「私の人生に何か言っていいのは私だけ。私のしあわせを決めるのは私だけ」
「恋せぬふたり」 最終回を見て、心からそう感じた。

「もっと自由に生きてほしい」
今の家を出て地方で野菜を育てることを、遥(菊池亜希子)から提案された高橋(高橋一生)。しかし、高橋は祖母の家を守るためにと即座に断る。そのことに対して、さく(岸井ゆきの)はモヤモヤしていた。

そんな折、妹・みのり(北香那)のお見舞いに訪れた咲子は、母・さくら(西田尚美)と再会する。さくらに高橋とのことを相談した咲子は、「ただ咲子に幸せになってほしい」という言葉に背中を押される。

咲子は意を決し、高橋とこれからのことについて話し合う。
「高橋さんは、いまがベストですか?」
確かに遥の提案は魅力的なものだが、いまの生活が変わる怖さが勝ったと語る高橋。
そんな高橋に咲子はある提案をして――。

劇中で咲子が、高橋に問いかけた言葉が印象深い。
「本当にしたいことやらなくていいんですか?」
高橋が小さいころからやりたかった“野菜王国を作る”ことに挑戦できないのは、咲子と“家族(仮)”でなくなることが怖いという大きな理由があった。

高橋は咲子と出会ったことで、咲子の家族や友人と交流し、これまでになかった感情が芽生えた。人と関わる温もりを知り、それが高橋自身の考え方や、「普通」や「当たり前」を変えていったのだ。

私も高橋の立場だったら、高橋同様、一人に戻ることが怖い。
だから、やりたいことは諦めるという選択肢をとっていたように思える。

人のなかに存在する「普通」や「当たり前」が変化することは、容易なことではない。
セクシュアリティーに限らず、私たちは日常にあふれている「普通」や「当たり前」に無意識に縛られている。

LGBTQの「T」のトランスジェンダーとして生きる私の周りは、私がトランスジェンダーであることをほとんどの人が知っている。
それは私自身が隠して生きることを選ばなかったからだ。

周囲の人々はごく普通に私に接してくれた。
そして、私の友人たちが口をそろえて言う言葉がある。
「菜々瀬は、菜々瀬。出会えていなかったら、LGBTQについて知ることがなかった」

友達でいることに性別は関係ない。
私が隠さない選択をしたことは、きっと周囲に何らかの影響を与えることができたのだと思う。なにより、友人たちの言葉や存在は、私に自分らしく生きる勇気と自信を与えてくれた。

これから先も私たちはたくさん悩むだろう。だが、最後は自分が決めるのだ。
なににも縛られなくていい。決めつけなくていい。自分なりの理由を見つけて出した答えならば、それは胸を張って誇れるものだ。

劇中で咲子の存在は多くの人に影響を与え、そして咲子自身も大きく変わっていった。
私は、そんな咲子に自分自身を重ねあわせ、ずっとこのドラマを見続けてきた。

「私の人生になにか言っていいのは私だけ」
「私の幸せを決めるのは私だけ」
咲子の言葉は私を勇気づけ、前向きにしてくれた。

いまある大事なものや大切にしている考え――それは、これからもきっと変わっていくだろう。だからこそ、いまこの瞬間のベストを考えればいい。

社会規範やマインドセットに縛られ、やりたいことを諦める必要はないのだ。
咲子と高橋が選んだ道。それは誰にも否定する権利はない。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。