撮影/齊藤文護

子ども時代に戦争を経験し、“変わらないもの”を求めてカトリックのシスターの道に入ったすずひでさん(93歳)。母校の大学で教授として日本近代文学を長年教えた後、今は各地で生き方に関する講演や執筆を行っています。
気付けば90歳を超えていたという鈴木さんが、穏やかに生きるコツは「まぁいいか」。過去や未来にとらわれず、今を機嫌よく過ごすヒントを語ります。

聞き手 遠田恵子この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年6月号(5/16発売)より抜粋して紹介しています。


機嫌がいいのは、すてきなこと

──鈴木さんがこれまで出された本は、170冊以上。中でも、評論家の樋口恵子さんとの対談集『なにがあっても、まぁいいか』は、特に魅力的なタイトルですね。

鈴木 樋口さんは同い年で、戦争中のことなど共感し合うことが多く、話が尽きませんでした。「まぁいいか」という境地に達していたのも一緒だったんですよ(笑)。二人とも何が起こっても、「まぁいいか」の精神で過ごしているんですね。

──「高齢者は機嫌よくいましょう」とおっしゃっているのも印象的でした。

鈴木 私、この言葉はいろんなところで言っているんです。30代初めのころ、シスターの修行のためにフランスに行きました。まだ戦争の焼け跡が残る日本から一転、きれいに整えられたニースを通りマルセイユに着いて。街の美しさに感動していたら、フランスの修道院の院長がふっと、「フランスで大事にしていることは、みんなが機嫌よくいることですよ」とおっしゃったんです。その言葉がストンと落ちて、今も自分の中に生きているんですね。  

私は、不機嫌でいることはハラスメントだと思っています。誰だって機嫌の悪い人は避けるし、機嫌のいい人には近づきたくなりますよね。それに、嫌なことがあっても「まぁいいか」と思って気にしなければ、自分が落ち込むこともないし、他人への恨みつらみに発展することもないんです。


本当に変わらないものを探して

──鈴木さんはどうして祈りの道に入ったのですか。

鈴木 子ども時代は戦争真っただ中で、目の前で友達が機銃掃射で殺されるなど、本当につらい体験をしてきました。学校では、「天皇陛下の真影しんえいの前で、必ずおじぎをしてから教室に入るように」と先生から厳しく教えられて。

でも、1945(昭和20)年8月15日に戦争が終わって9月に学校に行ったら、御真影前で丁寧におじぎしている生徒を窓から見た教頭先生が、「あのばかが、まだおじぎしてる」って言ったんです。「あれだけ大事なことだと指導していたのに」と、ものすごくショックを受けました。以来、“決して変わらない価値”とは何かということを考えるようになったんです。

※この記事は2025年2月20日放送「老いを学びながら生きる」を再構成したものです。


鈴木さんの人生を変えたという親友・曽野綾子さんの体験談や修道院での生活、臨死体験で得たものなど、鈴木さんのお話の続きは月刊誌『ラジオ深夜便』6月号をご覧ください。

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