ごみ収集から見えてきた社会(後編)滝沢秀一(芸人・ごみ収集員)の画像
1998(平成10)年にお笑い芸人としてデビューしたあと、2012年から生計を立てるためにごみ収集会社に就職したたきざわしゅういちさん(44歳)。
今でも、芸人とごみ収集員という二足のわらじを履きながら、ごみに関わる社会課題などをユーモラスに語って活動の幅を広げています。そんな滝沢さんにごみ収集員としての苦労や今後の夢をうかがいました。(前編はこちらから
聞き手 高村麻代

ごみは生活の縮図

——これまでに何冊かごみに関する書籍も出されていますが、切り口がさすが芸人さんで、環境問題を考えさせられつつ、ユーモアにあふれているなあと思います。

滝沢 もともとお笑いをやっていたので、ごみを使って笑っていただきたいという思いもあります。一方で、環境問題のことを話す人って、こうしないともうやばいですよみたいな怖いことばかり言ってたりします。だから、なんかユーモアを交えてみんなに知ってもらい、「そんなにやばいのなら、ちょっとやってみようかな」って、自分の生活を見直してくれるようになってくれたらいいかなと思いまして、そういうタッチになりました。

——他にも、滝沢さんはごみ集積所や、ごみそのものを見て地域の品格が想像できるという洞察力がすごいなあと思いました。

滝沢 ベテラン収集員と会話するようになって、一般的に言われている高級住宅のごみと、一般住宅のごみでは種類が違いますよねと話しかけたら、「よく気付いたな」っていろいろと教えてくれたんですよ。一般的に治安が悪いといわれる地域のごみ集積所と、治安がいいといわれているごみ集積所では、きれいさが違うんです。だから、マンションを選ぶ場合も、駅から近いからっていう条件よりも、まずごみ集積所を見た方がいいと思います。

例えば、一つルールを破る人って、だいたいそれ以外のルールも破るんです。ごみ集積所をきれいに使うというルールを破る人がいたら、それ以外にも自転車の停め方がきちんとしてなかったり、騒音だとか夜中の出はいりが激しかったりなどが想像できます。すなわち、生活の表現の一つとして、ごみの出し方が汚いということがあると思います。ごみは、その人がどんな生活をしてるかが分かる生活の縮図だったりします。ごみはうそをつかないので、違反ごみを出す人はどういう人なのかが分かりますね。


SNSでもごみの話題を発信

——そうした日頃のごみ収集員として得た経験などを、SNSでも熱心に発信してますね。

滝沢 世の中にはある一定数、ごみのことについて話をしたいっていう、ごみファンがいるんですよ。例えば地球やエコのためにこういうふうにやっているよとかなんですけど、エコ活動って意外と孤独な戦いだったりするんですね。水を汚さないよう、使い古したタオルを雑巾にして、カレーを食べたお皿を拭いてから洗っている人って、誰にも褒められない。それを、「すごいですねー」なんて言ってたら、お互い情報交換の場にSNSを使うようになりましたね。

——滝沢さんご自身も、ごみへの意識が変わりましたか。

滝沢 180度変わりましたね。僕の今の一番の夢は、日本のごみを減らすことです。そのために、生ごみはコンポスト*にした方がいいですよとか、雑がみを古紙回収のときに出せば可燃ごみが減るんですとかいうことを発信しています。……「堆肥」や「堆肥を作る容器」のこと。家庭から出る生ごみや落ち葉などの有機物を、微生物の働きを活用して発酵・分解させて堆肥を作る。

——最近では、公の場で発信される機会も増えていますね。2020年5月には、東京都の配信動画で小池百合子知事とも共演されました。

滝沢 コロナ禍のときのごみの出し方みたいな話をしたんですが、ごみ袋の口をきちんと結ばずに出す人っていっぱいいるんですよ。ごみ収集員がそれに気付かないまま投げてしまうと、中身をばらまいちゃって大変なことになったりします。それから、コロナの影響で片づけごみの量がすごいんです。

ごみ収集車ってごみの量を計算しながら収集しているんですが、一軒のお宅がまとめてごみを出しちゃったりすると、計算した手前で収集車が満杯になってしまうんです。なので、大量にごみを出すときは事前に申請するとか、洋服など腐らないごみであれば数回に分けてもらうことが最善だと、小池都知事にお話しさせていただきました。

イラスト/小宮山サト

ごみを決めるのは人の心

——2020(令和2)年10月には環境省からサステナビリティ広報大使に任命されました。

滝沢 ここまでごみに詳しい人は少ないので、基本的には今までどおり発信を続けてくれと小泉進次郎大臣から任命していただきました。「ごみ収集のことだけじゃなく、環境問題にも目を向けていろいろ発信してくれたらうれしい」と言われました。

僕の大きな目標は日本のごみを減らすということなので、ごみを減らせる方法をいろいろと発信していきたいと思っています。特に、食品ロスを減らしたいって思っているんですよ。お歳暮シーズンはメロン丸ごと3つ捨てるとか、秋になると新米が出るから古い米を捨てたりするんです。でも、僕はごみを回収することが仕事なので、出されたものはルール違反じゃなければ持っていかなきゃいけない。8年間くらいごみ収集員をやっていると、ごみって何だろうなって考えるようになるんです。

——ごみって、我々の生活の最終地点というか、生活の塊みたいなものですよね。

滝沢 それも一つあるかもしれないですが、ごみを回収していると、例えば焼きそばを一口食べて、そのまま捨てられていたりするんですね。他の人なら食べられるのにって思ったりします。だから、人によってごみの捉え方は違うのかなって思うようになったんです。きれいだからごみじゃないとか、汚いからごみだっていうことではないんだろうなって思うようになってきたんですね。だから、ごみかどうかを決めるのは人の心だと思います。日本は年間600万トンくらいの、まだ食べられる食べ物が捨てられているそうなんですが、世界の食料援助量が約420万トンなので、世界の人を助けられる以上の食べ物を、日本人は捨てている。やっぱり、ごみって心なんですよ。もったいないなと思う気持ちだとかを、持ち続けなきゃいけないと思いますね。

——今後、こんなことが形になったらいいなと思うことはありますか。

滝沢 どこかの自治体と組ませていただき、ごみを減らして浮いた処分費を、福祉や教育とかに回せたらいいなと思っています。福祉や教育の予算を上げるために税金を上げますではなく、福祉や教育に力を入れたいので、ごみを分別しましょうっていうキャンペーンとかやれたらおもしろいなと思いますね。

◆環境省は2020年10月に「サステナビリティ広報大使」を創設。その第1号に、ごみ収集を通じた体験を発信している滝沢さんを任命した。「サステナビリティ」とは「持続可能性」、つまり「将来にわたって、機能を失わずに続けていくことができるシステムやプロセス」のこと。

◆2021年6月に『ゴミ清掃芸人の働き方解釈』(集英社インターナショナル)を刊行。感染対策をしつつ、滝沢さんらしいフレンドリーなサイン会を開催。
インタビューを終えて 高村麻代
収録で印象的だったのは、滝沢さんのお話から伝わってくる「ワクワク感」でした。環境問題というと構えてしまいますが、滝沢さんのように「目の前にあるごみをどうしたら減らせるか」「ごみにしないために何ができるか」が大きな一歩であり、それを楽しみながら続けることが大切なのだと感じました。まず私は、消費期限切れの食材を出さないよう冷蔵庫の片づけから始めてみようと思います。
収録時のスタジオの様子。

※この記事は、2021年6月1日放送「ラジオ深夜便」の「ごみ収集で社会が見える」を再構成したものです。
構成/後藤直子、元田光一

(月刊誌『ラジオ深夜便』2021年9月号より)

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