“誰一人取り残さない” キャンパスづくりを掲げている流通経済大学で、7月3~8日にかけて第1回「ダイバーシティウィーク」が開催された。
流通経済大学が尊重する「ダイバーシティ=多様性」推進の一環として、ジェンダー、LGBTQ、障がい者支援、SDGs、さらには共生社会の実現などのテーマを、全学部をあげて考えを深め、議論する1週間だ。

そして私は、LGBTQの当事者として、8日に行われた「LGBTQ当事者 トークセッション」に登壇。ダイバーシティ共創センター長の大橋教授が司会を務め、私 の大学の先輩でもある浅野所員と、学生時代に不便だと感じていたことや授業中に困った出来事などの体験談を中心に話した。

私と浅野氏は、LGBTQのTであるトランスジェンダーとして大学生活を過ごしてきて、大学在学中に戸籍変更をしている。4年間の学生生活で大きな変化を体験したことから、悩む部分も多くあったため、そのいくつかを話させてもらった。

まず、私たちが大きく悩んだことは、トイレや更衣室といった施設面。

私が通っていた龍ヶ崎キャンパスの講義棟では、男女のトイレが完全に分かれている構造になっていたこと、そして教室の目の前にあったため、誰がトイレに入っていったのかが分かる構造になっている。

男性的な見た目をしている私が女子トイレを使用することは、周りの人からの視線に対する恐怖、誤解を招いてしまうという不安があり、使いたくても使えない状況だった。どうしてもトイレに行きたいときは、建物の最上階まで行き、人の出入りが少ない階を選んでいた。
あまりの不便さに、なるべくトイレを使用しないようにするために、水分を控えることまでしていたほどだ。
同様に更衣室も、教室から目に入る位置にあったことで周りの視線が気になり、ひとけの少ないトイレや多目的トイレを使用していた。

「ほかの学生と同じように、気兼ねなく施設を使用できたらどれほど学生生活が豊かだったか」と、当時を振り返ると、改めてそうした感情が思い起こされた。

最近、龍ヶ崎キャンパスには「誰でもトイレ」が設置された。完全個室制で、個室内には必要な設備が完備されている。

更衣室も完全個室制で完備され、人目を気にすることなく、使いたいときに誰でも使える環境へと変わった。
まだまだ改善の余地はあると思うが、今後も学生の声に耳を傾け、誰もが使いやすい施設の実現に向けて、歩みを止めることなく進んでいってほしい。


トークセッションでは、私が大学在学中の、最もつらい出来事についてもお話しさせていただいた。
それは学生に対する名前の呼び方――。

小学生の頃、私たちは先生にきっとこう呼ばれてきたと思う。
男子生徒は「〇〇くん」、女子生徒は「〇〇さん、〇〇ちゃん」。
私は大学3年の時に戸籍を変更したのだが、履修している講義の内容との関係で、教授にその旨を伝えなければならなくなった。それまでは「さん」づけで呼ばれていたが、それを伝えた次の講義では「くん」づけで呼ばれた。

その講義は全体で100人以上の学生が受けるもので、さらに1年の時からの知り合いが多くいるなかで、「正木くん」と呼ばれてしまったことは、恥ずかしい気持ちとは少し違う、なんと表現していいかわからない複雑な気持ちになった。
その出来事があり、以降その教授の講義を受けることが苦痛になってしまった。
名前ひとつ呼ばれることに対して緊張感や恐怖、いつ名前を呼ばれるのかというストレスがのしかかり、講義の内容に集中することができなくなったのだ。

ここで私が感じたのは、なぜ名前の呼び方は性別で分ける必要があるのかということ。社会人になればほとんどの場面で、性別関係なく「さん」で呼ばれると私は感じている。だからこそ、学生の頃から「さん」で呼ぶほうが理にかなっているのではないだろうか。

名前の呼び方ひとつで学校に行くことが苦痛になってしまうことがあるということを、私は今回伝えたい。そんな状況を作らないために、教職員への研修を行うなどして、大学全体で学生が学びに集中できる環境をつくってほしい。

今回、過去の経験を思い出しながら、当時の思いを改めて言葉にしたことで、大学施設の問題や教職員との関係性など、“誰一人取り残さない”キャンパスづくりのために考えなくてはいけない課題を共有することができたと感じている。私の考えを在学中の学生や教職員の方に向けてお話したことが、これからのなにかのきっかけにつながってほしい。
学生の声に真摯に向き合っている流通経済大学が、今後も共生社会の実現に向けて力を注ぐことに期待したい。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。