人は「変化」を恐れるあまり、行動することをちゅうちょし、できないと判断してしまうことがある。そこには、何かを失う怖さや、守りたいと感じるものがあるからなのかもしれない。そしていつの間にか、自分の可能性をも疑ってしまう。そんなときには、身近な人の声に耳を傾けたい。
そこには自分が思っているよりも大きな可能性や希望があると、「恋せぬふたり」の第7回を見て感じた。

 

将来のことや子どもについて話を切り出せずにいたさく(岸井ゆきの)は、思わず仕事の企画について高橋(高橋一生)に相談してしまう。咲子は、高橋が資料にと貸してくれた雑誌に載っていたイノファームの社長・猪塚遥(菊池亜希子)に会いにいってみる。

一方、高橋は心ならずも店長代理に昇進することになり、野菜との関わりが減ることで頭を悩ませていた。咲子が転職を進めるも、高橋は亡くなった祖母の家を守るため、割り切ってスーパーで働き続けるという。

いつもと違う高橋の様子に違和感を覚えた咲子は、高橋と遥は元恋人同士ではないかと気づく。高橋の祖母が亡くなったことを聞いた遥は、咲子とともに高橋の家を訪れる。そこで高橋は、夢であった野菜づくりに関わる仕事を遥から提案されて……。

第7回は高橋の知られざる過去が明かされ、これまでになく高橋の心の機微が見てとれる。とりわけ、過去の高橋の優しい表情や言葉は新鮮に感じた。
初めて遥を家に迎え入れたとき、少し戸惑いながら開かれたその扉は、まさに高橋の心の内を表しているようだった。遥と一緒に過ごしていたころの高橋は、今よりも素直に人を受け入れることができていたように見える。

私がそう感じた理由のひとつは、高橋にとって祖母の存在が大きいことにある。
「祖母が残してくれたこの家を守ることが、僕にできる唯一のこと」
特に高橋のこのセリフは印象深い。

両親のいない生活を送ってきた高橋にとって、祖母は育ての親。
「愛情」を感じられる唯一の存在であって、祖母と暮らした家はいまも心のよりどころなのだろう。

「祖母を安心させたい、うれしそうな顔がみたい」
過去の高橋は、遥が家に来るたび、そんな気持ちが増していったのだと思う。
高橋が祖母のことを考えながら浮かべる笑顔に、私はひとつの「愛の形」を感じた。

そして今回、私が注目したのがこのセリフだ。
「なぜ、誰かが結婚したことで周りが変化しなければいけないのか」

たしかに、同僚が結婚することで、高橋は野菜と関わる仕事から遠ざかる結果になってしまった。しかしそれは、高橋の小さいころからの夢であった、“野菜王国を作る”きっかけへとつながっていく。咲子の前向きな提案に対し、「変化」を恐れる高橋はできない理由を並べ、チャンスを遠ざけてしまっていた。

ただ、「変化」は決してマイナスなことばかりではない。

LGBTQの「T」であるトランスジェンダーとして生きる私は、小さいころから社会的に男性として生きることを理想としていた。これを実現するためには、体の「変化」が必要となる。いまある健康的な体を変える決断は、肉体的にも精神的にもとても怖いものだった。

「変化」することに目を背け続けていた過去の私は、まさに高橋と重なる部分が大きい。
救いになったのは身近な人々の支えだった。

その中でも、中学校からずっと一緒にいる親友の、
「いま変化できる環境にあるなら、やらない理由のほうが少ない。人生が変わるなら、挑戦してほしい」
この言葉には特に背中を押された。

家族や友人の言葉は、今よりもっと自由になれる希望を私に見せてくれた。
自分より周りの人々のほうが、その「変化」の可能性に気づいてくれていたのだと思う。
決して簡単な決断ではなかった。変化することに対し、怖さもあった。
しかしそのおかげで、私も自分の可能性を信じ、「BetterよりもBest」な選択肢ができた。

高橋が咲子との家族(仮)を大事にしたいと思う、そこに「変化」の可能性があるように思う。
そんなすてきな関係なら、互いに「BetterよりもBest」な選択ができるはずだ。

「変化」は誰もが怖い。
だが、「変化」の先には、できないことよりもできることのほうがきっと多い。

「変化」を恐れたとき、選択に迷ったときは、身近な人の声に耳を傾けてほしい。
自分ひとりでは気づけなかった可能性やその先の希望が見えてくる。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。