吉原のだいもんを代表する花魁おいらん誰袖たがそで。幼いころからつたじゅう(横浜流星)に恋心を抱いていたが、田沼意知おきとも(宮沢氷魚)と出会うや一目れ。松前藩の不正の証拠をつかめたら身請けしてもらう約束を意知と交わし、松前家江戸家老のひろとし(ひょうろく)にぬけ荷​密貿易をそそのかすが……。可愛かわいらしさとしたたかさをあわせ持つ誰袖について、演じる福原遥に聞いた。


「身請けされたい」という気持ちは、誰袖にとっては“希望”

──誰袖は、かをり時代から蔦重にぞっこんでした。どこにかれていたと思いますか?

蔦重の見た目、きれいな顔立ちだと思います(笑)。誰袖は、そういうところから人を好きになるタイプなんだと私は解釈しています。そして、心の温かさや包容力があいまって、心の支えになっていたのではないでしょうか。蔦重は、小さい頃からずっと近くにいて、頼りになる、甘えられる存在。そんな温かな関係があったから、つらい境遇を乗り越えてこられたのだと思います。

意知さんについても同じです。単純に「あ、かっこいい」から好きになる女の子で、意知のりんとした、落ち着いた雰囲気にも「すてき」と思って心惹かれた。それで、蔦重から意知に心が移っていったのだと思います。

最初に台本を読んだときは、変わり身の早さにびっくりしました(笑)。本当に心変わりしたのか、監督にも誰袖の本心を確認したくらいで……。今は、「そういう子なのか」と納得してやっています。

──意知の力になろうと、松前廣年に抜荷をそそのかすなど、したたかな一面もありますね。

そうですね。誰袖は、蔦重が好きだった時もそうですけど、相手を好きになったらちょとつもうしん。意知が大好きと思ったら、そこしか見えない。周りが見えなくなるくらい追いかけてしまう……。

これが危ない橋だっていうのは、理解していると思います。でも、それだけ意知への思いが強くなっているわけで……。「身請けされたい」という気持ちは、蔦重に対しても言っていたことで、誰袖にとっては“希望”と言っていいくらい強い感情なんだと思います。その思いの強さは、大切に伝えたいです。


素の誰袖はそんなに強いわけじゃない。花魁として生きていく中で、否が応でも身につけたもの

──誰袖は、福原さんにとってチャレンジングな役どころではないでしょうか?

そうかもしれません。毎回、新しい台本をいただくたびに、誰袖の強さや新しい一面がわかって、私も彼女に追いつけるように頑張らないと、と思っています。でも、誰袖本来の部分はそんなに強いわけじゃないだろうとも思うんです。花魁として生きていく中で、いやおうでも身についた強さなんじゃないかなって。

素の彼女は、天真爛漫てんしんらんまんで、純粋な女の子。小悪魔っぽいあざとさ、したたかさは、あくまで身につけたもので……。だから、私も、そこはあまり意識しないように、素の彼女が垣間かいま見えるようにできたらいいなと思っています。

──意知の正体がわかったことで、誰袖に心の変化はあったと思いますか?

位の高い人だとは思っていましたけど、田沼意知だとわかって、「まさか」と衝撃もあったと思います。

でも、誰袖としては、相手が誰かよりも自分の思いを伝えたい方がまさっていた気がしています。「とにかく私は好き! あなたも好きでしょ?」って……(笑)。そして、いつか絶対身請けをしてくれると信じている。相手がどうこう以前に、とにかく自分が一緒にいたいという気持ちが強いのではないかな、と思っています。

──意知の魅力と、それを演じる宮沢さんについての印象を教えてください。

意知はとにかく凜としていて、ものじしない、動じない、すごく落ち着いてる雰囲気がありますよね。それが、誰袖にとっても魅力的なんだと思います。誰袖は他のシーンではいつも走り回っている印象ですけど、意知とのシーンでは、時間がゆったり流れる感じ。彼女にとっても、安心できて、落ち着く居場所なんだろうなって思います。

宮沢さん自身も、すごく落ち着いた、包容力のある方なので、誰袖と同じく、私も宮沢さんとのシーンでは安心してのぞめている気がします。今回、私は今まで感じたことがないくらいすごく緊張していて、撮影の3日くらい前から胃がキリキリしてしまうくらい。なので、優しく寄り添ってくださることに感謝しています。


初めての大河ドラマは、こんなに緊張することあるかなってぐらい緊張している

──大河ドラマ初出演ですが、オファーを受けたときのお気持ちはいかがでしたか?

大河ドラマは家族も大好きで、「いつか出られたらいいね」と、よく言われていました。だから、お声がけいただいてうれしかったです。最初に報告したのは母でしたが、泣きそうになりながら喜んでくれました。

──今回、花魁を演じるにあたってどんな準備をされましたか?

上野で、「大吉原展」という展覧会をやっていたので、うつせみ役の小野花梨ちゃんと一緒に見に行って、吉原のこと、花魁のことをいろいろ勉強しました。それから、花魁が出てくる作品をたくさん見て、仕草しぐさとか、しゃべり方、間の取り方を研究しました。でも、いざ始まると、できないことばかりで……。

花魁らしい動き、例えば歩き方、色っぽく見せるしぐさ、目線づかいとか、所作の先生に「こういうときはどうしますか?」と、毎回尋ねています。すべての動きがしなやかなんですよね。しなやかだけど、芯はぶれない。そこがいちばん大事だと思ってやっています。

セリフもほかのドラマに比べてなかなか頭に入らないので苦労しています。言葉指導の先生にイントネーションや強弱をひとつひとつ確認したうえで、呪文のようにずっと家で繰り返し練習して……。聞いたことのない単語がよく出てくるので、まずは、それを調べて理解して。そういったところから頑張っています。

──誰袖という役について、どんなキャラクターと捉えていますか?

第一印象は、天真爛漫で、無邪気で、可愛らしい女の子だなって思いました。でも、花魁として、いろいろとつらい経験もして、それを乗り越えて、今のたくましい誰袖ができたと思うので、そこを忘れずに演じたいと思っています。

──大文字屋で育ったことが、誰袖の人格形成に何かしらの影響を与えたと思いますか?

そうですね。大文字屋(伊藤淳史)さんは、ほかの旦那さんたちよりもエネルギッシュです。そんな大文字屋にしごかれてきたので、エネルギーいっぱいの誰袖になったんだろうなと想像してます。

──大文字屋との共演は二代にわたります。いかがですか?

楽しいです! 大文字屋さんって明るくてパワフルなキャラクターですし、伊藤さんはアドリブも多いので掛け合いが楽しくて。一代目と二代目とで、キャラクターを変えて演じられているのもすごいですよね。特に二代目は、すごくチャーミングで、楽しく撮影させていただいています。

──ひょうろくさんとのお芝居はどうですか?

誰袖がわざと身を寄せたり、わがままを言ったりして、ドキッとさせるシーンが多いんです。ひょうろくさんはそのすべてに困った表情をしたり、おろおろされたりと、受けてくださって……。それがなんともキュートなんですよね。クスッと笑えるシーンになっていて、撮影も楽しくやらせていただいています。


話が進むごとに誰袖のいろいろな面が見えてくるのを楽しんでいただけたら

──誰袖独特の笑い方「んふ」は、台本ではどう表現されているんでしょうか?

ほとんど全部のセリフに「んふ」って書いてあるんです(笑)。だから、彼女はいつもにこやかで笑顔でいる女性なんだろうなと受け取りました。その笑顔で周りを魅了して、心をつかむ。そんな彼女の特徴、魅力を出せたらいいなと思っています。

私にとっては、これまで演じたことがないキャラクターで、視聴者の皆さんからどう見ていただけるのか不安な部分もあります。でも、脚本の森下佳子さんが書かれた「JIN -仁-」は大好きな作品。その森下さんが書いてくださった役を演じさせていただけること自体がうれしいですし、次はどうなるのかな? とワクワク楽しみながら台本を読んでいます。

これから、お話が進んでいくごとに、誰袖のいろいろな面が見えてくるので、皆さんに楽しみにしていただけたらと思います。