ことし6月、東京の法政大学 市ヶ谷キャンパスにて『B/P実態調査報告会』が行われた(B/P=バイセクシュアル/パンセクシュアル)。セクシュアリティの可視化を促し、バイセクシュアルの中の様々な軸での多様性を把握することを目的とした調査だ。
近年、LGBTQという言葉が広がりをみせる中、最も実態が表出していないのが「バイセクシュアル」、すなわち女性と男性の両方が恋愛的・性的な対象となるセクシュアリティ。そして、二元論にとらわれず、あらゆる性のあり方に惹かれるのが「パンセクシュアル」だ。なお、恋愛的な対象とする部分を「バイロマンティック」「パンロマンティック」と抽出することもある。
今回、トランスジェンダーである私(正木)の視点から、調査報告をとおして見えてきた可能性と課題について言及していきたい。
まず、調査方法としては、ウェブ上で利用できるアンケートフォーム(Googleフォーム)を活用し、 TwitterやLINEグループで周知してアンケートを実施している。
対象は、以下の通りとなっている。
〇複数の性別・ジェンダーに、恋愛的・性的または親しい感情的な繋がりを求めたり関係をもったりしたことのある方。または、それに近い、そうかもしれないと思っている方。
〇異性との恋愛的・性的関係を持つと同時に、自身が同性愛者であることを自認している方。同性との恋愛的・性的関係を持つと同時に、自身が異性愛者であることを自認している方。
アンケートに協力した人は、14〜63歳と幅広い年齢層。出生時に割り当てられた性別や、現在の性別についての捉え方などをきいている。
まず、私が注目したのは、「現在あなたは、あなたの性別についてどのように捉えていますか」という設問だ。結果を表す円グラフには、何種類もの色で分けられた性自認の数があるが、みなさんが思う性別とはなんでしょうか?
私が考えるに、多くの人が「性別とは?」と聞かれた時にイメージするのは、戸籍上で定められている男性と女性だと思う。だが、ここで気付かされるのは戸籍上で定められたものだけではないということだ。
出生時に割り当てられた性別が女性の性自認・男性の性自認ともに、戸籍上の性別と自認している性別が一致していると答えたのは、半数以下だった。(女性44.9%:男性44.7%)
固定観念を見直し、いま一度まっさらな状態にして考えることの大切さがわかる貴重なデータだ。
私たちもまた、何かのカテゴリーの中に存在しているが、それでも一人ひとりが型にはめられることのない存在である。
そして、社会的に決められた性自認や性的指向にこだわる必要もなく、あいまいであることを受容し、無理して自分を決めつけなくていい、そう思わせてくれた。
LGBTQと密接にかかわる課題「結婚」
近年、話題に上ることが多くなった『同性婚』。法の下に誰もが平等であるはずの社会において、結婚を望むとき、できる人とできない人がいる。
そして注目したのが以下の設問。
日本で(戸籍上)同性間の婚姻が法制化された場合、あなたはその制度の利用を望むかどうかという設問に対し、「望む」「どちらかといえば望む」を合わせた回答は約55%で、「望まない」「どちらかといえば望まない」を合わせた回答が約17%だった。
このアンケートでは、「望まない」理由を尋ねていないので背景にある考えはわからないが、私なりに分析してみた。
婚姻制度自体に賛成していない人もいるだろうし、自分自身が婚姻制度を利用する想定がないと考える人もいるはずで、その結果「望まない」や「どちらとも言えない」、という回答が約17%に上ったのだろう。
また、婚姻よりもメリットが特にない同性パートナーシップや養子縁組などは、同性間の婚姻制度がないからこそ消極的に使われている制度であり、同性間の婚姻ができればわざわざ選択する人はいなくなるのではないだろうか。
このことから、私がいま必要だと思うのは、消極的な選択をしなくて済む、誰もが自分に合った選択ができる法整備である。
そして、今回の『B/P実態調査』と、一般調査を比較することによって見えてくる課題に注目してみたい。日本に居住する満20〜79歳の男女個人を対象に、無作為抽出法で行われた『性的マイノリティについての意識:2019年全国調査』では同性婚に対する賛否を尋ねている。
上段のグラフが「B/P実態調査」、下段が「2019年全国調査」の結果だ。「2019年全国調査」においては同性婚に対する賛成が25.8%、やや賛成が39.0%なのに比べて、当事者が多いと想定される『B/P実態調査』においては、97.2%の人が賛成・やや賛成と回答していた。
『B/P実態調査』では、別の設問で「同性どうしの結婚を法で認めること」について賛成か反対かを尋ねている。その回答を見ると、賛成または反対以外に、異性婚ではなく日本の婚姻制度そのものに反対している意見や、結婚を法で認めること自体に反対する意見などもあった。
一概に同性婚に対しての賛否だけではなく、家父長制の文脈を汲んだ現在の婚姻制度に対するさまざまな価値観があることがこの結果から見える。
同性婚について考えることは、婚姻の自由や結婚に対する法的整備を考え直すことでもある。日本が誰もが暮らしやすい社会を目指すうえでの課題として、現行の婚姻制度を一人ひとりが今一度考え直す必要があるのではないだろうか。
今回の調査によって、バイセクシュアルやパンセクシュアル等の一部がどのような実態であるか、量的に明らかとなった。
可視化された今回の課題が、社会にどう取り上げられていくのか。私は、 このような調査の存在を、少しでも多くの人に知ってもらえる機会を増やすことが大切だと感じる。
言葉に心が動かされることがあるように、このような調査があたえる安心感や期待があることを、今回の調査で認識した人も多いはずだ。
いまあるこの現状を受け止め、見つけた課題に向けて動きを止めないことが、多様性への道が開かれるきっかけへとつながっていくのだ。
引き続き、調査結果の今後の行方を見つめていきたい。
1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。