1月、駒澤大学文学部社会学科「松信ひろみゼミ」の学生による、セクシュアル・マイノリティへの理解を深めることを目的とした出前講座が、世田谷区内の中学校で行われた。
松信ゼミ生は、一昨年から当事者へのインタビュー取材を行い、昨年は駒澤大学で「LGBTQについて考えてみよう!~学生によるダイバーシティ研修会~」を発表するなど、出前講座に向けての資料作成や発表準備に力を入れてきた。今回の出前講座は、中学生に向けてセクシュアル・マイノリティやLGBTQの知識を伝えると同時に、これまでの松信ゼミの学生たちの活動経験を発表する、集大成の場にもなった。
・NHKドラマ「恋せぬふたり」のトークイベント
・アジア最大級のLGBTQのイベント「東京レインボープライド」
・世田谷区「男女共同参画センターらぷらす」による「セクシュアル・マイノリティフォーラム2022」
大学生から中学生へ伝えることの大切さ
発表は、研修会でも使用したスライドを用いて、セクシュアル・マイノリティとは何かという基礎知識から始まり、当事者の実際の声を届けながら、「自分ごと」として考えさせられる内容になっていた。イラストや言葉一つひとつにも工夫がなされていて、学生の話を真剣に聞く生徒のまなざしが印象的だった。
大学4年生という、大人でもあり学生でもある立場から伝えることで、参加した中学生にとっては、大人が行う授業や講演会よりも身近に感じられ、また違った新鮮さがあっただろう。
50分間の講座が終了したあと、今回発表した松信ゼミ4年生の3人、遠藤 爽さん、渡部美月さん、關 菜々美さんに出前講座に向けての準備や2年半のゼミ活動を通して得た学びや気づき、今回の活動を今後どのように活かしていきたいか話を聞いた。
――出前講座を終えてのお気持ちはいかがですか?
遠藤 私は原稿を作る上で、中学生に伝わりやすい言葉を選ぶことを意識しました。今日みんなが堂々と話している姿や中学生の反応を見て、上手く伝わったんじゃないかなと感じました。
渡部 中学生という若い世代の方たちが、どんな風に私たちの講座を受け取ってくれるのか、期待もありつつ不安もありました。すごく真剣なまなざしを向けてくださったことは印象的でしたし、ただ知識をインプットするのではなく、皆さんが自分の経験を振り返りながら、「自分ごと」として考えていることを感じられて良かったです。
關 私は去年まで中学生だった弟がいるので、資料を作成しているときは弟に教えるように作っていました。ただいざ発表となると本当に不安でしかなくて。でも、発表しながら皆さんの顔を見ていたら、うなずいて聞いてくれている人もいたので、わかってくれているのかなと安心しました。
――中学生に伝えるにあたって、どんなことに気をつけましたか?
關 以前大学で行った研修会では伝える相手が大人で、今回は中学生ということで、前回のようにかしこまった雰囲気で行うと、眠くなってしまう人もいるかもと思いました。なので、私の担当のマイノリティに関するパートでは、左利きの人の割合を聞くなど身近に感じる話題を入れました。また敬語をちょっと崩して話すことも意識しました。
渡部 スライドを作るときに気をつけたのは、カタカナの言葉をあまり入れ過ぎないようにすることです。英語を日本語に変換できるところは、置き換えて説明するようにも気をつけました。また例えば、「マイノリティ」は性に関することだけではなくて、さまざまな場面でマイノリティがあるので、「セクシュアル・マイノリティもその一つにすぎず、重く捉えすぎないでほしい」と、セクシュアル・マイノリティ以外の例を出すことも心がけました。
遠藤 大学での研修会では、「自分だけ同じ授業を取っていなかったらどう思いますか?」と問いかけていましたが、今回は、「自分だけ部活が違っていたらどう思いますか?」と中学生がイメージしやすい問いかけで、身近に感じやすいように作りました。
――大学入学当初と今では、セクシュアル・マイノリティやLGBTQに対する考え方や価値観はどう変わりましたか?
關 大学に入学するまで、私は知識がなく考えたこともありませんでした。けれど「東京レインボープライド」のボランティアに参加したとき、参加者の生き生きしている姿に感動しました。苦しい思いをしている方もいると思うんですけれども、生き生きと楽しく過ごしていらっしゃる方が多くて。そこから、多様性ということばをセクシュアル・マイノリティに関わらず、いろんな場面で考えるようになりました。
渡部 LGBTQやセクシュアル・マイノリティという言葉は入学時から知っていたので、なんとなく知った気でいましたが、全然そんなことはなくて。自分があたりまえとしている生活の中にも、何気ない会話ひとつで傷ついた経験をしている人や、違和感を抱きながら生活されている方がいることを知り、あたりまえを疑うようになりました。
遠藤 大学で勉強したことで、生きやすくなったと思います。私は田舎出身で、子どものときから女の子・男の子とはっきり分けられることが多くて。自分はサッカー部に入りたかったし、ランドセルは青が良かったんですけど、「女性らしくしろ」と言われて嫌な思いをしたことがありました。けれど大学での学びが、「女性だからこうだ」という考え方を取っ払ってくれました。「別に何をしてもいいじゃん」というマインドになれたんです。いろんな知識を身につけたおかげだと思います。
――今回の経験を今後社会に出てどんなことに活かせると思いますか?
關 今後、いろんな人との出会いがあると思います。それこそセクシュアル・マイノリティの人とも関わるだろうし、外国人の方や年齢関係なくいろんな人と関わるはず。多様性を理解していく姿勢は、2年半の活動を通して身についたと思うので、その学びを仕事に活かしていけたらと思います。
渡部 私は今後仕事で、同じように講義する機会があるかもしれません。今日のように中学生といった若い世代に、もっと多様性について考えてもらいたいです。また年齢が上の方にお話をするとなると、伝えるべき内容や伝え方が異なってくると思います。さまざまな世代の方に、多様性や個性の大切さを伝えていけるよう、これまでの学びを活かしていきたいと思います。
遠藤 私は今後の自分の人生に、結婚し出産をするフェーズがあると思っています。そのときには、小さい子どもへの性教育があたりまえになっているはず。自分が親の立場になったとき、今回のような経験が、自分の子どもや周りの子どもたちに伝わりやすい言葉で伝えることに役立つと思います。
松信ゼミの学生たちは、今回の出前講座を含めた2年半のゼミ活動で、セクシュアル・マイノリティやLGBTQの知識とともに、日常のあたりまえを疑うこと、そして一人ひとりの個性を尊重することの大切さを学んできた。私はその活動を継続的に取材してきたが、彼らがこの経験を今後の未来にどうつなげていくのか、楽しみだ。
1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。