女子校出身のトランスジェンダー正木菜々瀬が、これまでの経験などをもとに番組をレビュー。誰かの背中をそっと押すような、そんな番組との出会いを皆さんに届けます。

何かを選択する時、無意識に一般的なふつうにあてはまるような選択をとってしまうことがある。それは安心したいから。だが、自分がこうあるべきだと選んだ選択を自分の中の“ふつう”にしていくことのほうが、人生は豊かになるのかもしれない。

8月18日(金)放送の「超多様性トークショー!なれそめ」は、“ふつう”の在り方を自分自身で決めていくことに大きな意義があることを教えてくれた。

今回のゲストカップルは、同性が好きなことに26歳で気づいた淳子さん&誰かに愛される幸せを知ったひとみさん。
過去には男性と結婚した経験をもつ淳子さんと、いままで恋愛で裏切られることが多かったひとみさんのふたりは、どのようなきっかけでカップルに?
そして、自分の気持ちに気づいて向き合った時の心情、同性カップルだからこそ感じる苦悩や葛藤とはどのようなものなのか?

ふたりの「なれそめ」のキーワードを記した「なれそメモ」をもとに、司会の田村淳さんとゲストの方々が解き明かしていく――。

SNSで知り合い、友人として関係性を深めていったふたり。出会った当時、淳子さんは男性と結婚をし、ひとみさんは同性のパートナーとお付き合いをしていた。だが、それぞれパートナーと上手くいかず、新しい出会いを探していく中で、ふたりは友人としての関係性から恋人へと変わっていった。過去の恋愛で苦い経験をしてきたふたりだったが、人を愛すること、人に愛されることの幸せをお互いの存在が教えてくれたという。

だが、パートナーが同性であることはお互い周りには話せない日々が続いた。そんな時に、大阪で開催された関西最大級のLGBTQのイベントで公開結婚式を挙げることになった。それが大きなきっかけになり、お互いの存在を家族や周りに話すことができたという。言葉で伝えることより、ふたりが選んだ公開結婚式という選択肢は、私たちはここに存在しているんだと、家族や友人だけでなく社会に伝えてくれる勇気ある決断となった。

傷ついた過去が教えてくれる人の温かみ

ひとみさんは高校時代に、友人がレズビアンや同性愛者に対して偏見をもっていたことから、友人ですら理解してもらえないのなら社会はもっと理解してくれないのではないか、という苦しい思いを抱えた時期があった。みんなと同じように人を愛しているのに、堂々とできないことへのもどかしさや周りの視線が気になる気持ち、その経験は私も過去に感じてきたことであり、今でも時々感じることだ。

トランスジェンダーとして生活している私が体験した病院での出来事。受付で診察券を出した時に、性別の欄が戸籍を変更する以前の「女性」のままであったことに気が付いた。

心の中は、
「このままだと周りに人がいるのに性別のことを言われてしまう!」
そう思い、自分から説明しなければと受付の方に声をかけた瞬間、隣に他の患者さんがきてしまい、聞かれてしまうという焦りと戸惑いで言葉を発せなくなってしまったのだ。

そんな私の姿を見て受付の方は、
「わかりました。大丈夫ですよ」
ひとことそう言った。私はその時、何に対してわかったのかがわからず、その場しのぎで受付から離れた。
だが、診察が終わり再び受付に行った時、渡された診察券の性別が男性に変わっていたのだ。

私が焦ったのは、過去に苦い経験をたくさんしてきたから。だが、その過去の経験があったから、人の温かみに気づけた。
受付の方にとってはあたりまえの行動だったかもしれない。ただ、そのあたりまえが、別な誰かにとっては特別で温かみのある行動だったりする。それが世の中にはあふれているんだと…。
過去の苦い経験は、私のいまの幸せをより特別なものにしてくれているのだと思わせてくれている。

そして、ふたりが思う「超多様性」とは――
「まずは知ってもらうこと」(ひとみさん)
「相手を無条件に愛せること」(淳子さん)

改まって思いを打ち明けることは大切なこと。だが、そう簡単に打ち明けることができないから悩むのだ。それでも、言葉では難しくても、ひとみさん&淳子さんカップルが選択した公開結婚式のように、行動から伝わる愛や思いはたくさんあることをふたりは伝えてくれた。愛するということに定義などないからこそ、多様なかたちを知る必要が私たちにはあるのだ。

そして、自分を人のふつうにあてはめようと努力をすることよりも、これが私のふつうなのだと自分のふつうを創りあげることに私は時間を費やしたい。それが、自分らしくいられる環境や人で溢れる行動につながると信じて。

「超多様性トークショー!なれそめ」の公式HPはこちら

次回の放送は、9月1日(金)
「激変メイク術で注目される #足の裏さん&発達障害に向き合えたユーチューバーの #あつろーさん」カップル!

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。