9月11日(日)に東京都の世田谷区立「男女共同参画センター らぷらす」で、セクシュアル・マイノリティについて考えを深める「セクシュアル・マイノリティフォーラム2022」が開催された。

「らぷらす」は、世田谷区の男女共同参画推進の拠点として、すべての人が性別にかかわりなく自分らしく生き生きと暮らすことができる社会を実現することを目指す施設。これまでにも、女性のための「こころとからだ」講座の実施やセクシュアル・マイノリティのための電話相談や交流会など、多様な活動を実施している。

そんな「らぷらす」で実施された今回のフォーラムのテーマは、「恋愛ってしなきゃダメ?〜アロマンティック・アセクシュアルなどから考えるかたち〜」。ことしの1~3月に放送されたNHKドラマ「恋せぬふたり」の考証メンバーである、中村健(なかけん)さんと三宅大二郎さんが講師として登壇している。
※お二人はアロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム(Aro/Ace)に関する調査、監修、講演を行う、As Loop(https://asloop.jimdofree.com/)の一員としても活動している。

フォーラムのきっかけともなった「恋せぬふたり」は、アロマンティック・アセクシュアルのふたりが始めた同居生活から、“家族のかたち”や“愛のかたち”、当たり前や普通とされている“かたち”について考えさせられるドラマ。
https://www.nhk.jp/p/ts/VWNP71QQPV/

ことし3月には、東京・世田谷の駒澤大学で、ドラマを通して「多様なセクシュアリティと家族のあり方」について考えるトークイベントが開催され、学生がドラマ制作者らと意見交換をすることで、学びを深める機会となった。
https://steranet.jp/articles/-/206

さて、今回のフォーラムの開催にあたっては、会場のアナウンスが印象的であった。
「だれでもトイレ」の案内や、「テーマの特性により性的な用語を連想させる事例がある」ことの事前告知、講演で手話通訳が行われるなど、これまで「らぷらす」が取り組んできた多様な配慮がここに表れていた。

そして、来場した方々が安心して参加できる空間が作られた中、世田谷区・保坂展人区長が挨拶。世田谷区では、2015年から「パートナーシップ宣誓」導入の取り組みをするなど、自治体としてセクシュアル・マイノリティへの理解を“かたち”にしている。
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/002/002/003/002/d00165231.html

また、3月に“防災”をテーマに開催された「ようがみらいかいぎ」では、世田谷区で行っている防災塾の取り組みを紹介するなど、地域のつながりと活性化も大切にしている。

世田谷区・保坂展人区長

事前申し込みにより会場参加者とオンライン参加者どちらも満員のなか、始まった講演会では、三宅さんによるアロマンティックやアセクシュアルなどに関する基礎知識、なかけんさんの当事者としての体験談の二段構成で進められた。

研究者としても活動されている三宅さんは、専門用語の説明から、それらの言葉がもつ意味、数字としてのデータなどの基礎知識を解説。また、ふだんなかなか目にしないデータも紹介された。例えば、自認するセクシュアリティの割合比がゲイ・レズビアン・同性愛者の0.7%に対し、アセクシュアル・無性愛者は0.8%というデータなど、新たな気づきにつながるものが多い。
*釜野ほか(2019)「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」(無作為抽出調査)

続いては、なかけんさんがこれまで経験してきた困難や誤解、恋愛的/性的な価値観の決めつけ、アロマンティックやアセクシュアルのなかにも存在する多様性や、自分の中にある“当たり前”を見直すことの大切さを教えてくれるエピソードを披露。

お二人のお話は、セクシュアリティに対する客観的な視点と主観的な認識のふたつのバランスがとれた内容で、ひとつの講演の中にも多様性を感じるものとなっていた。

講演会終了後は、参加者と登壇者による交流会が行われた。
「恋せぬふたり」トークイベントに参加した駒澤大学の学生が、ボランティアとして交流に加わり、フォーラムでの感想などを交え、登壇者と意見交換が行われた。
(交流会後のなかけん・三宅さんと駒澤学生の座談会の様子は別の記事で紹介)

また、今回の企画を担当したらぷらす職員の方は、イベントを通してこれから目指す世田谷区への思いを語った。

「男女共同参画センター らぷらす」フォーラム担当者 メッセージ

会場、Zoomあわせて100人以上の方にご参加いただきました。多くの方に興味、関心をもっていただいたこと、アンケートやSNSで好意的な反応をたくさんいただいたことをとてもうれしく思います。

10月に23歳以下のセクシュアル・マイノリティ当事者、そうかもしれない方限定の交流会を実施します。これからも区民の皆さんと一緒に、誰もが性別にかかわりなく自分らしく生き生きと暮らすことができる世田谷をつくっていきたいです。このテーマについて知りたい、こんな企画がほしいなど、ご意見お待ちしています。

今回のフォーラムは、社会で固定されているさまざまな“関係性のかたち”や、一人ひとりのセクシュアリティの在り方を考える貴重な機会となった。そのきっかけのひとつに、NHKドラマ「恋せぬふたり」があり、現代社会に変化と広がりをもたらす原動力となっている。

理解しにくいテーマや向き合いにくい概念も、ドラマという世界に置き換えることで、理解がすすむ。ドラマを通して、価値観や“かたち”を今一度考えてみることは、共生社会の実現に向けた近道なのかもしれない。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。