小さいころ思い描いた、将来の夢や理想の未来――。
大人になって現実と照らし合わせてみると、思いどおりにいくものばかりではないことに気づく。将来を考えると不安になることもある。だが、思いどおりにいかなくても、大きな壁にぶつかっても、そのとき自分が大事にしているものを大事にしたい。「恋せぬふたり」の第6回を見て、そう気づかされた。
高橋(高橋一生)とともに穏やかな大みそかを過ごした咲子(岸井ゆきの)は、年が明け、「アロマンティック・アセクシュアル」の人たちが集まるイベントに参加。そこで高橋との将来や子どもについて考えさせられる。
家に帰ると、そこには妹・みのり(北香那)の姿が⁉
夫・大輔(アベラヒデノブ)の浮気が発覚し、飛び出してきたのだという。将来に不安を覚えるみのりは、怒りの矛先を、恋愛や夫婦のことがわかりたくてもわからない咲子に向けてしまう。大輔が謝罪にやってくるも、子どものまえで言い争う始末。そんな中、みのりは破水してしまう。
無事、赤ちゃんが産まれ、みのりの子を抱きかかえる咲子。
その姿を遠目に、複雑な感情を抱く高橋。そこには、何やら高橋の知られざる過去が関係しているようで――。
今回は、誰もが思い悩む「将来」が大きなテーマ。劇中で、カズくん(濱正悟)が「人生ゲーム」をもって現れたのは、そのメタファーだろう。
「将来」を考えすぎるあまり不安になる人は多い。できることならあまり考えたくはないが、生きているかぎり向き合わねばならない問題であることも確かだ。
LGBTQの「T」であるトランスジェンダーとして生きる私は、性別を変更する以前、今よりも「将来」が不安でしかたなかった。いつ親にカミングアウトをするか、どうしたら性別を変えられるか、はたして結婚はできるのか……。賽をふって「人生ゲーム」のボードのうえを歩むのと同じくらい、考えてもキリがなかった。
「自分が大事にしたいものを大事にしてほしい」
劇中で咲子がみのりに向けたこの言葉を聞いたとき、私は思わず強くうなずいた。拭いきれない「将来」への不安から、そっと解放してくれるワイルドカードのようにも思えたからだ。
実際、「自分らしく生きる」ことを大切にしてきたからこそ、いまの自分があると思う。これまでの人生の選択に後悔はない。咲子の言葉を聞いて、改めてそう感じた。
思わぬ賽の目が出て人生の岐路に立たされたとき、ぜひこのワイルドカードを繰り出してほしい。
第6回は、北香那さんの演技が実にすばらしい。理想の人生を踏みはずすことへの不安を、咲子とは対照的に表現していた。先日、駒澤大学でのトークイベントのときとは、まるで別人のようで驚いた。
そんなみのりのセリフのなかで、私がとくに注目した言葉がある。
「父親いないとかかわいそうだし……」
みのりのこの言葉からは、「両親=幸せ」「片親=不幸」という意識が感じられる。
確かに、片親の家庭は経済的に苦しくなることがある。また、ひとりで子どもを育てることを考えると不安になり、離婚という選択になかなか踏み切れないのもわかる。
だが私は、それがすべて不幸を招くばかりとは思わない。
母は私が小学3年生のころ父と離婚し、女手一つで私を育ててくれた。父の酒癖が悪いことが大きな要因だった。その後、経済的に苦しくなったり、周囲から父親がいない理由を問われたりしたこともあった。
しかし、私は一度も不幸だと思ったことはない。
この選択のおかげで、母は「自分らしく生きる」ことができた。私は、母の泣き顔ではなく、笑顔を見ることができた。そしていま、私たち家族はこうして幸せでいられる。
それは思い描いていた「将来」ではないかもしれない。理想の「幸せの形」ではないかもしれない。それでもいつかその決断が誇れるように、「いまを生きる」ことが大切なのだと思う。
「自分が大事にしたいものを大事にしてほしい」
私は、みのりの決断を全力で応援する。
1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。