10月16日(日)、千葉県の流通経済大学・新松戸キャンパスにて、地域社会との連携について考える官学連携イベント「流経大×松戸市 地域共生シンポジウム〜みんなのために、ひとりのために、見つけよう、いまできること。ここ松戸で〜」が開催。イベントを推進した同大学の龍崎孝副学長に、今回の取り組みの目的と地域連携への思いを伺った。
▼イベントの概要はこちらから
https://steranet.jp/articles/-/1043
▼各出演者のインタビューはこちらから
https://steranet.jp/articles/-/1056
——今回のイベントもとても盛りあがりを見せました。率直な感想をお聞かせください。
龍崎 ことし7月に開催した「海の日アートフェス」(https://steranet.jp/articles/-/725)は、「アート」をテーマに流通経済大学の取り組みを紹介するイベントでした。今回は「地域共生」をテーマに、松戸市と共催した初の官学連携イベントになります。今、イベントを終えて感じていることが2つあります。
1つ目は、自治体と共に力を合わせて共生社会を実現するにはまだまだ課題が多く、その中には大学ができることがたくさんあるということ。おそらく行政だけで、すべての課題に取り組むことは難しいでしょう。今回のシンポジウムで、「大学に何でも相談してください」と改めて皆さんにお伝えできたことは良かったと思っています。
2つ目は、流経大チア部「GLITTERS」と知的障がい者チアリーディングのコラボが実現したり、ダンス部のレベルアップしたパフォーマンスが披露されたりと、学生や子どもたちが頑張っている姿を多くの方に見ていただけたことです。大学全体の成長も実感することができました。これはとてもうれしいことです。
——今回、シンポジウムを開催し、「地域共生」について話し合った意義は何でしょうか?
龍崎 シンポジウムでは、さまざまな立場の人が一つのテーマに沿って、それぞれの思いを述べていきますよね。一方的に「私たちはこういうことやっています」と話すのではなく、それぞれの意見や考えに耳を傾けることで、お互いの足りない部分に気づき、協力できることが見つかります。そこがシンポジウムの利点であり、大事なポイントだと思っています。
今回は、松戸市町会自治会連合会会長、松戸市副市長、一般社団法人日本知的障害者チアリーディング協会代表理事、そして流通経済大学からは副学長の私が登壇することで、それぞれの視点から捉えた課題が見えてきました。
——シンポジウムを通じて、新たな発見や気付きなどはありましたか?
龍崎 行政にも、われわれ大学にも限界があることを改めて考えさせられました。それぞれの立場を大事にしすぎると、どうしても抜け落ちてしまったり、手が回らない部分が出てきたりします。だからこそ、行政や大学、そして地域が一緒に手を取り合って取り組めるものを探していくことが、「共生社会」の輪を広げる第一歩になると実感しました。
——来場者の方からのリアルな声を、どのように受け止めましたか?
龍崎 会場からもさまざまなご意見をいただくことができ、驚きました。私たちの話を聞いて終わりではなく、「このテーマについてはどう考えていますか?」と疑問を投げかけていただいて。今後、われわれがやるべきことを教えていただいたようにも思いましたね。真剣に私たちと向き合ってくださったからこそ、意見や要望などが出てくるのだと——。今回のシンポジウムは、地域連携への重要な“場”になったと感じています。
——「共生社会」の実現に向け、これから挑戦したいことは何でしょう。
龍崎 考えていることが2つあります。1つはシンポジウムでも話題にあがりましたが、大学に行けない、行きづらくなっている子どもたちや学生のために、「サード・プレイス」を作ることです。せっかく大学に入学したのに、さまざまな事情で大学に来られなくなった学生がたくさんいます。また、障がいがあるお子さんを預かる学校や保育園などが、サード・プレイスを必要としているという話も耳にしています。サード・プレイス作りの第一歩を、まずわれわれが踏み出したいと考えています。
もう1つは、松戸市にある「常盤平団地」に、大学が主体となって地域連携や地域創造に取り組む“ステーション”を作りたいと思っています。比較的ここは高齢者が多い団地なのですが、今回のイベントのように、アート作品やダンスパフォーマンスなど、さまざまなかたちで共生を模索していけたらと。一時的なものではなく、恒常的に地域に溶け込んでいき、何か一緒にできることを考えていきたいですね。このような場を広げていくことで、「今度、イベントを一緒にやりませんか」と、逆に地域の方から声をかけてもらえるのが理想です。そういった“つながり”の輪を広げていきたいと思います。
——地域に開かれた大学が、共生社会に新たな可能性をもたらすと感じました。
龍崎 大学の特性を最大限に生かし、開かれたイベントをどんどんやっていくことが私は大事だと思っています。そして、他大学がやらないこと、やっていないことを、どのように実現させるかを考え、知恵を絞っていく——。それが流経大らしさだと思います。「誰もやらないんだったら、私が障がい者のチアリーディング協会を作ろう!」という稻山さんとまったく同じ発想です。
今回、特にうれしかったのが、知的障がいのある子どものお母さんに「次のイベントはいつですか?」と聞かれたことです。「子どもたちの成長ぶりを実感して、すごく感動しました」とおっしゃっていただけて。私も、パフォーマンスを見てちょっと泣きそうに……、いや泣きましたね(笑)。うれしく思うと同時に、こういったイベントを継続していく責任も感じました。今後もオープンな場を作っていきたいと思います。
シンポジウムを通じて、共生社会への道のりには、多くの課題が山積していることが明らかとなった。そんな中で、誰もやっていないことをいかに実現し、行動に移していくかを考え、挑戦し続ける流通経済大学。これまでの取り組みによって、少しずつ地域連携の可能性や広がりが見えてきた。
同大学が掲げる「誰一人取り残さない」というビジョンが、今、輝きを増している。
1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。