9月11日(日)、東京都の世田谷区立「男女共同参画センター らぷらす」で、「セクシュアル・マイノリティフォーラム2022」が開催。「恋愛ってしなきゃダメ?〜アロマンティック・アセクシュアルなどから考えるかたち〜」をテーマに意見交換や交流会が行われた。

フォーラムに登壇したのは、NHKドラマ「恋せぬふたり」でアロマンティック・アセクシュアル考証を担当した中村健(なかけん)さんと三宅大二郎さん。そして、当日フォーラム(交流会)をサポートしていたのは、駒澤大学(松信ゼミ)の学生たち。
*フォーラムの概要はこちらの記事で紹介(https://steranet.jp/articles/-/968

ことし3月、駒澤大学では、「恋せぬふたり」の番組制作者や脚本家、そして今フォーラムに登壇した中村健さんを招いて、「多様なセクシュアリティと家族のあり方」について考えるイベントを実施。ドラマの世界観を通じて、学生たちは多様性と共生社会への理解を深めた。

(駒澤大学「恋せぬふたり」関連イベントの記事はこちら)
https://steranet.jp/articles/-/206
https://steranet.jp/articles/-/220
https://steranet.jp/articles/-/510
https://steranet.jp/articles/-/541

フォーラム終了後には、編集部を交え、登壇者と駒澤大学の学生による座談会が行われた。ドラマ「恋せぬふたり」放送終了から約半年、ドラマがもたらした広がりと可能性について意見交換するとともに、それぞれの活動について聞いた。

<参会者>
フォーラム登壇者:三宅大二郎さん、中村健さん(As Loop)
駒澤大学(松信ゼミ):平安山八広さん、遠藤左智子さん、小野澤俊介さん


編集部:今回のフォーラムには多くの方が来場されましたが、講演されるうえで意識していることや大切にしていることはなんでしょうか?

中村:その時の自分を見つめながら伝えることを意識しています。常に人間は変化・成長しながら生きているので、決まった内容を形式的に語るのは、直接お話をする意味が薄れてしまうかなぁと。だからこそ、その時の自分が感じているリアルな感情を交えて伝えることを大切にしています。

三宅:私は、聞く人のことをいつも意識するようにしています。今回でいえば、参加者の年齢層をはじめ、さまざまな条件を考慮しながら、何を伝えればいいのかということを考えています。それに応じて伝える内容も変えたりしていますね。

編集部:駒澤大学の皆さんは、今回のフォーラムはいかがでしたか?
中村:ぜひ、率直な感想を聞かせてください。

遠藤:私がいちばん印象に残ったのは、「幸せの多様性」という話です。「幸せのかたち」は人それぞれで、他人の幸せを自分の価値観だけで決めつけない方がいいという考え方は、すごくいいなと思いました。

平安山:三宅さんが冒頭でお話しされた「アロマンティックやアセクシュアルに関する基礎知識」をはじめ、勉強になる部分がたくさんありました。中村さんの実体験を交えたお話も、大変参考になりました。いわばマクロとミクロ両方の観点から今回のテーマについてお話しいただき、本当に学びが多いと思いました。

中村:うれしいですね。ありがとうございます(笑)。

小野澤​:なかけんさんのお話にあった、「そもそも恋愛ってあいまいなもの」という考えに共感しました。フォーラム参会者との交流会の中でも話が出たのですが、恋愛至上主義は、ドラマや少女漫画などで、無意識に植え付けられているものだと。個人の意識が変わって、そのうえで社会全体が変わらなくてはならないと思いました。

三宅:ほんと、その通りだと思います。

中村:NHKで「恋せぬふたり」が放送されて以降、当事者向けの交流会を定期的に行っている方からは「ドラマを見て自認しましたという方が必ず数人いらっしゃる」と聞きました。3年前、この「らぷらす」でお話をさせていただいた時は若い方が比較的多かったのですが、今回のフォーラムには多様な年代の方が参加されているように感じました。ドラマをきっかけに、広がりが生まれたのを感じますね。

三宅:これまではアロマンティックやアセクシュアルに関する情報といえば、ネットが中心でした。「恋せぬふたり」のようなドラマで表現されたことで、感情移入できたり、世界観がわかったり、ドラマならではの広がりを私も感じています。
やっぱり、セクシュアリティに関する話題って、入りにくい人も多くて。でも、それがドラマの世界の話であれば、入りやすいし話しやすい。また、当事者以外の方に説明するのにスムーズになったという話も聞いたことがあります。アロマンティックやアセクシュアルについて紹介する新しいルートを作っていただけた感じがしますね。

中村:ドラマには、“カズくん”のような当事者ではない登場人物もいることも大きいのかなと思います。ある意味、ロールモデルのひとつになったというか。今まで当事者の方とどう接したらいいかわからなかったけど、ドラマでカズくんの変化や成長を見ているうちに、こういう関わり方もあるんだと気づけたというお話も聞きました。このようなフォーラムへの参加も含め、当事者であるないにかかわらず、恋愛/性愛について考えるハードルを下げてくれたのかなとも思います。

小野澤:自分も「恋せぬふたり」を見るまでは、アロマンティック・アセクシュアルという存在については教科書の知識のままでした。実際にドラマを見ることで理解が深まりました。カズくんはすごく成長したなとか、自分もこうなりたいなとか思いながら見ていましたね(笑)。

平安山:僕は大学に入る前から異性愛中心主義みたいなものに違和感があって。「恋せぬふたり」を見て、なんだか救われた気持ちになりました。社会の変化や流れに応じてドラマが作られ、今度はドラマによって社会が変わっていくのを、アロマンティック・アセクシュアル関連の記事を読むことで身近に感じています。

遠藤:私は、恋愛感情抜きで男女が一緒に暮らすというドラマの設定は、自分の中にスッと入ってきました。人と共感できる部分とできない部分があっていいんだなって思えるようにもなりました。「わからないけど否定してはいけない」、そんなふうに考えられるようになったのは「恋せぬふたり」のおかげです。

編集部:中村さんと三宅さんは、今後どんな活動をしていきたいと考えていますか?

中村: セクシュアリティに限らず、「関係性」って何だろうとか、「恋愛」「性愛」って何だろうといった、人間関係のあり方を見つめ直す問いかけをしていきたいですね。問いを立てることで、それに対する揺らぎが気づきにつながることもあると思うんです。言葉を知ってもらうところから、少しずついろんな問いを深く投げかけていきたいです。

三宅:引き続き私は研究の側面から主に活動をしていきたいと考えています。とくにアロマンティックやアセクシュアルなどの視点から、恋愛や性愛を問い直すような研究をしていきたいですね。ただ、固定的な目標を達成するために活動しているかと聞かれると、必ずしもそうではありません。目標を立てることも大事だとは思いますが、目標はあくまでその時に立てたものにすぎません。社会は常に変化していきますので、今、その時に自分が問題だと思っていることについて調べ、発信していきたいと思っています。長く活動を続けていくためにも、私はこの考え方を大切にしています。

編集部:駒澤大の松信ゼミの皆さんは、今後、世田谷区の中学校に出前授業*に行くと聞いています。今回のフォーラムは参考になりましたか?
…出前授業は世田谷区立男女共同参画センターらぷらす主催の事業で、松信ゼミの皆さんが協力しています。

小野澤:中学生が対象となるので、伝え方が難しいと感じています。三宅さんがおっしゃったように、事前に対象者の情報を集めたりすることは大切だなと思いました。また、話すトーンやエピソードなども工夫できればと思っています。

遠藤:中村さんがおっしゃった、自分の観点を大切にしながら伝えることって大事だと思いました。ちょっと堅くなる気もしていて心配なのですが、そうならないように頑張りたいと思います。

平安山:自分の話し方では中学生には刺さらないのではないかと不安です(笑)。お二人の講演を見て、少し肩の力が抜けた雰囲気のほうが聞く人の心の扉を開けてくれると感じたので、そこを積極的に意識したいと思っています。


今回のフォーラムの中村さんと三宅さんの講演を経て、NHKドラマ「恋せぬふたり」からの学びや気づきは、駒澤大学の学生から中学生へとバトンされていく——。今後も「ステラnet」では、その活動と広がりを追っていく予定だ。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。