女子校出身のトランスジェンダー正木菜々瀬が、これまでの経験などをもとに番組をレビュー。誰かの背中をそっと押すような、そんな番組との出会いを皆さんに届けます。

家族や友人に対して、「いま疲れていそうだから、なにかしてあげないと!」などと思うことはごく自然なことである。だが、それが本当に、その人にとって必要な行動なのかはわからない――。

「超多様性トークショー!なれそめ」7月7日(金)の放送では、守りたいと思う相手にこそ、自分の考えを共有していくことが大切であると改めて認識させてくれた。

今回のゲストカップルは、大学在学中に起業した中村朝紗子さん&早起きをモットーに活動している井上皓史さん。
21歳という若さで起業した朝紗子さんと、毎朝5時に起きて朝活コミュニティーの活動をしている皓史さんのふたりは、どのようなきっかけでカップルに?
そして、結婚をあきらめかけていた朝紗子さんと、起業家の彼女を支える皓史さんの間にはどのような苦悩や覚悟があったのか?

「なれそめ」のキーワードを記した「なれそメモ」をもとに、司会の田村淳さんとゲストの方々が掘り下げていく――。

皓史さんが「朝活コミュニティーのお手伝いをお願いしたい」と、SNSで朝紗子さんに声をかけたことから、2人の交流が深まっていく。当時、朝紗子さんは、自分に対する「女性起業家」というイメージに悩み、女性として世の中的なかわいい像に自分を寄せていかないといけないのだろうかと葛藤していた。

自分の弱みを見せることや素の自分を出すことに抵抗を感じていた朝紗子さんが、弱音を吐ける存在だったのが皓史さん。そして皓史さんは、尊敬する朝紗子さんを支えていくことを決意する。皓史さんは「公私混同」して支えたいと、プロポーズと同時に朝紗子さんの会社に入社を申し込む。ナンバー2として会社もプライベートも両方支えたいという思いに、朝紗子さんは悩みながらも、皓史さんしかいないと受け入れた。

しかし、ある問題点が浮き彫りとなる。

「朝紗子がへこむと会社もへこんでしまうから、なにかできることをしよう!」と良かれと思って行動を起こす皓史さん。
だが、その一方で、朝紗子さんは、
「そうしてほしいんじゃないんだよな…」と感じることが続いた。
こうしてだんだんとふたりの間で溝が深まっていったという。

溝の解消が「外部コンサル」!?

その溝を改善するためにふたりが取り入れたのが、外部コンサルだった。なんとも会社経営に携わるおふたりらしい解決策である。
こうして組織コンサルの専門家が夫婦間に入り、問題点やけんかが起きるパターンを分析していくことで、お互い俯瞰して見られるようになったと話した。

私が最も重要なキーワードだと感じたのが、「俯瞰」。
この言葉に、私が以前経験したある出来事がよみがえった。

母校の大学で、LGBTQのTであるトランスジェンダーの当事者として、大学の施設について意見を共有する集まりに参加したことがあり、そこで私は性別に関係なく利用できるジェンダーレストイレの設置を望んでいることを話した。誰もが使いやすい場所が必要なのではと考えていたからだ。
だが、そこでひとりの参加者の方の意見に私はハッとさせられた。
「女性の中で過去に痴漢にあったことや怖い体験をした方にとっては、使いにくい場所になってしまうかもしれない」
まったくその通りであった。これでは誰もが使いやすいものではない。

私はLGBTQの当事者としての視点でしか考えられていなかった。俯瞰して物事を捉えていなかった。それが、意見交換を行う中で見つけることができた新しい視点だった。

そしてお互い俯瞰して見られるようになった、朝紗子さんと皓史さんのふたりが考える「超多様性」とは――

「ありのままを応援すること」皓史さん
「迎合しないこと」朝紗子さん

朝紗子さんは、人と違う生き方がひとつの個性であり、誇れるものであることを、皓史さんがいたことで気づくことができた。

お互いを大切に思う気持ちが、時に相手を苦しめてしまうかもしれない。近しい関係性の人だからこそ、「俯瞰」して物事を見ていくことが、その人との関係性をより良いものへと導くひとつのきっかけになるのだ。

世間のイメージと違う――ただそれだけで、自分をさらけ出して生きることができなくなってしまう。誰もがありのままでいていいはずなのに、ありのままでいたいと願うことがあたりまえの社会となっている。

自分を受け入れてくれる人と出会えるのは、数人なのかもしれない。だからこそ、その出会いはあたりまえではないということを忘れてはいけないのだ。私自身、あたりまえに存在している友人や家族の大切さを、ふたりの「なれそめ」が改めて思い出させてくれた。

「超多様性トークショー!なれそめ」の公式HPはこちら

「自分をさらけ出した起業家の彼女&最強のナンバー2の彼」は、本放送から1週間見逃し配信しています。

次回の放送は、7月14日(金)
「夢を諦め、新たな夢を見つけた国際結婚カップル!パティシエになりたかった #濱根綾華さん&サッカー選手になりたかったインドネシア出身の #ウギアさん」カップル!

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。