3月4日の「深夜便」でNHKの「名曲アルバム」の中から器楽・室内楽の名作をお届けしました。「名曲アルバム」は5分間のミニ番組。クラシックに限らず誰もが耳にしたことのある世界の名曲を、作品ゆかりの地の美しい映像と字幕の解説とともにお届けしています。お好きな方も多いと思います。

放送が始まったのが1976年。もう半世紀近く前になります。私もそのころからこの番組に親しんできました。今回「深夜便」で放送したものの中にも、かつて見た覚えのあるものがいくつかありました。

中でもタレガ作曲「アルハンブラ宮殿の思い出*1」は、スペイン・グラナダの町や宮殿のたたずまい、そしてギターを演奏するしょうむら清志さんの姿などが印象に残っています。細かなトレモロ奏法で哀愁を帯びたメロディーが奏でられるこの曲、ギターの定番ともいえる名曲ですよね。

*1 「名曲アルバム」では、地元の発音に近い「アランブラ」と表記している。

去年Eテレで、最初期の名作選が放送された折に、この「アルハンブラ宮殿の思い出」も久しぶりに見ることができました。丘の上の城、宮殿を彩るアラベスク模様、白い壁の家並み、狭い路地をゆったりと歩く人、屋根の向こうに見える青い空……。絵のような風景が広がります。

宮殿があるグラナダは、かつてイスラム教徒の国の都でした。画面からはイスラムとスペインの文化が融合したエキゾチックなムードが伝わってきます。フィルムで撮影された映像は雰囲気があって、懐かしさを一層かきたてられました。字幕の解説では、アルハンブラは「赤い城」という意味であるとのこと。こうした解説があるのもありがたいですね。

「名曲アルバム」は演奏も一流の演奏家によるすばらしいものばかり。今回「深夜便」でお届けしたハイドン作曲の「弦楽四重奏曲“皇帝”」は、NHK交響楽団のコンサートマスターや首席奏者による格調高い名演奏でした。こうした優れた演奏があってこその「名曲アルバム」なのだと改めて実感しました。

名曲の名演に美しい映像。5分間の凝縮された世界に癒やしの時間が流れます。

(まつい・はるのぶ 第1・3月曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年5月号に掲載されたものです。

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