人それぞれが抱く、「幸せの形」。
幸せを感じる言葉や瞬間は、人それぞれ異なる。だからこそ、大切な人が幸せと感じることを我慢してほしくはない。奪いたくはない。「恋せぬふたり」の第5回を見て、改めて私は、「幸せの形」について考えた。

「恋愛抜きで家族になるの俺でよくない?」
カズくん(濱正悟)のいきなりの提案に戸惑うさく(岸井ゆきの)。そんなとき、相談をよく聞いてくれていた​親友・千鶴(小島藤子)のことを思い出す。久しぶりに連絡をしてみたが、電話は繋がらない……。カズくんと高橋(高橋一生)に背中を押された咲子は、3人で千鶴のいる小田原へ向かうことに。

千鶴と再会した咲子は、彼女の本当の思いを知る。千鶴が語る恋愛について、分かりたくても分かってあげられない咲子。一方、高橋はカズくんに、「恋愛感情抜きにして家族になる」とはどういうことなのか、問いかける。千鶴と話し、「幸せの形」について考えさせられた咲子が出した答えは――⁉︎

「恋愛抜きで家族になる」
カズくんと咲子の関係性なら、それも良いのではないかと私は感じていた。好きなものや趣味が似ていて、一緒にいて楽しい存在ならば、相手が高橋でなくても良いのではないか。

だが、こたえは、そう単純なものではない。

「私のためにカズくんの幸せ全部抜きにしてほしくないの  
“アロマンティック・アセクシュアル''である咲子は劇中でこう語る。

この言葉に、私はハッとさせられた。
相手を傷つけてしまう怖さや、相手の「幸せの形」と真剣に向き合い、気持ちをまっすぐに伝えた咲子の行動はなかなかできるものではない。

LGBTQの当事者として生きる私は、これまで「幸せの形」の違いを認めるのが怖かった。
相手が望むような幸せを私は与えることができないと考えていたからだ。
例えば、結婚をして、子どもを産むといったことを。

しかし、「幸せの形」は、十人十色。自分と相手の「幸せの形」が、全く同じはずがない。

相手の幸せを理解したうえで、新しい形を見つければいい  咲子の言葉は、そんな気づきを私に与えてくれた。また私同様、多くの人に一歩踏み出す勇気をあたえてくれたのではないだろうか。

 

そして、もうひとつ注目したいのは、
「恋愛抜きで家族になる」ことに対するカズくんの答え、「相手の帰る場所になる」こと。

恋愛や家族について考えるきっかけができ、咲子のことを分かろうと努めたカズくんだからこその答え。劇中の高橋同様、とても素敵だと感じた。

劇中で、高橋がカズくんに勧めた、『アセクシュアルのすべて』という本があった。その本をふせんでいっぱいにしたカズくんの姿に、私は祖母を思い出した。

私は昔からおばあちゃん子だった。
自身のセクシュアリティーについて74歳の祖母にカミングアウトをするとき、「昔の人なので、わかってはもらえないだろう……」などと勝手に思いながら告白をした。

その夜、祖母がペンとメモ帳をもって私の前に座った。
「もう一度最初から説明してもらってもいい?」
祖母が分かろうと努力をしている姿がうれしかった。それから2時間、私は“自分語り”をした。

年齢や時代は関係ない。私が祖母に救われたように、咲子もカズくんのその姿には救われたことだろう。その人の努力が、すてきな答えを導くことを、カズくんの姿を通して、改めて感じることができた。

人は懸命に生きようとするあまり、人をたくさん傷つけてしまう。
でもそこには、きっと意味がある。
時に理屈よりも感情を優先することが、すてきなものに出会えるきっかけになることがある。
誰かを思って懸命に生きるのならば、それはいつか価値あるものに変わり、「幸せの形」につながるのだと。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。