教育番組・コンテンツの国際コンクール「日本賞」。「世界の教育番組の質の向上と国際間の理解と協力の増進に役立つこと」を目的として、NHKが1965年に創設。2023年、第50回を迎えた日本賞には、世界の55の国と地域から391のエントリーが寄せられた。

11月20~23日に「第50回日本賞映像祭」が東京・原宿で開催され、授賞式のほか、受賞作品について語りあう上映会とディスカッションが行われた。その映像祭の様子を紹介。


20日の開会式には、秋篠宮妃の紀子さまも出席。

紀子さまは「本年は、異なる文化への理解や多様性の尊重、気候変動、青少年の紛争下での暮らしや成長過程で抱える悩みなどをテーマとして扱った作品が受賞しています。これらの受賞作品を視聴することは、私たちが感じること、考えることを語り合い、異なる見方に気づく、そのようなきっかけにもなっていくことでしょう」とあいさつされた。

今回、最も優れた作品に贈られる「グランプリ日本賞」には、イスラエル人の監督とパレスチナ人のプロデューサーが去年発表したドキュメンタリー作品「トゥー・キッズ・ア・デイ」が選ばれた。

作品では年間700人、平均して1日に2人のパレスチナ人の子どもたちがイスラエル軍に逮捕されているという、ヨルダン川西岸地区の実態を描いている。

兵士に石を投げたとして数年間拘束された少年たちへの尋問の記録映像や、釈放後のインタビューのほか、軍の元兵士などのインタビューを通して、イスラエルとパレスチナの間で続く憎しみの連鎖の背景に迫る作品だ。


そして会期中には、イベント会場と特設サイトにおいて、各部門の最優秀賞、優秀賞、特別賞の上映会や、これらの作品の受賞者を囲んで、教育メディアが果たすべき役割についての議論も行われた。

その中で、節目となる50回を記念して行われたのが、「第50回記念セッション」。半世紀におよぶ日本賞の歴史を振り返り、教育メディアに与えた影響や、時代を越えて受け継がれてきた価値、そして未来に向けた展望や課題について、次の4名が世界のプロデューサーを代表して語り合った。

ティーナ・クレメッティラ
(フィンランド/公共放送 YLE エグゼクティブ・プロデューサー)
デイヴィッド・クリーマン
(アメリカ/デュビット グローバルトレンドシニアバイスプレジデント)
アルダナ・ドュハルデ
(アルゼンチン/写真家・ジャーナリスト・脚本家)
小平さち子
(日本/元NHK放送文化研究所 上級研究員)

ティーナ・クレメッティラ
デイヴィッド・クリーマン

アルダナ・ドュハルデ
小平さち子

小平さんは、日本賞の特徴・価値を「先見性」と表現。
「第1回でテレビ部門の大賞を受賞したフィンランド制作の『自然のカレンダー~むかしむかし~』は、自然保護の重要性を訴えた教育番組です。『環境教育』という言葉が登場する以前の先駆的なものでした。幅広く教育コンテンツを捉えていくという日本賞の基本的な姿勢はここに始まったといえます」

その後も日本賞は、いじめ、貧困、差別、難民など、グローバルな社会課題についていち早く社会に訴える作品を広く世界に示してきた。

また日本賞は、最新技術が教育にどのように活用できるのかというショーケースともなっている。2002年にウェブ部門の新設、2008年には映像作品のほか、ゲームソフトや各種双方向コンテンツなど、「教育的な意図で制作された音と映像を用いた作品」全般を対象にするなど、時代に応じて対象メディアを拡大してきた。

クリーマンさんが「日本賞は、教育のインタラクティブなデジタルメディアの先駆者となっています。私が、ハイテレビジョンテレビや3Dテレビを初めて見たのも日本賞の場でした。常に前向きに教育を考える場を提供してくれます」と述べたように、日本賞は新しい教育コンテンツの可能性を切り開く場所でもある。

また2003年には、予算などの条件が十分でないために制作が困難な国・地域の優れた企画に対して、番組制作の実現を支援する目的で、「番組企画部門」を創設。これまで、80を超える国・地域から792の企画が寄せられ、賞金を用いて完成した番組は37にのぼる。

ドュハルデさんは、「日本賞は、世界に存在するさまざまな課題を一緒に考える時間を与えてくれます。その中でも企画部門は『挑戦』の場であると同時に、互いに学び合い、違う文化を学ぶことができる、他に例を見ない場であると感じます。このような場が今後も提供されることは、非常に良いことだと思います」と期待を寄せた。

ディスカッションでは、これまでの作品を振り返りつつ、日本賞が果たすべき役割などについて議論を深めた後、最後に、未来に向けた展望について、4人がそれぞれ意見を述べた。

クレメッティラ​「これまでの日本賞参加作品のように、引き続き、勇気を持ったクリエイティブな作品で、世界をより良いものにしてもらいたいです」
クリーマン「世界に知られる余地が日本賞にはまだまだあります。もっと多くの方々に日本賞を発見してもらい、より発展してもらいたいです」
ドュハルデ​「この日本賞という宝を多くの人と共有すると同時に、今学んでいる人たちに、学びの栄養を与えてほしいと思います」
小平「日本賞での出会いはその場限りのものではなく、その後の交流が大きな宝となります。今回参加してくださった方が、日本賞を発展してくださる力となっていただけたらうれしいです」

記念セッションの来場者には、次世代を担う大学生などの姿も。それぞれの意見の尊重を大切にしながら、「教育メディア、日本賞の価値と未来」について対話を重ねる登壇者の姿に、多くの来場者が真摯に耳を傾ける、味わい深い時間となった。


「日本賞映像祭」終了後、日本賞事務局長の安田慎さんに、イベントを振り返って率直な思いを聞いた。

――「日本賞映像祭」を振り返っていかがですか?

教育について参加者の皆さんと密にディスカッションする、とても有意義な時間を過ごすことができたと思います。特に「第50回記念セッション」では、長年にわたり日本賞が教育メディアの発展に貢献していることを改めて実感し、励みになると同時に身が引き締まりました。

今回、50回を祝うメッセージを過去の参加者や審査員の方から多く頂きました。その中で印象的だったのは、「教育的な価値に重きを置いた映像祭は唯一無二」といった言葉を多くかけていただいたこと。映像コンテンツの教育的価値をとことん議論することを日本賞は常にこだわっています。この議論を決して止めてはいけないという決意を新たにしました。

――今回の受賞作品で印象に残っているものはありますか?

ことしも心に残る作品がたくさんありました。グランプリを受賞した「トゥー・キッズ・ア・デイ」は7年もの歳月をかけて作られ、地道な取材の積み重ねにもとづく問題提起が光っています。

ほかにも青少年向け部門の最優秀賞作品「ライク ミー 二度目のチャンス」はタブー視されがちなテーマを扱っているという点で印象深いです。若者たちがいろんなことに葛藤する姿を描いたドラマシリーズで、このエピソードでは、16歳の2人の性行為を描いています。

制作者のアンナ・ウィスロフさんは、制作の狙いについて「学校では、避妊の仕方については教えても、実際の性行為については教えてくれない。だからみんな、インターネットでポルノを見て、より大きな不安を抱くようになる。そんな状況を変えたかった」と明かしてくれました。

その状況は日本でも全く同じだと思います。ネットの情報だけを頼ってしまうゆえに、誤った情報をうのみにしてしまう若い人たちは、今とても多いのではないでしょうか。「ライク ミー」では「最初から完璧を求めなくてもいい」と、ぎこちない性行為を描いています。ノルウェーの公共放送が、若者たちに向けてこうした意欲的な発信を行っていることは、NHKにとってもたいへん参考になります。

――「日本賞」という場を今後どのようにしていきたいですか?

正直に申し上げまして、教育コンテンツに対する認知度はまだまだ低いと感じます。教育メディアやコンテンツに携わっている人間も、決して多くはありません。だからこそ、教育に携わる人たちが一堂に会し意見交換する場を提供し続けることが大事だと思います。

今回、受賞作品上映後にディスカッションタイムをそれぞれ設けたのですが、本当にさまざまな意見が飛び交うんですね。制作者の意図しない部分で共感が生まれたり、アイデアを共有したりと、たくさんの考えに触れることができました。

このような場から、各コンテンツの中に教育的価値をどう埋め込んでいくかといった意識をもっともっと広げていくことができるはずです。そういった場所づくりを、日本賞が今後も担えたらと思います。

また日本賞受賞作品には、「教育番組はこうあるべき」という既成概念を取っ払ってくれるきもち良さがあります。そういった作品にもっと多くの方に触れていただきたいです。「発想を自由にしていいんだ」と刺激を受ける作品が多くありますから。

そして、新しい教育コンテンツの制作に挑戦してみようという、若い方が出てくることを大いに期待しています。


第50回日本賞特番の放送が決定!

【放送予定】
12月23日(土)Eテレ 午後9:30~11:00
​12月24日(日)Eテレ 午後2:30~3:45

グランプリ日本賞を含む4本の受賞作品を放送するほか、日本賞映像祭のハイライトも紹介予定。ナビゲーターは、ハリー杉山さん、礒野佑子アナウンサー。

日本賞の公式サイトはこちら
グランプリ作品や各部門の最優秀賞、優秀賞、特別賞、ファイナリスト作品等の情報が見られます。