくまでほんの一部であることを忘れてはいけないと思う。正解はない。答えは、きっといまを生きる人、それぞれの中にある。
1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。